万の物語/二万ヒット目/北の空二万の星〜白い星の隠し巫女〜

北の空二万の星〜白い星の隠し巫女〜

すぎな之助(旧:歌帖楓月)


14

「何やってんだよー! 助けろよ誰かっ!」
 ノウリジは、叫んだ。
「累機衆! お前ら消えてる場合か! 不思議の世界の可愛いユキハちゃんが、今や大変なことにっ!」
 紅い青年は、立ち上がって地団駄を踏んだ。
「だったらお前が行けばいいではないか」
 インテリジェは呆れて、眉根を寄せながら友を見上げた。
「私がお前ならば、考える間もなく動くが?」
 ノウリジは、しかし、逡巡した。
「いや、でも」
 紅い髪の青年は、うぶな女の子のようにもじもじする。
 気味悪そうに顔をしかめて、友は聞いた。
「どうして迷っているんだ?」
「だって」
 うわめづかいで、友を見る。
「この面々って、なんか……おかしくないか? おかしすぎるだろ?」
「どこがだ?」
 インテリジェの間髪入れない問いかけは、ノウリジにとって、ひどく意外なものだったらしく、答えを返すのに数瞬を要した。
「ええ!? どこがって? ……おまえ、」
 まず、あんぐりと口を開けたまま、相手に返す言葉を組み立て、やがて、とぎれとぎれで返答した。
「お前、正気か? なんでそんなこと聞くんだよ? もう。全体的に構成がおかしいだろ? 意味不明の単語も堂々と飛び交ってるし」
「おかしな世界だから、ひるんでいるのか? 賢者が? 星の主が? それは困ったことだ」
 面白がるように、インテリジェが言う。
「お前お気に入りの雪葉に危険が迫っているのに? それでもか? 今助けないでいつ助ける? 今行かないでいつ行くのだ?」
 なぜか、責めるように促されて、ノウリジは渋い顔になった。
「いや、助けるけどさ。助けるんだけれども。でも、なんか……、」
 インテリジェは、それでも動こうとしない南の賢者に、同情半分の笑みを贈った。
「まあな。逡巡するのも、無理はないかもしれんな。たしかに、これはおかしい。あまりにおかしすぎて、危険すら感じる。その理由が明らかになるまでは動かないという、お前の理屈も、納得できはする」


←戻る次へ→

万の物語 作品紹介へ inserted by FC2 system