DEEP METAL BATTLE

すぎな之助(旧:歌帖楓月)



超番外編 夏の頭煮え企画
 「マッソウ美人とイケメンガイガーのクロスオーバーザワールド(意味不明)ありえないほど番外編ですから」

2009年8月22日にDMB掲示板に掲載した、「本編8話加筆修正お知らせ」から派生した「突発超番外編」の全貌は、こんな感じでした。

!!注意!! 友情という名のもとに、女性同士でいちゃつくシーンがありますので、苦手な方は読まないでください。

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初めに、
本編8話の加筆修正案内と、
ガイガーの「情報処理課分室」を掲示板に掲載しました。
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すぎな之助(旧:歌帖楓月):
お久しぶりです。
加筆修正8話をお届けします。
おまたせして、すみません。
以下、情報処理課分室をお届けするのですが。
今回のこの分室は、いつにも増しておふざけ度がすごいです。
かなり脱線しています。
「ああ、歌帖は、夏で頭がさらにさらに沸いてるんだなあ」という感じですので。
ふざけたのが苦手な方は、読まないでくださいね。


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ガイガー管理官(25歳 色々と調整大変な中間管理職):
いらっしゃいませ! ようこそおいでくださいました、全国30億人の美しいお嬢さん方!
貴方のガイガーです。
残暑が厳しい現実世界のようですが、加筆修正物語世界におきましても、絶賛夏の終わり中ですよー!
ということで、第8話、加筆修正完了です。
なんだよこれ、どんどん暗いよ。大丈夫かな首都まで。

ブルックリン(仮名):
どうもお久しぶりです。僕のこと、覚えてないですよね。ガイガー管理官の部下ブルックリン(仮名)です。

ジェニファー(仮名):
お久しぶりです。貴方のジェニファー(仮名)です。

ブルックリン(仮名):
……なんか、人格変わってないですか?ジェニファー(仮名)さん?

ジェニファー(仮名):
全然。

ガイガー管理官(25歳 男):
ノープロブレムだよ。
はい。そんな感じで、第8話です。
ベタベタ度多いですか? そうですか。そう言っていただけると、加筆修正した甲斐があるというものです。

ブルックリン(仮名):
……ベタベタ、してませんよね?

ジェニファー(仮名):
何を言っているのブルックリン(仮名)。
ほとんど全編わたってゼルク中将がロイエルを抱っこし続けてるじゃないの?
これをベタベタと言わずして以下略

ブルックリン(仮名):
……やっぱり、性格変わってません? ジェニファー(仮名)さん。

ガイガー管理官(25歳 男):
ノープロブレムだよ。

ブルックリン(仮名):
なんか、二人とも示し合わせておかしくありませんか?
二人の仲が良いってところが、一番おかしくありませんか?

ガイガー管理官(25歳 男)&ジェニファー(仮名):
全然?(ハモリ)

ブルックリン(仮名):
………………。
今日は、変ですよね?
ジェニファー(仮名)さんが、お面かぶっているあたりから変ですよね。

ジェニファー(仮名):
だって私、美しすぎるもの。
素顔さらしたら世界規模で殿方が求婚におしかけてきて、もう大変みたいな。

ガイガー管理官(25歳 男):
そうだよねー?

ブルックリン(仮名):
そういえば、
ジェニファー(仮名)さんって、夏季休暇中でしたよね。
コスタデルソルで、夏の海辺満喫されているとか。
……………………彼女、誰ですか?

ガイガー管理官(25歳 男):
ブルックリン(仮名)君。
いいかい?
世の中には、知らないほうが良いって事が、たーくさんあるんだよ?

ジェニファー(仮名):
ホホホホホ。アチキの正体、知りたい?

ブルックリン(仮名):
……あれ?
「アチキ」って、一人称、どこかで。
……あの、まさか、この人、マッ

ガイガー管理官(25歳 男):
はーい! そんなわけで、その加筆修正を真面目に語りたいと思います。
いいですよね? ジェニファー(仮名)君。

ジェニファー(仮名):
ええ真面目に語りましょう。
ていうか、アチキ、もとい、あたくしいつでも真面目美人ですわ? 管理官。

ガイガー管理官(25歳 男):
うん、よぉくわかっているよ、ジェニファー(仮名)君。
ときに、ジェニファー(仮名)君の、今回一押しってどの場面かな?

ジェニファー(仮名):
えっとねえ、
……。
その前に。
ねえこれ何時になったら極甘展開になるの? コレ。
恋愛物語でしょ? ねえねえ。

ガイガー管理官(25歳 男):
いやあジェニファー(仮名)君は、盲点をガンと突いてくるよねえ。あいたたたた。目潰しなのこれ?

ブルックリン(仮名):
盲点ではなくって、「痛いところ」ですよね……。

ジェニファー(仮名):
ええ、まあ。目の付け所が世界レベルだって、各界から絶賛されてますわ?
今回一押しは、「いやだこわいたすけて!」「大丈夫うんぬん」ここんとこね。
んもう、嫌いなのか好きなのかどっちだよロイエルちゃんはーみたいな。
女の子は素直じゃなくって可愛いわねええ。フフフフフ。フフフフフ。

ガイガー管理官(25歳 男):
あっはっはっは。ジェニファー(仮名)君の笑い声が怖いよう。
なんか企んでるよう。

ジェニファー(仮名):
うちで引き取ったげようか?
いい子守りがいるのよう。

ブルックリン(仮名):
何の話かわかりませんので、話を戻していいですか?

ガイガー管理官(25歳 男):
そうだよね。
ブルックリン(仮名)君、君は今回唯一の良心だ。
君の存在理由はそこにあるよね。

ブルックリン(仮名):
どうも。

ガイガー管理官(25歳 男):
子守はゼルク君だってば。

ブルックリン(仮名):
話戻すんじゃないんですか!?

ガイガー管理官(25歳 男):
君はむなしく良心を叫び続ける役であって、ルールブックではないんだよ。残念だねえ。
この物語での子守役はゼルク君ですよ。ジェニファー(仮名)君。

ジェニファー(仮名):
えええ、そうなの。
ゼルク中将が、あれやこれや手取り足取り?

ガイガー管理官(25歳 男):
そうそう。手取り足取り。
ていうか、……もっと根本的なとこから手取り足取り。

ジェニファー(仮名):
あらぁ、それは16禁で大丈夫なの?

ガイガー管理官(25歳 男):
あっはっはっは。
ジェニファー(仮名)君が考えてるようなことじゃないよ。
嫌だなあもう。僕赤面しちゃう。

ジェニファー(仮名):
ごめんあそばせ。ホホホ。

ブルックリン(仮名):
夏だから、頭がさらに沸いてるんだなあということは、よくわかります。

ガイガー管理官(25歳 男):
いいねえ、いい突込みだよ、今回唯一の良心君。
そうだ、ちょっと、アンネ准将がヒステリー気味じゃなくなってるね。

ブルックリン(仮名):
ええ。性格が少し変わっています。毅然としてるというか。

ジェニファー(仮名):
ホホホ。「独身通せそうな男気を装備したぜ!」って感じかしらあ?

ガイガー管理官(25歳 男):
お、ジェニファー(仮名)君にあるまじきセクハラ発言!
いやあ、さすがこっちのジェニファー(仮名)君は、いろいろ熟成されてるねえ。
苦情を恐れないっていうか。

ジェニファー(仮名):
ホホホホホ。伊達と酔狂だけでは、年は重ねられないのよね。

ブルックリン(仮名):
厚顔無恥で年重ねたっていうか?

ジェニファー(仮名):
あら、この青年君はいい度胸してるのねえ。気に入ったわあ。うちで働かない?

ガイガー管理官(25歳 男):
骨の髄まで利用されるよ?

ジェニファー(仮名):
そうよ優しいわよぉ?
そうだ、一押しといえば、
私ね、領主一家の家族愛最強だと思うのだけど。いかが?

ガイガー管理官(25歳 男):
いいよ。話がどこに飛んでも着いていくよ?
愛にあふれてるよねえ。
あんな家庭に生まれたら幸せだよねえ。

ジェニファー(仮名):
そうよお。
世間の迷惑顧みず。我が家と家族がいっちばん!
こんな家庭に生まれた子どもは幸せよ?

ブルックリン(仮名):
世間とのズレが気になるところですが。

ジェニファー(仮名):
なに言ってるのよお!?
自分の幸せが第一! そんでもって家族の幸せも第一!
最強の愛情じゃないの。
とっても健全だと思うわ?

ガイガー管理官(25歳 男):
ブルックリン君、若い君に助言をくれてやるからね。
この手のオバサンに逆らったら、生きていけないよ?

ブルックリン(仮名):
なるほど、………………夏ですからね…………。

ジェニファー(仮名):
というわけで、
良い子ちゃんのロイエルちゃんは不幸よねえ。って話。
わかるでしょ?

ガイガー管理官(25歳 男):
ブルックリン君、「わかります」って言わないと、帰ってくれないよ?

ブルックリン(仮名):
なるほど。
ジェニファー(仮名)さんの言うこと、もっともですよね。
よく、わかります。

ジェニファー(仮名):
そうでしょそうでしょ!
あ、そうだ、私、帰らなくっちゃ。
家で、おなかをすかせた女の子と、おなかをくだした男の子と、おなかいっぱいの子守りが待ってるから!
じゃーねー!
楽しい夏休みをありがとーーう!





ガイガー管理官(25歳 男):
ブルックリン君、よく耐えた。
君も、これで一つ、大人になったというわけだ。(しみじみ)

ブルックリン(仮名):
………………コンピュータウイルスより酷くないですかあの人。



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次に、同掲示板に、「マッソウ美人とイケメンガイガーのクロスオーバーザワールド(意味不明)ありえないほど番外編ですから。」を掲載しました。
その後に、別ブログにも文章を載せました。
時系列順に、整理して掲載しますね。
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マッソウ美人(時空のはざまを旅する美女年齢不詳すべて自称):
みなさんこんばんはー。世のオトコノコもオンナノコも可愛きゃなんでもOKの、マッソウ美人でーす!

ガイガー管理官(25歳 イケメン男子):
どうもこんばんはー。
夏も終わるって言うのにお前ら頭煮えまくってるんじゃないの? っていう突っ込みは勘弁してね。
全国28億人の麗しのお嬢さん方、貴女のガイガーですよ。
さて、マッソウ美人?
たくらみごとがあるとかないとか?

マッソウ美人:
オホホホホホホ?
いやだわガッちゃんったら、んもう、しょっぱなからズバリ核心突くなんて、
マッソウ美人、とろけちゃう。

ガイガー管理官(25歳 男):
おばさま、ここ16禁だから勘弁してネ?

マッソウ美人:
ああん窮屈う。
ってことで、
狩リに行って来るぜ!!!

ガイガー管理官(25歳 男):
キャー! 理事長素敵! シビレながら待ってるわ!

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 理事長にして芸術家である、常識を夏の太陽に投げつけて焼却処分した中年女性は、颯爽と街を歩いていた。
 先ほど、彼女は、友人の男といったん別れたところだった。
「ふんふんふーん」
 鼻歌交じりに、きょろきょろきょろと辺りを見回す。
 彼女と目が合って、その素性がわかった通行人達は、全員が目を背ける。まっすぐ歩いていたのに、きゅうきょ向きを変えて、すぐそこのコンビニに駆け込み入店する人もいるほどだった。
 歩く災厄。かかわったら、ろくなことにならない。遠くから見てるだけで十二分でおつりがくる。
 すうううっ、と、彼女は鼻から息を長く吸った。
「んふふー。アチキの勘だとー、そしてガッちゃんの情報によるとー、今日は夏休みの出校日だからぁ、えっとお、『付属校』の校門ってこの辺でぇ。……ニヤリ*」
 ゴキブリだかスパイだかのように、すばやくそして身軽に、中年女性は小走りに駆けて、国立大学付属高等学校の正門を通り抜けて、その門扉の影に立つモミジの木の陰に、ぴしゃりと隠れた。
 午前11時30分。
 夏の終わりの直射日光は、真上からざくざくと降り注ぐ。中年女性は、身を隠しつつ、樹影の恩恵にご満悦だった。
「あーこのモミジの木ったら巨木で最高。引き抜いてうちに持って帰って木陰作ってもらおうっかしらあ。いくら払えばヌかせてもらえるかなあ」
 校舎の方から、子ども達の声が響いてきた。
「よーしよし。下校時刻ーククク」
 片頬だけ持ち上げた笑みは、どうみても誘拐犯の卑劣さだった。

「あー終わった終わった」
 波打つ金髪、くっきりとした目鼻立ちの少女が、学校カバンを今にも放り投げそうな勢いで、ぶんぶんと前後に振る。
「あっついのに歩いて帰るの面倒。お兄様に迎えにきてもらおっかなー」
 制服の胸の辺りを右手で掴んで、ぶわぶわとゆすって体の中に風を送る。
 そんな友達の開放的すぎる行動に眉を寄せてから、薄茶色の髪の少女が、苦笑した。
「珍しいよね。ルイセがちゃんと学校に居るって。それも夏休みなのに」
「何言ってんの、保護者召喚よ? 母さんはー『お前なんか知らんわ歩いて帰れこのバカ娘』って言って、一人で車で帰りやがりました」
「……」
 そういえば、この派手な友達は途中から教室にはいなかったなあ、と、思い至る。校長室でこってり絞られていたのだ。母親に同情する。
「今度は、なにしたの?」
「何もしてないよ? 私はいつもの通り」
「……ああそう」
 関わらないことにしよう。夏休みも終わりなんだから、心がけて静穏に過ごしたい。
 友人の「ことなかれ」な雰囲気を感じとった金髪少女は、むうっと眉根を寄せた。
「なぁにぃよぉう? いつもならぁ、『ルイセのそういう所って、良くないと思うッ!』って、からんでくるのにい? 今日はどうしたのっかなあ? いつもの『あああ、うっるさいッ!! あんたは私の母さんかってぇの?!』っていう、憎ったらしい真面目番長ぶりはどうしたんですかー?」
「別にルイセの人生だから自分の好きにしたら良いと思うよ?」
「何よそのおやさしい態度!? いつ改心したんですか?! あたしがこれまで受けてきた、あんたからの、ありがたい迷惑な説教は、わたしの記憶違い!?」
 それまでほどよい距離で並んで歩いていたのに、金髪少女は、薄茶髪の少女の右腰をぐいっと引き寄せた。
「あああ、わかった」
 そして耳打ちする。
「これからゼルクさんとデェト? お迎えに来てもらって、デェトなんだ?」
「!」
 暑さのせいではなく、頬が真っ赤になった。
「……ち、違」
「当たりかよ」
 チッ、と、舌打ちした上で突き放す。
 しかし顔には興味本位の笑顔が浮かんでいた。
「あとで感想聞かせてね? どこ行ったとか何されたとか、」
「違うって言ってるでしょ!?」
 むきになって否定する友人に、金髪少女は一層のニヤニヤ笑いで応戦した。
「そうそうそう。違うとか嫌とか嫌いとかねえ。可愛いったらありゃしないわ?」

「そりゃー見事なツンデレっぷりですなあ」

 そんな、女子高生のにぎやかな会話に、中年女のすえた声が割り込んできた。

「!?」
 驚いて目を丸くする薄茶髪の少女に対して、金髪少女は「ツンデレとは……うーん、違うのよねぇ」と惜しげな言葉を返した。
「ンフフフフ? おばちゃんに細かいこと言うたらあかんよ? 加筆修正とかもしないよ?」
 校門の脇に立つモミジの木陰から、暑い夏をさらに暑くするようなスパイシーオレンジのワンピースを着た中年女性がぼんと踊り出してきた。
 通りかかりの生徒たちが皆逃げ出した。口々に「うわ、マッソウだ!」とか「なんでこんなところに居るのよ!?」とか、騒ぎながら。
「お前らー、他校の理事長様のコト、呼び捨てにしてその上毛嫌いするとは、ええ度胸デースね?」
 フン、と、鼻で笑って、暑苦しい色のワンピースを着た中年は、「次の学期になったら、無理やり『学校間交流〜単位交換授業 芸術家と気持ちを触れ合わせよう〜』とかしちゃおっかなあ、モチロン嫌がらせとして」と嬉しそうに言う。
「……おおっと、ロイエルちゃんに御用だったのさ。おとなしくお縄についてちょー」
「おば様、彼女これからデェトです」
 金髪少女だけは、中年女性の存在の脅威からは無縁に、アドバイスをしてのけた。
「ありゃ、ルイセちゃん。さっきまで、ガッちゃんお兄ちゃまとご一緒してたのよ? コレカラまた帰るとこだけど、お兄ちゃまに何か伝言ある?」
「それは好都合です。きゃわいい妹が『おにいちゃん。むかえにきて!』って、妹声で頼んでたって、伝えていただけます?」
「よしきたァ! 妹声ってとこが、どんどんキタァ! アチキ、ばっちり伝言するけんね『おにいちぁん』って言うけんね! ってことで、」
 中年女は外見に似合わないたくましい腕でもって、薄茶の髪の少女を小脇に抱えた。
「ロイエルちゃんをいただきィ! ある意味連携プレイ! いやはやルイセちゃんがいて助かったぜ! 持つべきものは友の妹ッ! あらゆる意味で! じゃーロイエルちゃんのお兄ちゃんにヨロシク伝えといてねッ!」
 女は駆け去り、校門前に留めてあった黒塗り豪華車にて逃亡を開始する。
「わっかりましたー! ゼルクさんには私の方からバッチリ伝えときまぁす! 妹声で!」
 金髪少女はヒラヒラと手を振って、明るく見送った。
「ふふふふ。持つべきものは、オモチロイ友達?」

 校門の木陰で待っていたのは、彼の友達の妹だった。
「暑いですねえ。お久しぶりです、ゼルクさん」
「やあルイセ。久しぶり」
 できた微笑みを浮かべた上で、彼は「ロイエルを知らない?」とたずねた。
 ルイセは、目を伏せた。
「ごめんなさい、ゼルクさん」
「なに?」
 まぶしい金髪少女は、淡い金髪の青年に涙目を浮かべて見せた。
「ロイエルは、芸術家のマッソウおば様に、拉致られました。たぶん、私のおにいちぁんの所なんじゃないかなと、思うんですけど……。私っ……おともだちを、守れなかったんです!」
「……」
 青年は眉をひそめた。
「ルイセ」
「はい?」
「君のことだから、女史に加勢したよね?」
 悪友の妹は、まったく悪びれもせずに「しました!」と自白する。
「だって、そうしないと、マッソウさんったら、私の伝言をおにいちぁんに届けない、って言うんですもの」
「違うよね?」
 金髪少女は舌を出した。
「ごめんなさい。すっげえ面白そうだったから、つい」
「まったくこの兄妹は。気をつけて帰るんだよルイセ」
 青年は舌打ちすると、金髪少女の頭を軽くこづいて、立ち去った。
「ゼルクさん、兄に迎えに来てって伝えてもらえますか?」
 青年はくるりと振り返った。
「無事ではすまさないから無理だと思うよ? もう歩いて帰りなさい」
「はぁあい」

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マッソウ美人:
今帰ったぞガッちゃん!!
ほらよー!!! ガッチリバッチリ奪い取って来たぜ!

ロイエル(18歳 女の子):
……ここ、どこ?(半泣き)
あの、マッソウさん。どういうことですか?

ガイガー管理官(25歳 男):
えーと業務連絡。美人、時間軸としてはどのあたりのロイエルちゃんを拉致って来たんですか?

マッソウ美人:
ハイハイ業務連絡。うちのブログに出てきたあたりですよどうぞ?

ガイガー管理官(25歳 男):
……するってえと、(ゴクリ)25歳ゼルク君と18歳ロイエルちゃんで、二人が仲良くなっているあたりですか。
……ねえねえ、この子のそばに、ゼルクおにいちゃんいなかった? おにいちゃん?
(ガタガタブルブル)

マッソウ美人:
ホッホッホッホ。ガッちゃんや。
おばちゃんのこと、なめたらいかんよ?
経験のあっさーーい若い男なんか、簡単にちゃちゃっと振り切れるっちゅうもんや。
なんたって、あちきは脂の乗りに乗ったおばちゃんじゃからのう?

ガイガー管理官(25歳 男):
うわあ。おばちゃんの怪しい方言がたのもしいや。
敵に回したくないおばちゃんオンリーワンにしてナンバーワンだね。

ロイエル(18歳 女の子):
あの、私、帰、(怯え)

マッソウ美人:
オホホホホ? おひさしぶりねえロイエルちゃん。
実はね、わたくしこと世界水準の前衛芸術家マッソウさんったら、とってもとっても困ってるの。
うんうん、聞いてくれる?
あのねえ、モデルがいなくって困ってるの。なあに心配することはないわ。単なる芸術作品のモデルさんなの。いえいえ、なんにもいやらしいことはなくってよ?

ガイガー管理官(25歳 男):
うわあすごいやー。マッソウ美人は相手の返答おかまいなしに、グイグイ話を進められるんだねー。勉強になるなーあ(棒読み)

マッソウ美人:
そのモデルさんっていうのが今すぐ! 今すぐ必要なの! 場所はわたくしのお住まいにて。
「海の家」っていうの。ううん、夏らしくって素敵なお住まいなのよう。そこにはあなたが仲良くしてくれたリュージュちゃんもいるわあ。そうそう、リュージュちゃんも、モデルがいなくって困っているの。
ねえ、ロイエルちゃん。
『皆が困っているのだけど、モデルのお仕事引き受けてくれない?』

ガイガー管理官(25歳 男):
うっわーすっごいやー。美人はロイエルちゃんの弱点お見通しだあ。
僕……逃げたくなってきちゃったなあああ。(ガクガクブルブル)

ロイエル(18歳 女の子):
皆が困ってるの?

マッソウ美人:
(キラーン!)
そうッ! 皆そろって大弱りの巻なのよ!? ピンチ! 大ピーンチ!
さあどうする!?
皆が困ってるって聞いたら、ロイエルちゃんとしては、どうするー?

ロイエル(18歳 女の子):
ええと、(困惑)
そんなに困ってるんだったら……、

マッソウ美人:
おおっと殺気探知したわよう!
おばちゃん舐めたらあかんぜよ!!
ガッちゃん、アチキはこれにて失礼するッス!
ロイエルちゃん拉致監禁ッス!!

(ロイエルを小脇に抱えて、身軽に逃亡)

ガイガー管理官(25歳 男):
すっげえ逃げ足の速さ。惚れ惚れするねえ。ほんとにねえ。
さて、と。

ゼルク中将(25歳 間に合わなかった若造):
なぜ女史がここに出てこられる?

ガイガー管理官(25歳 男):
夏の頭煮え突発企画「マッソウ美人とイケメンガイガーのクロスオーバーザワールド(意味不明)ありえないほど番外編ですから」だからだと思うよ?

ゼルク(25歳 若造):
一般人にどうして私が振り切られないといけないんだ。

ガイガー管理官(25歳 男):
夏の頭煮え突発企画「マッソウ美人とイケメンガイガーのクロスオーバーザワールド(意味不明)ありえないほど番外編ですから」だからだと思うよ?
あのう刃物は駄目だよ? なんてったって、相手は一般人だからねえ。
おとなしく、返却されるのを、待ってるしかないよう?
大丈夫大丈夫、ここ16禁だから。大丈夫大丈夫。

ゼルク(25歳 若造):
カッコ内の表記に悪意を感じるのは私だけか?

ガイガー管理官(25歳 イケメン男子):
そんなの僕慣れっこだもん。君も慣れた方が良いよ。

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「モデルというのは、何をするんですか?」
 通称「海の家」の一室に連れ込まれた少女は、真っ白な大理石造りの部屋にて途方にくれていた。
「やっぱり石の家ってのは、冷たくっていいよねーエアちゃん?」
 中年女性はヘラヘラ笑って、モデルの一人と会話を交わす。
「そうですね。先生。じゃ、このへんで?」
「そうその辺でー」
 薄い金色の波打つ長い髪のモデルが、白大理石の上に腰を下ろした。
 真っ白な、体の線にそったドレスを着ていた。
 ロイエルは、その美しさに見惚れてしまった。
 いわゆる天女というものがいるならば、こんな感じなのだろうか、と思ってしまっていた。
「いいですよ先生」
 モデルが声を掛けると、マッソウはニタリと笑って、下校途中に拉致してきた女子高生を見た。
「はーい、じゃあ、制服がイカすロイエルちゃーん」
「!」
 びくりと肩を震わせた少女に、芸術家は手招きする。
「大丈夫大丈ーー夫。ロイエルちゃんはぁ、エアちゃん、ああこのモデルちゃんなんだけどね、このエアちゃんが腰を下ろして足と足を広げたところに抱っこされてください。そんだけ」
「でも、」
 逡巡する少女に、モデルが声を掛けた。
「大丈夫よ? うふ」
「……」
 やわらかな声に惹かれて少女が顔を向けると、白くて細いがほどよく筋肉のついた肢体を持つ女性が、ひどく優しい笑顔を浮かべて、手招きをしていた。
「いらっしゃい?」
 袖のない白いドレスから白い腕がすっとのびている。
 大きく開いた胸元には豊かな胸が美しい谷を作っている。
 脚を広げてひざを立てると、ドレスの裾の脇に深く入っていたスリットから、右脚があらわになった。
 気軽な調子の手招きに、ロイエルは少し構えをといて、エアのそばに膝をついてみた。
「リュージュちゃんの、お友達なのよね?」
「はい」
 もう少し手招きされたので、もっと近くに膝を進めて、ロイエルはエアの右隣に来た。
 それを、マッソウはニヤニヤ笑って見ている。
「リュージュちゃんはね、夏休み全部補習授業なのですって。だから、残念なの。私」
「……進学校だから、」
「そうよね、でも、私は寂しいの。ロイエルちゃんの学校は、夏休み、あるの?」
「はい」
「先生」
 エアは目をマッソウに向けた。
「リュージュちゃんを、ロイエルちゃんと同じ学校に入れたらよかったのに」
「駄目だよーだ。だってあっちにはガッちゃんの妹ちゃんがいるもの。あと、国立は色々怖いんだよ?」
「でも、リュージュちゃんのこと、……夏休みにお休みさせたいの」
「んあー。じゃー、理事長権限でそのうち休み作ったるから。リュージュちゃんだけ」
「先生、約束ね?」
「ええですよ?」
 よかった、と、ほっと息をついて、美しいモデルは少女に向き直った。にこにこと微笑みかける。
「私とリュージュちゃん、仲良しなのよ?」
「そういえば、エアさんって、……リュージュに良く似てる。お姉さんですか?」
「ううん。違うわ?」
 似ていると思ったが、そう言われると、たしかに違う。
「あのね、ロイエルちゃん」
「はい」
 エアは、ロイエルに顔を寄せて、瞳をあわせると、ふわりと笑った。
「ロイエルちゃんは、リュージュちゃんと仲良し。わたしも、リュージュちゃんと仲良し。私と、仲良く、してね?」
 はい、と、少女が返事をしたところで、エアは引き寄せて柔らかく抱きしめた。
「うふ。嬉しい」
 これまであまり人と触れ合わなかった少女は、少し驚いて目を見開き、ふわふわと柔らかな感触に包まれて、相手の顔を見上げた。
 エアはロイエルの瞳を笑顔でもって受け止めると、その薄茶色の前髪を撫でた。
「なんて可愛いの」
 髪を撫でた手は、頬に移る。
「いい子ね。大好き」
 両手で少女の顔を包んで、額に口付けた。
「……」
 ロイエルの頬が上気した。
 こういう、好意の向けられ方はされたことがない。
 心の奥にふうわりと入り込んできて、甘やかされる感じ。
「あ、の、」
 とまどって揺れる夕焼け色の瞳を、エアはぎゅっと抱きしめて胸の中に包んだ。
「可愛い」

「こーの前に写真を撮ったー、リュージュちゃんとエアちゃんとマヨネーズとケチャップの対にしちゃおうっかなあと思ったり思わなかったり?」
 マッソウが、大きなキャンバスに木炭で描きながら、大きな声で独り言を言う。
「ロイエルちゃーん、簡単じゃろー? モデルのお仕事って」
「んん、」
「いいのよ。答えなくっても。大丈夫、ほとんど独り言なんだから、」
 白いドレスをまとって、大理石の床に腰を下ろしたエアは、広げて立てた脚の間に、制服のロイエルを抱きしめて、ささやきかける。
「私に体重預けて大丈夫よ。緊張しないでいいの。ね?」
 豊かな胸の間に、顔をほとんどうずめさせるような格好で、愛おしそうに、髪を撫でる。
「いい子ね。うふ」
「エアちゃんがー、そのモデルにあるまじき、作品描いてる中にこそこそ動くのも、イイ感じよー?」
「ありがとうございます先生」
「まー、なんだ、アチキがバンバン動いてええよって許可したから動いてるって訳じゃけどねえ。ねえ、エアちゃん。もっとバンバン動いて、こう、ロイエルちゃんも、うちの子に追加しちゃうって作戦どうよ? とろけさせてー、おとしちゃえー」
「うふ。帰るおうちの有る子には、そんなことしませんよ? 先生」
「あの、」
 不安そうに顔を上げたロイエルに、エアは額をこつんと着けた。
「大丈夫」
「……」
 嫌いだけれどそばに居て欲しい人から同じ事をされた記憶が甦って、少女の目が甘く揺らいだ。
 エアが、ロイエルの顎に手を掛けて持ち上げた。
「おうちにはね、ちゃんと帰して上げる。だから安心して抱っこされていて? その可愛い顔、ほんとうは、誰に見せているの?」
 少女の顔が赤く染まった。
「あの、」
「ふふ、すごく可愛い」
 エアが、ロイエルに口付けた。
「!」
 驚いて身を引く少女に、薄い金の髪のモデルは、女神のように笑う。
「ロイエルちゃんのこと、その人から取ったりしないから大丈夫。キスするのは、そうね、『お友達の証』」
「友達?」
「そうよ」
 大丈夫だから来て、と言われ、構えを解いてしまった少女は、おとなしく誘われた。
 甘やかな口付けをする恋多きモデルの姿に、芸術家は、「オトモダチの証でそのチューは無いじゃろう。普通は。ま、エアちゃんだから仕方ないっかー」と、少女に聞こえないようにボソボソつぶやいて、上機嫌で筆を進めた。

「はーい、ご苦労様ぁ! いやー、いい仕事デキましたッ!」
「先生、もういいんですか? 短いわ?」
 名残惜しげなモデルに、「うん! 1時間でもう色々ギリギリ限界かも!? 大丈夫! アチキの網膜の一時保管ファイルと側頭葉のハードディスクにバッチリ保管済み! うりゃあ!」と応じ、右腕を曲げて力こぶを作って見せた。
「残念ね……」
 ロイエルの両肩をふんわり掴んで、身を離す。
 忘我の少女に、モデルはささやきかけた。
「おしまいみたい。ほら、おうちに帰れるよ?」
 親指で、慈しんでいた唇を撫でる。
「ねえ、ロイエルちゃん。もしも、帰りたくなくなったりしたら、私の所に来てね? こんなふうにして、可愛がってあげるからね?」
「そうじゃよー。リュージュちゃんと一緒にまとめてアチキが面倒みたるからな。安心してウチに来たらええんじゃ」
「……」
 二人して声を掛けるが、少女はどうやら聞いていない。
「ありゃー、こりゃ、どうしよっかなあ」
 芸術家は、普段どおりにおっとりと笑っているモデルを見た。
「エアちゃん、やり過ぎかも」
「うふ。そうですか?」

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マッソウ美人:
たっだいまー!!
ふー、ロイエルちゃんにはいい仕事してもらったー!
じゃ、謹んでお返ししますネ!
あら、ゼルク中将、妹さんには大変お世話になりまして、どうもありがとうございましたー!
ではこれにてー!! バイバーイ!

ロイエル(18歳 女の子):
(顔真っ赤)
(遠い目 うるうる)
……エアさん、素敵。

ガイガー管理官(25歳 男):
さて、と。(逃げますかな)

ゼルク(25歳 若造):
ロイエル?

ロイエル(18歳 女の子):
(聞いてない&うっとり)

ガイガー管理官(25歳 男):
すげえなエアさん効果って。どうやればそうなるんだ一体。

ゼルク(25歳 若造):
なんだそれは。

ガイガー管理官(25歳 男):
ん?
いいのいいの。なんたって、これ、
「マッソウ美人とイケメンガイガーのクロスオーバーザワールド(意味不明)ありえないほど番外編ですから」
うん。現実と違うから。
てことで、……あ、今日は、僕、危害加えられずに済みそうなラッキイストーリイかも?
じゃ、僕、消えるから。

ゼルク(25歳 若造):
一方的に被害者にされている気がするんだが。

ガイガー管理官(25歳 男):
大丈夫大丈夫。なんたってこれ、「マッソウ美人とイケメンガイガーのクロスオーバーザワールド(意味不明)ありえないほど番外編ですから」
うん。現実と違うから。
じゃーそういうことで。

ゼルク(25歳 若造なのかどうか):
……おい。

マッソウ美人:
そのあとロイエルちゃんをエアちゃん効果から洗脳解除できたかどうかは、
若造の男気にかかってますからー。

ガイガー管理官(25歳 男):
大丈夫大丈夫。なんたってこれ、「マッソウ美人とイケメンガイガーのクロスオーバーザワールド(意味不明)ありえないほど番外編ですから」

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 以上が、掲示板とブログで掲載した全文になります。
 読みにくいですか? すみません。
 そして、以下に、その続きの「ゼルクに男気を出させる」を加筆して掲載いたします。

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 ここで、
 怒りにまかせて、悪友を始末しようと、気のふれた芸術家を始末しようと、どうなるものでもない。

 ぼんやりしているロイエルの肩をがっちりと抱いて、迷惑な芸術家は面白そうに笑う。
「エアちゃんていうのはー、アチキが雇ったモデルちゃんでー、なんかもう男でも女でも惚れせちゃうっていうかー。NO悪女。YES女神。そんな感じい。そのモデルちゃんとー、ロイエルちゃんとをー、一緒にベッタリくっつけて、お絵かきしますた。その後で、それが立体になるか二次元のままか映像作品に化かすかはー、私次第」
「ほほう女神様か。そりゃーすごい。エアちゃんには是非ともお目にかかりたいもんだ。紹介して?」
 その芸術家の友人にしてゼルクの悪友は、興味津々でたずねる。
 マッソウは、眉を大げさに上げると、大きく首を振った。
「ううん。エアちゃんは、ガッちゃんのことはちょっと違うって言うと思うのね。純粋にお友達にしかなりえない感じね」
「えええええ」
 しょげるガイガーに「仕方ないじゃん、好みがあるんだからー」と軽く慰めて、マッソウは獲物を見る目で金髪の青年を見た。
「……その点ではねぇ、」
 皆まで言わせずに、ガイガーが「ちぇー」と言葉を挟んだ。
「なんだよー。エアちゃんって面食いさん?」
「うん。超がつく」
 マッソウは、左手でつかんでいるロイエルの肩をさりげなく揉みながら答える。
「皆はエアちゃんを好きになるけど、エアちゃんはたしかに皆を好きだけど、そおいう意味での好みは、せっまーき門なの」
「えー、僕、イケメンだよ? 駄目? 熊男は駄目?」
「おう。熊も妻帯者も駄目だよ。『帰るおうちが有る人は、いらないの』だって。あと、熊は動物だから駄目」
「ぬおおお」
 管理官の目からつるつると涙がこぼれる。
「嘘泣きかよ。ガッちゃーん」
 芸術家のせせら笑いに、熊男は首を振った。
「ところが、これがマジ泣きなんだよ美人ー。そうだよねえぇ。妻帯者の熊男は駄目で、熊は動物だから雄も雌も駄目なんだ。ふうんだ。どっちにしろ、門前払いかあ……とほほほ」
 座り込んで地面に人差し指で渦巻きを描くガイガーに、マッソウは、『いいじゃん奥さんを大事にしなよ』、と、彼女にしては常識的過ぎる慰めの言葉を掛けた。ついでに熊男のゴワゴワの黒髪をぐちゃぐちゃに撫でたところで、中年女性は自分が腕に抱いていた少女の肩が消え失せていることに気がついた。
「あああ!? 奪い返されたッ! いつのまに!?」
 驚くマッソウに、情報処理課管理官はしみじみとうなずいた。
「隙を突くのも仕事だからねえ。これで給料もらってるんだし」
 ところが中年女は納得しなかった。フーンと、鼻息を長大に吹いて、熊男ににじりよった。
「ガッちゃん、あんた、加勢しなかったかえ? アチキに隙作る手伝い、しなかったかえ?」
「とんでもないですよ、マッソウ美人」
 多くの情報を手にする管理職の男は、ひょうひょうと笑ってみせる。
「それより美人、男気、見たくない?」

「お帰り」
 ようやく取り返した少女の両肩を支えて、彼女と同じ目の高さになって、ゼルクは微笑み掛けた。
「……ただいま、」
 つぶやきで返して、ロイエルは、右手で自分の唇に触れた。
 相変わらず、頬が上気したままだ。ついでに、目を伏せている。見ようとしないのか、見られないのか。
「嫌なことは、されなかった?」
 穏やかな問いかけに、夕焼け色の瞳が揺らいだ。
「うん。あのね、嫌なことは、……されてないの」
 キモチイイコトサレタヨネェと、離れているのにどうやって小声を聞きつけているのだか知れない茶々を入れてくる芸術家のことはさらりと無視して、ゼルクはロイエルの前髪を撫でた。
「それならよかった。じゃ、帰ろうか?」
「う、ん」
 それまで伏し目がちで、ずっと唇に手を当てたままだった少女が、おずおずと顔を上げた。
「中将。……あのね、」
「どうかした?」
「あの、」
 青年は、言葉を捜して逡巡する少女の瞳をそっと覗き込む。
 少しの沈黙が流れた。
 ふたたびうつむいてしまった少女の髪を、青年は撫でる。
「もしも、ロイエルが、」
 掛けられた言葉に、ロイエルが顔を上げて見ると、自分を湿地から引きずり出して首都に連れて来た人が、静かに笑っていた。
「ロイエルが、暮らしていく場所を変えたいのなら、いいよ。君は、君が笑っていられる場所で、生きていった方がいい」
「え……?」
 長いまつげに縁取られた黒目勝ちの瞳が、相手の言葉を理解できずに、ぱちぱちと瞬いた。
 そして、一瞬、動きが凍った。
「い、嫌っ!」
 ロイエルが顔色を変えて、ゼルクにすがりついた。
「どうして、そういうこと言うの?」
「そんな顔してる」
 責めるふうでもなく、少しからかい気味の言葉に、少女は悲鳴のような否定をした。
「してないもの!」
 あやすように背中を軽く叩き、ゼルクは、目を合わせようとしないロイエルを、そのままできちんと抱きかかえる。
 ぎゅっとしがみついたロイエルは、涙で揺れる声で必死に抗弁する。
「あのね、違うの。マッソウさんの言ってるのと、違って。……エアさんは、『お友達になろう』って、」
 少し離れたところでニヤニヤ見ている中年芸術家が「そうそう。それでエアちゃんがロイエルちゃんから色々といただきましたー!」と、余計なことを言う。「ああ、やめなさいよ美人、美人度が上がるから」とガイガーが、止めているのか煽っているのかわかりにくい言葉を言うが、両者共に青年からさっぱりと無視された。
 青年は無視し通すが、ロイエルはそれが耳に入ったのか、一層涙声になる。
「違うもの、っう、っく」
 何か言いたいのだが、涙としゃっくりにはばまれて、うまく声が出ない。それがもどかしいらしく、言葉の変わりに、ぎゅっと強くゼルクにすがりつく。
「違うものっ、」
「わぁーい、ロイエルちゃんが困ってるぅ」
 子供が恐慌状態に陥っているのが面白いらしい、素敵な性根の中年前衛芸術家は、瞳をキラキラと輝かせて、次なる捻じ曲がった声援を送ろうとするが、
「外野。うるさい黙れ」
 ゼルクにきつく制された。

「そんな怒ることないじゃんねー? ガッちゃんや、そう思わない?」
 チッと舌打ちしたマッソウは、隣のガイガーに、こそこそとこぼす。
「ねえ。オトナゲないよねー。怖いよねーぇ?」
 ガイガーも同調する。しかし、続きがあった。
「ていうか、ここにいるみんな大人気ないけどねえ?」
 
 拗ねた大人二匹には当面無視を決め込み、ゼルクは少女の言い訳をゆっくりと聞いた。
「……マッソウさんが、私をお家に連れて行って……。っく、」
 しゃっくりをすると、背中をさすってあやす。
「うん。それで?」
 相槌を打ってやると、ロイエルが、嗚咽でうまく吐けない息をふうっとまとめて吐いて、また続きを言う。
「そこに、っ、……エアさんがいて、絵のモデルに、……っく、一緒に、描くからって、マッソウさんが……っ」
「うん」
「……エアさんは、……ひっく、」
 声が途切れた。
「うん」
 相槌を打って、じっと、言葉を待ってみる。
 言葉の挟まらないしゃっくりが続く。ずっと、ゆったりと背中をさすってやる。
「中将……」
 おずおずと体が離れて、泣いて真っ赤に充血した瞳が、ようやくゼルクを見た。
「あのね、私の言うこと、信じてくれる?」
「信じなかったことがあった?」
 はたはたはた、と、涙がこぼれ落ちた。
「……ない」
「うん。泣かないで、」
「……っ、っく」
「泣かないで」
 少し強く抱きしめ、安心した吐息を聞いて、髪を撫でた。

 拗ね大人達は、小声でこぼす。
「『信じなかったことがあった?』って言うけどさ。答えは『沢山あった!』なんだよね。僕としては『この大嘘つき−!』って声を大にしたいところですが」
「そうかえ。オバチャンが代わりに言ったろか? ん? ボクが怖くってよう言えんのやったら、オバチャンが代わりに『ウソツキィイイ!!』と声張っちゃろうか? ん? どうや?」
「おばちゃんの、その、得体の知れない『訛り』が、ボク、好きだな」
「そうやろ? どこの地方の人間も『でたらめだ!』って絶賛なんじゃき」
「ほんとデタラメだよね。ゾクゾクしちゃう」
「ホッホッホ。各地方巡ってるとなぁ、意味はわからんけど、『なんとなく響きがいい』っちゅうだけで、使いたくなってくるんよ。地方通のフリ、したいんやろうなあ。わしも可愛いとこあるじゃろ?」

「エアさんは、……やさしくしてくれて、仲良くしてくれて、お友達になろうって」
「そう。それはよかったね」
 ゼルクは、ロイエルがぽつりぽつりと話すのを丁寧に聞いて、そこまで聞いてから、少女の頭を引き寄せて、髪の香りをきいた。
 そうして笑う。
「薔薇の香りがする」
「……うん。エアさんは、すごくいい匂いがしたの。すごく柔らかくて」
「柔らかくて?」
 笑い含みのおうむ返しに、ロイエルは、自分が何を言ったかを彼の口から聞いて、あわてる。
「あの、そうじゃ、なくて」
「違うの?」
 面白そうに笑う青年に、少女は、どうしたらいいかわからなくなる。
「そうだけど、あの、」
 顎に手が掛けられて、少し持ち上げられる。
 真っ赤な顔と、楽しげに笑う顔の、瞳が合う。
「よかったね。やさしくしてもらえて」
「違うの、そうじゃないの。でも、……そうなの、かな……」
 迷って瞳を揺らし、また泣き出しそうなロイエルに、ゼルクは口付けた。唇が触れて、とまどってわずかに後ろに逃げた頭を引き寄せて、少し深く口付ける。
 少女の口中を味わって、微苦笑した。
「薔薇の香りがする」
「ごめんなさい、でも、あのね、『お友達の証』だって、」
「エアさんが?」
「……うん、」
 うなずいたが、相手が微苦笑を浮かべたままでいるのを見て、ロイエルは、自分が何か迷路のようなところに入り込んでいるのではないだろうか、と思ってしまった。抜け出したいけど方法がわからない。
 どうしたらいいんだろうと困っていると、ゼルクが謎掛けのように言葉を渡した。
「じゃあ、私のも『友達のキス』かな?」
「……」
「違う?」
 ロイエルがぎゅっと抱きついた。
「……違うのがいい」

 中年のおばさんは、目を皿のようにして、見ていた。
「なんだよ若造。やるなあ。堂々と。おばちゃん嬉しいわぁ。目の中に収録しとくわぁ」
 一方、熊男はさめざめと憂えて泣き濡れている。
「ほんとに芸術家も軍人も恥知らずで嫌になっちゃう。ガイガー、ついてけない。うっ、うっ、大人不潔。超嫌。超嫌い。ボク、もう、独り海辺でカニと戯れたい」
 などと、両手で顔を覆うフリをして、指の隙間からしっかりと見ているガイガーだったが、友の進んだ行動を見て目を丸くして邪魔な両手を顔からとっぱらった。
「ちょ、おおおい、ゼルク君!? それ以上は駄目ぇッ!」
 顔色を変えるガイガーの隣で、中年前衛芸術家は鼻息を荒くした。
「よっしゃ来たァア! いいよォ! どんどんいいよッ! なんなら、今後は二人まとめて海の家に住ませちゃるき! ゴー! 若人ゴー!」
「NO! マッソウ美人、NO! 色々な都合が前後左右にあるんだから、彼のことけしかけないでえ!?」
「なんだよガッちゃん、意外にノリ悪いなあもう! 青春も人生も恋愛も、暴走した方が、面白いんだからァ!」
「駄ッ目ぇええ! なんで僕が抑え役してるのさ!? 何この怪奇現象!? 夏だから!? ちょっと誰か、良心役できる人いないのぉ!? ブ、ブルックリン(仮名)君!? ボクを置いてどうして帰っちゃったの!」

「うるさいな」
 少女の首筋から唇を離して、青年は不機嫌につぶやいた。
「……え?」
「気にしなくていいよ。ロイエルのことじゃないから」
 腕の中でとろけている少女を抱きなおして、ゼルクは、「帰ろうか?」と、ささやいた。
「んん、」
 ロイエルは、目を細めて身じろぎして、潤んだ瞳を上げた。
「お家、じゃなくて、今日の約束、……駄目?」
「プラネタリウムに連れて行く約束?」
 ケイタムイ辺りの、夏の夜空。
「……うん。駄目?」
「ううん。いいよ」
 そして二人は、明るい夏の空の下に帰っていった。

 都内の某所にある情報処理課分室に残された、ねまった大人二人は、拗ね腐る。
「プラネタリウムっていうのはあれか。暗くって夜空で、屋内で暗くって、暗いから堂々と続きができるってヤツか?」
「そうそうそう。きっとそう」
「なんだよう。今度は昼の日中に人口星空の下で男気見せるのかよう。……見に行こっかな。どの程度の男気か」
 スキップで駆け出そうとするおばさんの襟首を、熊男はぎゅうと捕まえた。
「あのお兄ちゃん怖いから始末されるよ本当だよ。帰ろうよおばちゃん。それぞれの場所に」
「あーあ……。せっかくエアちゃんが採集しかけたロイエルちゃんだったのに。取り返されちゃった……」
「キャッチアンドリリースしたと思えばいいじゃない。なんて良心的なんでしょ。またきっとふわふわ寄ってくるよ。その時はキャッチアンドリザーブで」
「そうねえ。エサはリュージュちゃんにしとくか」
「僕もオンナノコに採集されたいなあ。さぁて、帰ろうかなあ。仕事場に。『気になる仕事』が残ってるから。気分切り替えてバリバリ仕事するぞう」
「ガッちゃんてば仕事熱心ねえ。熱いわねえ。アチキも帰ろうっと。リュージュちゃんの夏物のスカートめくりに」


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