万の物語/二万ヒット目/北の空二万の星〜白い星の隠し巫女〜

北の空二万の星〜白い星の隠し巫女〜

すぎな之助(旧:歌帖楓月)


20

「行くぞ雪葉」
「はい。主上」

 世界が、変化した。

 黒い雪雲が垂れ込めた空は、紫に。
 灰黒の土と、純白の雪が落ちた地面は、紫に。
 雪交じりの空気は、紫に。
 時おりゆらぐ、まるで蜃気楼のような街並みは、紫に。
 時間は、紫に。
 世界は、紫になった。

『う、うわ、ウワ、イヤダイヤダ、嫌じゃ、嫌じゃ、嫌じゃー戻りたくない!』
 祐人は、叫んだ。
 徐々に、少年の声は、成人のそれに変化した。
『世界はワタシノものになるのではなかったのか!?』
 欲望が、男を叫ばせた。
 少年の姿だった人間の形は、ゆらゆらと揺れる蜃気楼の男の姿に、国主に……戻っていた。

「全て約束通り」
 巫女を連れた賢者が現れた。
 美しい少女を抱いた紫の青年が現れた。

『!』
 聞いた声だった。
 過去、そう、昔。自分が少年ではなかったころ。この世界の中の、小さな国の主であったころに。
 約束する、直前に。世界が雪白に染まる直前に。
 聞いた声だった。
 祐人は、思い出した。
 約束を。
 思い出して、気づいて、愕然とした。
『しまった……!』
 すべての記憶が戻ると、祐人の口は後悔に乗っ取られて叫ばされた。
『お、おおっ! なんてことだ! なんてことなんだ! 私は、私は……私は何故、こんな生き方をしてきたんだ!』 


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