万の物語/十二万ヒット目/十二の月が巡るまで〜ウヅキと卯月〜

十二の月が巡るまで〜ウヅキと卯月〜

すぎな之助(旧:歌帖楓月)


「すげえあついの! ウヅキが目指すホットケーキを、俺は見てきたぜ!?」
「すごいなそれは」
 二人で夕食を食べている。
 卯月はウヅキに、午後にマサヤからふるまわれたホットケーキのことを報告していた。
「是非作り方を教わりたいものだ」
「んんー。マサヤは『ふつうだよう』って言ってたけどな、」
 卯月はのどかな口調を真似しながら、焼き魚をぱくつき、白ご飯をかきこんだ。
「絶対何か秘密があると思うね!」
「あるだろうなそれは。気になるなあ。卯月、おかわりは?」
「おお。すまねえなー、いつも」
 茶碗を差し出しながら、少女は「なあ、」と首を傾げた。
「俺、食べすぎ?」
 茶碗を受け取ったウヅキは、眉をひそめた。
「卯月。『俺』じゃないって」
「……アタシ。食べ過ぎか?」
「別に?」
 ウヅキも首を傾げる。白飯をよそった茶碗を、少女の前に置いてやる。白く光るご飯を目にすると、彼女は自然と顔をほころばせる。ウヅキは、それを見るのが実は好きだった。
「それを言うならだ。私なんか、何杯おかわりしてると思ってる? お前、まだ二杯目だろ」
「ううー、」
 焼き魚をつつきながら、卯月はうなった。
「俺、ああアタシ、朝な、ウヅキんとこのクソチビに会ったんだ」
「……ああ。聞いたよ部長達から」
 少女は上目遣いになった。
「『太ったんじゃねえか?』って言われたんだが」
「全然」
 本心として、ウヅキは卯月のことを「変わらないやせっぽち」だと思っているので、堂々と首を振った。
「そか。俺、ああいや、アタシ、ウヅキんちの食費について」
「食費? いつ遠慮なんか覚えた。気味悪いな。それよりよく見ろ。私の方が多く食べてるだろ? お前ぐらい居ても変わらない」
 むしろ「試作品」を食べてくれるから助かる、と思っていたが、ウヅキはそれは言わなかった。
「んー」
 そうかな、と、つぶやいてご飯に目を落とす少女に、ウヅキは「食べろ」と促した。


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