北の果ての館近くにて。
「あれは、おとなしく行ったのか?」
尋ねる紫の主は、雪混じりの寒風に吹かれていた。
「行かせましたとも。主の直下にて自ら騒ぎを起こすとは……まったく」
側に片膝をついて控えるは、新殻衛兵が長、白柳。常に厳しい表情が、さらに極寒のように険しくなっている。
「呆れたことをしてくれた」
冷たい息を吐いて、北の賢者は、雪の流れる空気のなかで長い髪をかきやった。その紫の瞳が怒気に揺らぐのを見て、隣に寄り添っていた黒髪の佳人が悲しそうに言った。
「主上。お願いでございますから、あまり酷い目には遭わせないでやってくださいまし。セイシェルだって故意にした訳ではないのでしょうから」
「雪葉、そなたが呼んでやるような価値はない。あやつなど」
「でも、……でも、」
黒髪の乙女が涙ぐむのを見て、主は表情を和らげた。
「泣くな。雪葉」
「主上、どうかお情けを、」
巫女の奏上を追うように、白柳は逆のことを申し上げた。
「主上、情けなど無用にございます」
「……」
雪葉が涙を落として父だった物を見下ろすが、新殻衛兵の長は意に介さず首を振った。
「あの歪み曲がってふざけた性根、誰になりと叩き直されれば良いのです。己が何のためにそこに封ぜられているか、とくと心身に刻み付ければよいかと」
「そういうことだ、雪葉」
さめざめと泣く巫女に、主は、ただ彼女だけを安らがせるためだけに、優しい声音で言った。
「安心しろ。私が壊さない限り、あれは何をされても元に戻る」
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