『命令だとおっしゃられた。もう、うんざりだ』
また私の悪口を言っている!
臣下の陰口が、聞こえてくる。
『また言われたよ。わからないからお前たちで決めろ、これは命令だ、……と』
『私たち下の者が判断してはならないことだからこそ、主の意向を伺っているのだが。さて、困ったものだよ』
くそ。わざと大声で。
私に聞こえるように、わざと大声で言っているのだ。私が何も言い返せないのをわかっていて。
私の背中はぞくぞく粟立った。怒りのために。
どうにも、慣れない……この臣下達の陰険さには。いや、慣れるものか。慣れてたまるか! 私は、臣下が思うような無能の者ではない。断じてだ。
真の私を、本当の私を知りもしないくせに。勝手なことばかり。
『知恵というものがないのか……』
『ご自分で考えようとなさらない方だから』
うるさい。うるさい。何もわかっていないくせに。
はらわたが、煮えた。
どいつもこいつも。無能だの軽薄だの、私をののしることしかしない。
ゆるせん。
とにかく、どんな理由であれ、見下げられるのだけは嫌だ。自分は、この国の主なのに。主が笑われるなんて、あってはならないことだ。
父から国を継ぎ、未熟で鬱屈した主。
臣下の苦言に辟易していた。
そんな彼がしたことは、人知れず神社をつくること。
他者にはそうと悟られないように、鳥居もつくらず、社も置かず。木と木との間に、ただ荒縄を引いて。自分の庭に作った。
そして、深夜、そこに詣でた。
まつられる神体も無い。あるというなら、心の中に。凝り固まった「不満」こそ、その神社の神体だった。
誰にも知られず、毎夜毎夜、社に詣でる。
荒縄の下を、毎夜毎夜。
政務を学ぶこともせず、ただそればかりを。
願いは、自分が馬鹿にされなくなること。臣下の雑言が止むこと。主を敬わない者ならば、誰もいらない。誰も。
やがて願いが通じたのか。
ある夜、空から星が降ってきた。荒縄の下に。
「おお!」
国主の元に、まつられるべき神体が、降ってきた。
誰が見ても、それは天からの授かり物。実際、空から降ってきたのだから。
国主は、堂々と、人を使って神社と社を造らせることができた。星をまつる社を。
己の、真なる願いを隠したままで。
そして、毎夜毎夜、今度は、社にまつられた星に願った。
臣下を含めた周囲の者たちは、そんな国主の姿をこう評価した。執着していると。信仰熱心だとも、敬虔な方だとも、言わなかった。
しかし、国主は、もはや他人の評価など気にも留めなかった。
国主の、彼のためだけの神体ができた。これで充分だった。
他には何もいらない。
臣下から軽蔑されようが、構わない。心の中の思い全てを、星にあずけた。
やがて、
願いがかなった。
完全に。
だが、あるとき、神が降りてきた。
それを返してもらいにきた、と、神は言った。
しかし、
国主の願いを聞いた神は、彼と約束を交わし、彼に星を置いていった。
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