万の物語/十二万ヒット目/十二の月が巡るまで〜ウヅキと卯月〜

十二の月が巡るまで〜ウヅキと卯月〜

すぎな之助(旧:歌帖楓月)


11

「……そろそろ寝るかな」
 ウヅキは読んでいた本を閉じて棚にしまった。
 日付が変わらないうちに床に着き、朝は日の出前に起きて掃除洗濯炊事をする。上司から「なにその禁欲修行生活」と言われようと、この生活習慣を変えるつもりは、ない。
 今日も一日働いた。
 部屋の灯りを消して、ウヅキは眠りにつく。

 どれくらい眠っただろう。
 ウヅキは夢を見た。
 どこかの秘境に冒険に行っている夢だった。樹高の高い森は広く深く、道も無い。自分は何かを探して、それがなんだかわからないのだが、とにかく森の奥を目指していた。
 すると、何か異様な鳴き声が聞こえてきた。何の動物かは知れないが、危険な雰囲気がひしひしと伝わってきた。辺りを見回すと洞穴があったので、そこに身を潜めた。暗い場所だった。
 だが、鳴き声は消えない。
 もしかして、この洞穴の奥から聞こえてくるのではないかと、ウヅキは思った。
 洞穴から出ようとするのだが、服が岩に挟まって動けなくなっていた。なぜだか知らないが、どうやっても服は取れない。鳴き声は大きくなる。逃げなければ危険だと本能が知らせる。ウヅキはあせった。服は取れない。それなら脱げばいいと思い至った。
 しかし、
 鳴き声は、すぐそこに迫ってきていた。
「ギャー!」
「!?」
 ウヅキは飛び起きた。
 そこは、暗い、自分の部屋だった。
 ……夢か、と思ったが。
「ギャー!」
 夢じゃない。聞こえる。
 鳴き声というか、これは叫び声だった。
 寝ぼけていた頭が冴える。それは卯月の声だった。
「卯月!?」
 ウヅキは部屋を飛び出した。


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