「行くぞ雪葉」
「はい。主上」
世界が、変化した。
黒い雪雲が垂れ込めた空は、紫に。
灰黒の土と、純白の雪が落ちた地面は、紫に。
雪交じりの空気は、紫に。
時おりゆらぐ、まるで蜃気楼のような街並みは、紫に。
時間は、紫に。
世界は、紫になった。
『う、うわ、ウワ、イヤダイヤダ、嫌じゃ、嫌じゃ、嫌じゃー戻りたくない!』
祐人は、叫んだ。
徐々に、少年の声は、成人のそれに変化した。
『世界はワタシノものになるのではなかったのか!?』
欲望が、男を叫ばせた。
少年の姿だった人間の形は、ゆらゆらと揺れる蜃気楼の男の姿に、国主に……戻っていた。
「全て約束通り」
巫女を連れた賢者が現れた。
美しい少女を抱いた紫の青年が現れた。
『!』
聞いた声だった。
過去、そう、昔。自分が少年ではなかったころ。この世界の中の、小さな国の主であったころに。
約束する、直前に。世界が雪白に染まる直前に。
聞いた声だった。
祐人は、思い出した。
約束を。
思い出して、気づいて、愕然とした。
『しまった……!』
すべての記憶が戻ると、祐人の口は後悔に乗っ取られて叫ばされた。
『お、おおっ! なんてことだ! なんてことなんだ! 私は、私は……私は何故、こんな生き方をしてきたんだ!』
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