万の物語/十二万ヒット目/十二の月が巡るまで〜ウヅキと卯月〜

十二の月が巡るまで〜ウヅキと卯月〜

すぎな之助(旧:歌帖楓月)


51

 昼を過ぎても、懲罰執行部長は帰ってこなかった。
 ウヅキは、一応、4階に上ってみた。
 扉を開ける。生活安全部長は居ない。職員が4人ほど居た。
「お疲れ様です。うちの部長、あれからどうなりました?」
「さー」
「わかんね」
「君が何を言ってるかすらわからん」
「ウヅキチャンが知らないコト、俺らが知ってるワケないじゃんねー」
 予想通りの反応だった。
 別のことを尋ねてみる。
「昨日の事件はどうなったんでしょうか?」
 一同のこめかみに青筋が電撃的に浮かんだ。
 これも予想通りの反応だった。
「ちょっとコッチ来いやウヅキチャン。このボクのお隣に空いてる椅子に座って、向かい合ってオハナシしよーや」
 手招きされた。
 言われたとおり入室して、職員の右隣に座った。
 しばらく、無言だった。眉根を寄せて、ふー、とか苦々しく息を吐いたり吸ったりしている。
 あからさまに、怒っているとわかるしぐさだった。
 ウヅキは、相手の言葉を待った。
 やがて、
「ガサ入れで不法就労者については検挙した。が、そんなもん事件とは関係ねー。今回の目的である『女性大量行方不明事件』は成立しなくなってたのだぜ」
「どういうことです?」
「よく聞いてくれたな!」
 ウヅキのその問いかけを呼び水に、職員らが一斉に顔を真っ赤にして立ち上がった。もちろん照れている訳ではない。
 怒り狂っているのだ。
「お前んトコのガキだよガキッ! 全てはあのガキィ! あのガキの所為だったんだよ!」
「アノ事件自体、全部幻! 夢!」
「あれ現実じゃなかったんだよッ!」
「お前んトコにある本! あれの一枚を、あんのクゥッッソガキが破いた所為で、その上、その一枚を歓楽街に、よりによって書いてあるのと同じ場所にあんなもん落とした所為で! こんなことになったんだ! 畜生ッ、俺の数日間の夜勤を返せ! 睡眠時間をぉおお返せ!」
 本にされた魂の一枚が見せた幻影に、踊らされたのだ。
 だいたい、ウヅキの予想通りだった。
「それで、うちの部長はどうなったんです?」
 ふーふーと鼻息荒い職員たちに、ウヅキは再度聞いた。
 フハハハと職員達が嗤った。
「動けりゃそのうち戻るんじゃね?」
「ま、帰って来なくても、何の問題もないケドねー」
「そーそーそ。無くてイイけどね」
「そうですか」
 自業自得なので、仕方が無い。
「ところで、生活安全部長はいらっしゃらないのですか?」
 答えはわかっていたが、あえて聞いてみた。
 職員らは、がっくりとため息をついた。
「はぁぁ。そこなんだよ……。今日は、朝からずっと姐さんのお姿が見えないんだよな。一体どちらにいらっしゃるのか……。姐さァん、寂しいです」


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