万の物語/二万ヒット目/北の空二万の星〜白い星の隠し巫女〜

北の空二万の星〜白い星の隠し巫女〜

すぎな之助(旧:歌帖楓月)


12

「む? 最終決戦かな? どうやら」
 ノウリジは、首を傾げる。
「でも。どうもよくわからないんだよなあ。ユキハちゃんの世界がどうなってるのか」
 インテリジェが苦笑した。
「なんだ。それだけ熱心に見てるのに、わからないのか?」
 ノウリジはあっさりうなずいた。
「見れば見るほどわからなくなるのさ。新殻衛兵だの、累機衆だの。なんで戦うんだろう? 彼らの主は誰で、一体何を考えてるんだか。本当に不思議の世界だよ。本当に現実なのかな? 夢みたいだよ。夢の世界なのかもな」
 あの神社の中に何か謎があることは、たしかなんだけどな、と、紅の賢者は首を傾げる。
「凶星?とか、苦界?とか、初めて聞く言葉も出てくるしな」
 紅い賢者は、肩をすくめた。
「ま、いいか。さて。賭けはお前の勝ちだったな。北の空、二万の星のうちの、どれが最初に落ちるか」
 虹の珠を床に置き、三杯目の火酒を飲み干して、ノウリジは、正気のままで残念そうに言った。
 インテリジェは、酒瓶を暖炉の火に透かして見て、残量があとわずかであることがわかると、あきれた顔をした。
「どうして酔わないのだ。まあいい。ああ。私の勝ち。お気に入りが落ちたのが、哀しいといえば哀しいが」
「これだと指定したのはお前だろう? 哀しむならこんな賭けをしなければいいんだよ」
「賭けには勝てたし、星を救おうかとも思ってるが」
「ふーん」
 好きにすれば? と機嫌良く言ったノウリジは、左手に持った珠を見ると、がっかりした。
「でもなあ。お前はその星がお気に入りだろうけど。俺だってこれが、お気に入りなんだけどな」
 インテリジェは苦笑する。
「なら、もう一度賭けをするか? 仕切りなおすか?」
 ノウリジは、怪訝な顔で、友を見た。
「なんでだよ? お前、これが欲しいから、賭けをしたんだろ? 星の寿命当てを」
「そうだが。しかし、お前がそこまで珠に入れ込んでいるとは思わなかったのだ」
 インテリジェも、一応は、相手を思いやっているらしい。
 だが、ノウリジの方が首を横に振った。あっさりと。
「いやいや。俺は、珠じゃなくてユキハちゃんがお気に入りなんだよ。へへ」
 幸せそうに、ノウリジは笑ってみせた。
 そして、こう言った。まるで、友よりも年長者であるかのような、余裕のある笑みを浮かべて。
「お前もさあ。インテリジェ。小鳥とか星ばっかり見てないでさ。お気に入りを見つけろよ?」
「まあな」
 インテリジェは、片頬で笑った。
「星を賭けるほど気に入るもの、そんなものがここにいてくれたら、……いいがな」


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