DEEP METAL BATTLE

すぎな之助(旧:歌帖楓月)



22 眠りにつくまでに(18禁)

 !ご注意ください!

 この話は、18才以上の年齢の方で、グロテスクな表現を受け入れられる方を対象とさせていただきます。
 18才よりも年下の方は、見ないでください。
 グロテスクな表現が受け入れられないという方も、見ないでください。
 ここにかいてあることが、「わからない」とおもった人も、見ないでください。
 今回の話は特に読む人を選ぶと思います。
 「なにが書かれていても大丈夫」な人だけ、自己責任で読んでくださいね。

 では、以上のことを了承した人は、画面をスクロールしてください。


























 20時、大人たちは香辛料の効いたカレーを、少女はヨーグルトと蜂蜜を加えた甘くまろやかなそれを食べ終わった。
「あーおいしかった。ゼルク君、ありがとね!」
「ガイガーの言った通り、とてもおいしかったですわ。ごちそうさまでした」
 新婚夫婦がにこやかに礼を言う。
 ゼルクが微笑み返す。
「どういたしまして」
「……中将、すごくおいしかったわ。ごちそうさま、」
 ロイエルの言葉に、保護者は安心して笑う。
「よかった。全部食べられたね」
 ゼルクは安心してほほえんだ。さきほどの味見の時、彼女に、うっかり辛いカレーを食べさせてしまったのだ。辛いのが苦手だとは、当の本人すら知らない事実だった。ホラー映画もだ。辛いのが苦手、怖いのが苦手……意地を張って凛とした様子の少女だが、実はひどく繊細なのだとわかった。
「ロイエルちゃん、また色々作ってもらおうね。ゼルク君、料理上手だからね」
 ガイガーがニコニコニコニコと甘く笑ってロイエルに話しかける。構いたくて仕方ないらしい。
「……あの、」
 ところが、ゼルクとどんな距離感で接したらいいのか決めあぐねている少女には、答えるのが難しい話題だった。ニコニコ笑って「そうですね」などと言えるほど、内心の複雑な思いに収拾はついていない。
「口に合えば嬉しいな」
 さらりと、かばう様に言葉を紡がれて、ロイエルは、ぽかんとゼルクを見た。自分には、そんな卒のない言葉は出ない。
 ゼルクは、軽く笑ってロイエルを見て、「お茶淹れようか?」と言った。
「やったーゼルク君がお茶淹れてくれるって!」
「あらすみません」
 夫婦は嬉しそうに待つ姿勢である。
 ゼルクは椅子から立ち上がった。
「ロイエル、手伝ってくれる?」

 台所に消えた二人を見送って、ガイガーはニタニタと笑った。
「かぁわいいなあ、ロイエルちゃん」
 ユリは、鼻の下をのばすガイガーを見ると、溜息をついた。
「ほんとに。あなた方お友達の間に置くには心配だわ」
「ユリちゃんだめだよ。ゼルクくんがせっかく村から連れ出したんだから。とりあげたら、彼、泣いちゃうよ?」
「そんな人じゃないでしょ。よくわかってます。うちのビル壊す勢いで取り返しにくるんじゃないの?」
「はい。そんな人です。僕のお友達のことわかってもらえて嬉しいなあ」
「はいはい。……まあ、しばらくはこの部屋使っていただいて構わないんだけど」
 ユリは、そこまで言うと、声を小さくした。
「そのあとが心配。公邸に連れて行くのかしら?」
 熊のような男は面白そうに笑う。
「連れて行きたいんじゃないかなあ」
「ゼルクさんお忙しいんでしょ? お家に、ロイエルちゃんが独り残ることになってしまうわ?」
「そうねえ。どうするのかな?」
 よっこいしょ、と、声をかけて、ガイガーは椅子から立ち上がった。
「ガイガー?」
 管理官は、妻に微笑みかけた。
「頼んでたものが届いたみたいだから、下に取りに行ってくるね。うちの課からゼルク君へのプレゼント」

「首都って電気でできてるのね」
 電気ポットから湯冷ましに熱湯を入れる中将を見ながら、ロイエルは肩をすくめた。
「うまいこと言うね」
 ゼルクは苦笑する。
「本当のことでしょう? 私は、首都にきてから、電気以外のもので動く道具、みたことない」
「嫌?」
「……がっかりするの。私がすることなくなっちゃう」
「あえて使わない生活を選ぶ人たちもいるようだけどね。どちらがどうとは言わないけど」
 ロイエルは眉をひそめた。
「別に、毛嫌いしてるわけじゃないのよ?」
「うん」
 危ないから貸して、と、ゼルクは軽く微笑んで言って、ロイエルが取っ手を持ち上げようとした湯冷ましを、引き取った。
 少女は複雑な顔をした。村では一度もそんなことを言われたことはないし、されたこともない。診療所では家事全般を担っていたのだ。
「中将、」
 少し不機嫌になる。
「わたし、赤ちゃんじゃない」
 過保護だったかな、と、月色の髪の青年は首を傾げた。
「ごめんね。やけどさせたくなかったから」
「そんなに不器用じゃないわ? 私、家のこと、だいたいできるの。まあ、領主の館に勤めている人ほどじゃないけど」
「じゃあ、明日はお願いしようかな」
 会話しながら、ゼルクは緑茶を淹れていく。青い薫りが立ち上る。
 ……領主の館で使われてるような良い茶葉だ。ロイエルは、やっぱり自分が淹れてみたかったなと思った。

「ガイガーは?」
 ロイエルには茶菓子を持たせて、ゼルクが食卓に戻ると、悪友の姿はなかった。
「下に。すぐに戻ってきますよ」
 清楚に微笑んで答えるユリに、中将は軽く息をついた。
「……嫌な予感しかしませんね」
「ふふ」
 二人の大人が話をする間に、ロイエルは、保護者が卓に置いたお盆からお茶を配り、自分がもっているお盆から、皿にのったお茶菓子を配った。菓子は、ガイガー夫妻が持ち込んだもので、きれいな焼き菓子だった。
 これはどうやって作るんだろう、と、ロイエルが見つめていると、ユリが声を掛けた。
「ロイエルちゃん。もしかして、お菓子を作ったりする?」
「はい。診療所に来る患者さんに配ったりしてました。……あ、もちろん、糖分を取っていい人たちにですけど、」
「いいねえ。今度御馳走してくれないかなあ」
「ガイガー」
 ロイエルとユリの間に、ぬっと顔を突っ込んだ熊男の襟首を、少女の保護者が、ぐいと掴んで引き離した。
 可憐な少女と仲良くなりたい管理官は、邪魔されて、ぶう、と頬を膨らました。
「いくら僕が愛らしいからって、猫扱いしないでよ」
「はいはい。お茶が冷めまーす。みんな席についてくださいな?」
 細君がとりなす。 
 
 20時45分、新婚夫婦は、改めて夕食の礼を言うと、席を立った。
 帰りしなに、ガイガーは、もってきていた「プレゼント」を友人に渡した。
「はいこれ。ゼルク君にあげる」
 青年は、悪友が差し出したノート型パソコンを受け取ってから尋ねた。
「どこのだ?」
「やっぱ受け取るんだ。仕事熱心だね。そして、安心してね。うちの課のお仕事だよ。ケイタムイ事件関連の。そうそう、研究院には、ゼルク君たちの行方、まだ知られてないからね」
「明日まで持つかな?」
「うちの優秀な部下さんたちの頑張りによるけどねえ。今のところ、お約束できるのは明日までかもね」
「わかった」
「じゃーね。お休みーい」

 夕食の後片づけを終えると、21時を回っていた。
「村ではいつも何時に寝てたの? まだ起きてる時間?」
 ゼルクが問うと、ロイエルは嬉しそうに笑った。
 自分に微笑みかけてくれる訳がないので、……嫌な予感がする。
「10時よ。夜はとても神聖な時間なの。ドクターと体を清めあって、私の体に不備がないか診察してくださって、オウバイ様に寝る前のお祈りをして、そして眠るのよ」
「……」
 清めあう、と、言った。
 努めて冷静に、なんでもないことのように、穏やかに、確認してみる。
「一緒に沐浴するの?」
「夏はね。それ以外は、ドクターが風邪を召されると大変だから、温かいお風呂に一緒に入って清めあうの」
「……」
 なんと言えばいいのか。
 澄んだ目に穢れのない微笑みを見る限り、不埒なことはされていない、と、思いたいが。
 ロイエルの常識はこちらの非常識、という場合が多い。
 色々と考えることが発生しているが、表面上は落ち着いて見える中将に、生贄だった少女は、さらなる言葉を嬉しそうに追加した。
「特に、月の物の時は、私の体が穢れてるから、」
「待ってロイエル」
 遮った。
「どうしたの?」
 ロイエルが、心の底から純粋に不思議そうな顔をする。ゼルクは言いたかった言葉を引っ込めて、まずは事実の確認に努めようと思い直した。初めて会った時の、湿地のほとりでの会話に似ている。
「ああ、ごめんね。……月の物って、月経で合ってるよね?」
「知ってるのね。そうよ」
「そのときも、清めあうの?」
「そうよ」
 開けてはいけない扉だとはわかっているが、気づいた以上、閉じたままにしておく訳にはいかない。この子を、知らないと。
「どうやって清めるの?」
「それはね、」
 ロイエルは、すべてを奪った彼にこそ聞かせたかった。尊敬する大好きなドクターとの、一番清らかな時間。彼が破壊した、私とドクターとの神聖な関係、そのことを反省してもらうためにも。

 22時。
 すべてを話して清々した様子のロイエルを寝室に送って、ゼルクは、部屋を二つ隔てた書斎に入った。
 執務机にノート型パソコンを置き、
「アインシュタイン」
 友人の名を呼んだ。
 果たして、苦虫をかみ潰した表情の大魔法使いが現れた。淡い灰色の詰襟の長衣という、彼だけが着用を許された、研究院での制服姿で。
「ロイエルが話しちゃったか」
 中性的な顔立ちをした、薄紫色の長髪の青年が、机をはさんで、ゼルクの目の前に立つ。時間魔法を操れる彼には、すでにお見通しだ。
「ああ」
 月色の髪の中将は、魔法使いにうなずいた。
「自分の目で見たい。遡及魔法で私に見せてくれないか?」
「わかった」
 彼女のきれいなままの瞳が脳裏から離れない。
「……信じ込まされていれば、汚泥の味も純水になるのかな?」
 漏らされた言葉に、アインシュタインは「味は水でも泥だから。腹壊すに決まってるだろ」と返した。そして、きっぱりと首を横に振って言い加えた。
「泥は泥。水は水」
 中将は、安心できた。
「そうだね」
「そうだよ。……じゃ、」
 アインシュタインは、ゼルクの両目に左手をかざした。視界が現実から時を超えたものに切り替わる。



 冬の夜だった。
「さあロイエル、一日が終わりますよ。二人で体を清めましょう」
「はい、ドクター」
 少女が用意する風呂は、いつも、ぬるめの適温で、それは熱い湯を嫌う医師のためだった。
 医師は脱衣所に鍵を掛けて、少女の衣服を脱がす。医師のおさがりのズボンとシャツ。初潮を迎えて以降は、男子用の子供服を処分し、服は自分のおさがりを与えて、女物の質素な下着を買い与えた。ズボンをくびりつけている布ひもを解くと、すとん、と、それは木の床に落ちる。華奢な少女には不釣り合いな、中年の男物のズボン。袖を巻き上げて着ているシャツのボタンを下から外していく。男物のシャツの合わせ目から、飾り気が全くない下着があらわになる。ことさらゆっくりと、医師は少女の下着を脱がした。全てを解いた少女の肢体はまばゆく美しかった。信じ切っている顔をして、惜しげもなく体を晒し、少女は医師に微笑みかける。
「ドクター、ありがとうございます。では、今度は私がドクターのお洋服を脱がせますね」
「頼みますよ、ロイエル」
 細い指が、医師のネクタイに手を掛ける。優し気な所作で、男の衣服を脱がしていく。
 シャツを脱がし、ズボンを下ろして、白い下着姿にする。
「ドクター、掛けてください」
「ええ」
 医師は簡素な木製の椅子に腰を下ろす。少女は床に膝をついて、腿の上に医師の片足を載せる。黒い靴下を脱がすのだ。
 少女は医師の足を白魚のような手でやんわりと包んだ。
「爪が伸びましたね。切りましょうね」
「そうしてください」
 少女は立ち上がると、洗面台の引き出しから爪切りとやすりを取り出した。
「ロイエル、経血が出ていますよ」
「あ、」
 少女は振り返ると、「ごめんなさい」と、医師に謝った。
 医師の視線は、少女の白く形の良い尻に注がれていた、内腿に、紅い線が一筋流れ始めている。
「早くすませますね」
 医師の前に歩み寄り、また、床に膝をついて、医師の足を腿の上に載せると、丁寧に爪を切り始めた。浴場も脱衣場も、医師のために小さな暖房機がおいてあり、暑がりの男の肌には寒くはない。だが、月経を迎えて二日目の少女の下腹部は、冷えを敏感に感じて、鈍く痛んでいた。
「終わりました」
 医師の爪を切ってやすりを掛け終え、少女は医師の下着を脱がせた。
 ニスを塗ってない、乾いた白い木の床に、紅い小さな点がぽたりと落ちる。
「ロイエル、床が汚れましたよ」
 医師の目が舐めるように経血の流れを見つめる。
 少女は従順に謝る。
「ごめんなさい。後で掃除をしておきますね」
 この夏には17になる少女の、なめらかで優美な曲線を描く肢体が生み落とす血潮。やがては祖母のものとなる肉体、その腹の奥で、子を成す為の準備が整っている証。鮮やかな血の色。
 医師は、たまらなくなる。
「……そうだ。オウバイ様にお話することがありました。あなたは先に浴室に行っててください」
「はい、ドクター」
 少女はにっこり微笑むと、命じられた通り浴室にいった。
 医師は、床に落ちた経血の前に膝をついた。荒く息をつく。
「オウバイ様、ああ、麗しの御祖母様」
 陰茎を握り、亀頭を経血の付いた床にこすりつける。恍惚の表情で、医師は独りつぶやく。
「もう少しですよ。貴女様と私の楽園まで」

 白い薬用石鹸を、硬く織られたタオルにこすりつけて、二人は体を洗い合った。
 最初は医師が少女を洗う。尊崇する祖母への生贄に、汚れなどあってはならない。医師は、立たせたままの少女の頭を執拗に洗う。それが終わると、頭よりもずっと長い時間をかけて体を洗っていく。白くなめらかな背中を擦り、痩せた腹をこすりあげた。優しくはない行為に、生理痛が酷くなる。しかし少女は幸せそうに笑っていた。やがて医師は少女の柔らかな乳房に、布越しに触れる。ごくり、と、医師の喉が鳴った。少女は気づかず身を任せて立っている。
「ロイエル、」
「はい。ドクター」
「オウバイ様のお姿はどのようだと思いますか?」
「世界一の美女だと、ドクターから教えていただきました」
「そうです。そうですよ、ロイエル。オウバイ様は美しいお方です。この世の誰よりもね」
 湿った息を吐き、乳房をことさら強く洗い、そして手は内股に伸びる。
「あなたはオウバイ様の道具です」
「はい」
 硬いタオルが、柔らかな肌に触れる。アルカリの強い石鹸に、柔肌が小さな痛みを訴えるが、少女の幸せに傷一つつけられなかった。
 性器を布越しに丹念に洗う。医師は、決して今は触れることが許されない、子宮へ続く繊細な入口に、いつもこだわった。
「ロイエル」
「はい、ドクター」
「あなたは、オウバイ様の楽園を作るための道具です。いいですか。ゆめゆめ、そのことを忘れないように。自分をわきまえてくださいね」
「はい」
 タオルが、泡と経血にまみれた。
 いつか来る約束の日まで入ることができない奥つ城をあきらめて、手は内腿へと下りる。
 女神に夢を見て、女の体を知ろうともしない医師は、だから、愛撫の加減を知らなった。結果として、少女は医師の劣情を知らないままで育った。

「さて、私の体を清めてください、ロイエル」
「はい、ドクター。喜んで」
 浴室用の椅子に腰を下ろした医師は、清めた少女に体を洗わせる。
 白い石鹸を手に取り、硬く泡立てると、少女は医師の頭を丁寧に洗った。最近、彼は抜け毛を気にしており、頭の清潔には特に気を遣っている。お湯で髪についた泡を流して洗髪を終えると、硬いタオルに石鹸をつけて、首から下へと体を洗っていく。中年になり、あまり運動をしない医師の体には脂がのってきている。ただ、贅をこらした食事はしないので、中肉で踏みとどまっている。少女は、まるで御神体にするかのように丁寧に心を込めて、そんな医師の体を洗った。肩、腕、背中、胸、腹の順で洗っていく。そして、腰と両足を洗って、最後に性器が残った。この順番は、少女が初潮を迎えたときに、医師から指示された。
 一旦、タオルをゆすいで、また新しく石鹸をこすりつける。
「ドクター、脚を広げてください」
 一日の穢れが一番たまるのがここです、と、言われたのだった。
 少女は、医師が広げた脚の間に膝をつくと、すでに屹立している性器を、石鹸を泡立てたタオルで包む。
 力加減も、医師が教えた。最初は、薄皮を小刻みにゆするようにやんわりと上下にしごけと。
「ああ、そうです、ロイエル……」
 医師から湿った声が漏れる。
「上手ですよ、」
 褒められて、少女は微笑む。
「私、役に立ってますか?」
「ああ、いい子ですねロイエル。君はいい子だ」
 はっ、はっ、と、細かく息を吐いて、医師は指示する。
「亀頭の先を少しこすってください。ああ、もっと強く、いい子ですね、ああ、」
「大丈夫ですか? ドクター。苦しくないですか?」
「大丈夫ですよ。私にはオウバイ様がついていますからね。ああ、出る、穢れが出る、ああ、」
 医師は、腰を前後に揺らし始めた。
 いつも、少女はそれを見ていて不安になる。日中は穏やかな医師が、とりみだすからだ。穢れとはこんなに恐ろしいものか、と、少女はおののく。どうして医師だけこんな辛い目に、と、過去に少女が問うた時、医師は、「オウバイ様が私に与えた試練ですからね」と微笑んだ。少女は、そんな医師をささえようと思った。
「ああ、ああ、ああ、」
 医師は荒い声を漏らしながら、少女が両手で包んだ泡まみれのタオルに、脈打つ男根をこすりつけた。
「ロイエル、もっとしごいてください。穢れが出ません。ああ、オウバイ様、オウバイ様ぁ、」
「ドクター、」
「ロイエル、怖がらないで、もっと強くしていいんですよ、でないと穢れが出せません、」
「ごめんなさい、ドクター」
「ああ、ロイエル、もっと強く!」
 少女の両手の中で、医師の陰茎がびくびくと痙攣している。医師の性器から穢れが出る瞬間が、ロイエルはいつも怖くてたまらない。石鹸の泡と先走りでぐずぐずになったタオルに、医師は腰を前後に振る。
「オウバイ様っ、オウバイ様ぁ、……うっ!」
 タオルに、熱いものがぶちまけられた。
 それが穢れだ、と、医師は言っていた。

 射精して脱力している医師の肩に、少女は温い湯をかける。
「ああロイエル、……後始末を、してください」
 熱に浮かされたような声。
「はいドクター」
 少女は素直に指示にしたがう。これも、初潮が始まったときから言い含められていることだ。
 医師の全身にゆっくりと湯を掛け、硬く絞った柔らかいタオルで、浴室用の椅子に腰かける体を丁寧に拭いていく。特に、萎えて敏感になっている男根を優しく包んであげる。
「ああ、気持ちいい……、ロイエル、いい子ですね。さすがオウバイ様の道具だ……」
 少女は、医師が一息ついたので、安心した。と、同時に、自分の腹の中の痛みを思い出した。浴室の床を見下ろすと、点々と血が落ちてにじんでいる。
 医師を汚してはいけないと思い、湯船に入ることを勧めようとした。
「ドクター、」
「ロイエル、こうしていてください」
 ぐい、と、細い腕をつかまえて引き寄せ、医師は少女の胸に顔をうずめて抱き着いた。
「穢れを出したあとですから。私はきれいですよ」
「ドクター、私は血で汚れています」
「そんなことは気にしないでいい。あとでゆすげばいいではないですか」
 ずくん、と、腹が痛む。これは喜びだ、と、少女は思っていた。
「はい。ドクター」


 魔法使いの左手が、中将から離れた。
 お互いに、苦い顔をしていた。
「ゲスだよな」
「ああ」
 ゼルクは溜息をついた。さきほどの、嬉しそうで誇らしげなロイエルの話ぶりを思い出していた。
「どうしたものかな」
 きれいな心のままで歪められている。
 一朝一夕になんとかなるものでもないだろう。
 時間を掛けて、愛情を注いでいかねば。
「ロイエルのこと、離さないようにな」
「今のところ嫌がられているけどね。離す気はないよ」
「なら安心。ああ、それから、新しい潜伏先だけど」
「酷い言い方だな」
 ゼルクが苦笑すると、アインシュタインは「あはは」と返した。
「封印された鬼将のところなんて、どうだ?」
「アストンの?」
「歓迎してくれると思うぞ」
「たしかにあそこならば、研究院も手は出せなくなるが、」
「ロイエルが心配?」
「彼は気難しいからな……」
「逆に、気に入られて取られる恐れもあるぞ」
「渡さない」
「あはは」
 ロイエルの保護者は、執務机の上に置いたノート型パソコンを開いた。
「なにより、ガイガーの職場の隣だからな」
 友人の言葉に、ふっ、と、魔法使いが軽く笑った。
「それは、心配なのかな安心なのか、どっちだ?」
「どっちもだな。ありがとう、考えに入れてみるよ」
「ところで、あの子にホラー映画見させたのは、やっぱりまずかったな」
「……」
 急な話の持っていき方に、中将は真面目な顔になった友人を見た。
「ロイエルがどうかした?」
「ガイガーはもっと叱られるべきだと思う。DM抜いた時並みにうなされてる」



 ロイエルは清々した気持ちで寝床に入った。
 自分とドクターとの絆の清さを、わかってくれるといいと思う。
 彼は誤解しているのだ。彼は嫌な人だけど、悪い人ではないと思う。
 時間を掛けて、理解してもらうしかない。
 そして平和に眠りにつき、間もなく、夢を見る。
 赤黒い泥沼。そこから沢山の青白い手が生えて、ほとりに立つ少女を引きずり込もうとする。
「……!」
 飛び起きる。
 部屋は薄明り。闇ではない。
 それでも、怖い。
 夕刻見た映画の所為だ。そうだ、そうに違いない。
 違う。
 恨まれてなんかいるはずがない。
 お二人は間違っていない。
 違う。
 お二人が間違うだなんてそんなこと、考える私がおかしい。
 はあっと息をついて、頭を一つ振る。
 馬鹿みたい。映画が頭に残ってるだけ。それだけのことだわ。
 ロイエルは上掛けを被り直し、また、眠りに落ちた。
 そしてまた夢を見る。
 沢山の青白い手は少女の足をつかんで沼に引きずり込んでいく。
 息苦しい。
 怖い。
 目が覚めない。
 夢だと思って目が覚めるけどまた夢を見ている。
 体が動かない、苦しい。
 白い手が……
「!」
 薄明り。
 闇ではない。
 でも、日の光の下ではない。
 夜だ。
「……」
 夜は。
 夜は、部屋から出ちゃいけない。
 夜の診療所、処置室の奥で、ドクターが、動脈血を
 切り離されて、白くなった腕を、
 あれは何人分だったのだろう
「違う」
 映画の所為なのに
 違う全部嘘。
 私は映画を見たからうなされてて、ただそれだけで。
 単なる夢だ。
 夢だから。
「ちゅうしょ、」
 駄目。
 どうして頼るの?
 違う。私そんなに弱くない。
 夜だから。
 夜だから、ちゃんと寝ないと、
 ロイエルは、誰かに命じられるように、上掛けを被った。
 無理に目を閉じる。
 もう夢を見ませんように。
 そう、
 沢山の
 青白い顔が、
 嗤う
 赤黒い沼が
 どろりと動く。

 夢か現実かわからなくなった。
 ロイエルは、泣きながら目を覚ます。
 だれかたすけて「お前は用無しだ」そうだもう私は役に立たない
 私は罪を犯した。
 あの白い手は、私の罪を糾弾しているだけで、お二人は関係ない
 お二人は被害者だ
「ふ……えっ、」
 涙が止まらない。
 なんでいきてるんだろう。
 そうだ死なないと

 なんでいきてるんだろう?
 なんのためにいきてるんだろう?
 もうそんな資格ないのに

 ちがう。
 お二人を助けないと。

 だからあの人について、首都に来た。
 生きる資格はないけど、助けなきゃ。
 ……寝よう。

 すぐに、黒い沼と白い手があらわれた。



 書斎の扉が弱く叩かれた。
 少女の部屋に行こうと、中将が扉に手を掛けたのと同時だった。
「ちゅうしょう、」
 青い顔をして、ロイエルが立っていた。
「ロイエル……」
 青年は身をかがめて、泣きはらした夕焼け色の瞳を見つめた。
「怖い夢見た?」
 少女は、きまり悪そうにうつむいて、両手で涙をぬぐう。
「……お仕事の邪魔しないから、おとなしくしてるから、ここにいさせて?」
「邪魔じゃないよ。おいで」
 ゼルクはロイエルを抱き上げて、部屋に入れる。
「違うの。甘えに来たんじゃないの」
 少し寝汗をかいて湿っている薄茶色の前髪に、ゼルクは軽くキスをした。
「震えてるよ。甘えていいんだよ。怖い映画見せたのが悪かったね。ごめんね?」
 首が横に振られた。
「お仕事続けて。邪魔しないから。一緒の部屋にいるだけでいいの」
 苦笑しながら、ゼルクは執務机の椅子に腰掛け、膝の上に少女をのせた。
「邪魔でも迷惑でもないよ」
 机を挟んで向こうに立っているアインシュタインが、友人に軽く手を振って「じゃあまた明日」と挨拶してから、消えた。
 青年は、少女をぎゅっと抱きしめた。
 ロイエルの瞳から、新しい涙があふれていく。
「ごめ、なさい」
「怖かったね。もう大丈夫」
 背中を、優しく、とんとんと叩く。
「……こわかったの、」
「うん」
 素直な言葉が聞けて嬉しくなり、中将は小さな頭をそうっと撫でた。
 しかし、華奢な体はまだ小刻みに震えている。
「中将……」
 ロイエルは、おずおずと顔を上げた。
「甘えていい?」
「いくらでも甘えていいよ」
「ふ……え……っ、」
 少し強めに抱きしめられ、その力強さに安心して、嗚咽まじりに夢の内容を吐露した。
「湿地をほとりから眺めて祈ってるの。そしたら、湿地のなかから……たくさんたくさん白い手が出てきて、引っ張り込もうとするの、……私、みんなと死ななきゃいけないの。わかってるの。でも……駄目なの、こわくて、……こわくて、逃げちゃいけないのに逃げたい、白い手がどんどん増えてく」
「逃げていいんだよ。逃げて? 助けてあげるから」
「そんなわがまま、……駄目」
 村を捨てきれない少女に、中将は、ただ、あやすように頭を撫でてやるしかない。
「……きれいなはずの湿地が、どろどろになっていて、そこから白い手が沢山沢山出ていて、私、どうしたらいいのか、わからないの、」
 ケイタムイの湿地のことをいうのなら、特にオウバイが潜んでいた淵はひどく淀んでいた。それをロイエルがきれいというのなら、彼女はどれだけ歪んだ教育を施されていたのだろう。しかし、今、それを指摘すると、彼女の心をさらに混乱させてしまう。
「ロイエル、私と一緒にいよう? 怖いこと消したげる。守ってあげるから」
「……ひとりだけそんなのゆるされない……」
 少女の瞳から、涙が次々に落ちる。
「わたしひとりだけ助かっちゃったの……みんなおいてきた。患者さんも、ともだちも、ともだちのお父さんもお母さんも、近所の人も、みんな」
「ごめんね。ロイエルしか助けられなかった」
 ロイエルは首を横に振った。
「お二人を……わたし、……どうしたら……、」
 ゼルクは、抱きしめていた腕を解いて、ロイエルの両肩を、両手でそっとつかんだ。そして、目が合うくらいの距離まで身を離す。
「だったら私を恨んで」
 抱きしめてもらえなくなったので、心細そうな顔をした少女には、ゼルクから言われた内容を理解するのに数瞬の間が必要だった。
「……えっ?」
「私が、村から君だけ連れ出した。君は、村を、二人を助けたかった。でも、私がそれをさせなかった」
「中将……?」
「事実だよ。ロイエル、怖がっていい、逃げていい、泣いていいんだよ。ね、だから私を恨んで」
「……」
 少女は瞠目して、言葉を忘れ、しばらく相手を見つめた後、ようやく言葉を作り上げた。
「違うわ。そうだけど……そうじゃない。……中将、……どうして、そんなに、してくれるの?」
 慈愛の微笑みを返され、悲しそうに首を横に振る。
「嫌。私、中将のこと、恨んでるけど、恨めない」
 ロイエルは、両手で顔を覆って泣き出した。
「……困らせちゃったね。ごめんね、」
 中将は少女を抱き寄せた。

 やがてロイエルの震えが収まった。涙も止まり、顔から手を離して、中将の首の後ろにそろりと腕を回す。自分から相手に抱き着いて、遠慮がちに甘える。そして顔をゆっくりとあげて、間近で彼を見つめて、ささやいた。
「中将……」
「うん」
「……口、くちゅくちゅするの、して?」
「……キスのこと?」
「うん。……だめ?」
「いいよ」
 左手でロイエルの髪を撫で、顎の先を右手で軽く持ち上げて、顔を寄せる。
 2、3度、触れるだけの軽いキスをし、ロイエルが薄く口を開いたのを見計らって、深く口づける。
「ん、」
 唇で唇を食み、舌を入れて歯列をなぞる。舌先で口蓋に円を描いて、遠慮がちに絡んできた少女の舌を愛撫した。少し唇を離すと、ロイエルが、もっと、と、舌を軽く出してきた。それを口中に迎え入れて、くちゅり、と、軽く吸ってから舌同士を甘く絡める。
 キスが終わると、ロイエルは体の力が抜けて、ゼルクにもたれかかる。
「中将が寝るまで、一緒にいていい?」
 それどころか添い寝する気でいたが、今ロイエルにそれを言うと遠慮されるので口にしなかった。
「仕事が終わるまでは、このまま抱っこされててくれるかな?」
「うん……」
 ロイエルは、安心したように笑ってうなずき、中将の胸にこてんと頭をあずける。
 やっとなつきはじめた子猫がひざに乗ってきているような嬉しさがあった。
 ゼルクが仕事を始めるとしばらくして、ロイエルがすうすうと眠り始めた。今度は安らかな寝顔を見せていた。

 午前1時。仕事に区切りをつけ、ゼルクは眠るロイエルを抱き上げて、寝室に連れていく。ゼルクのベッドにロイエルを下ろそうとすると、長いまつ毛に縁どられた瞳が、うっすら開いた。
「……ふ、」
 やや開かれた瞳から涙が落ち始める。
「ロイエル?」
「やだ……」
 ゼルクは、注意深くロイエルをみまもる。
 ロイエルは、いやいやと首を振って、ゼルクにだきついた。
「やだ……いっしょにいて?」
 寝ぼけているのか、ひどく素直になっている。
「うん、一緒に寝るから安心して」
「ほんと……?」
「ほんと」
 やんわりと抱きしめ、ロイエルに添い寝した。
「ん……」
 少女は、ぎゅうっ、と、自分から抱き着く。
「離れちゃやだ……ちゅうしょう」
「……」
 素直な様子はひどく可愛らしいが、今までの背景から自分を頼らざるを得ないのが不憫に感じる。
 ゼルクはロイエルの頭を撫でた。
「離れないよ。隣にいるから、ゆっくり寝なさい」
「ちゅうしょう、」
 ロイエルはふわりと笑うと、とろとろと眠りに落ちる。
「おやすみ」
 ゼルクは、ロイエルの額にキスをしてから眠りに就いた。




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