万の物語/三万ヒット目/人質は三万〜誕生日の贈り物〜

人質は三万〜誕生日の贈り物〜

すぎな之助(旧:歌帖楓月)


 蒼い花が好きだと言った。
 最初は優しくて頼れる年上の人。次に会ったときは、まるで同級生の気安さで。三度目からは……。
 案内された温室には、蒼い花ばかりが咲いていた。蒼い蒼い、ツユクサ、デイジー、ディモルホセカ、ハツコイソウ、ケシ……蘭。
 蒼い蘭なんて、はじめて見た。生まれてはじめて見た。
 どうしてそれが好きなのと、尋ねた時に彼は笑った。
「蒼は永遠の未来。熟れて朽ちるものに興味は無い」
 思えばあれが、「優しい彼」の最後の言葉。
 どこに咲いていたのとたずねたら、
「世界の果てまで探してでも、欲しい物は手に入れる」
 そして、
 地獄が始まった。
 私は彼の、蒼い花。

 私は、彼の蒼い花。
 けれど私は、花じゃない。いつか必ず熟していく。
 必ず彼は私を捨てる。私は自由を手に入れる。
 「私」は、自由を手に入れる。
 けれど、その時私は思い知る。

「やめて! 子供にまで手を出さないで! お願い、……止めて!」
「うるさい。捨てられて野垂れ死なないだけありがたく思え。お前みたいな使い古し、誰も相手になんかしてくれないんだからな」
「酷い! あの子のこと、あんなに大事にしてたじゃない!」
「当たり前だ! くたびれたお前の代わりにするんだからな!」
 そして彼は手に入れる。
 彼の新しい蒼い花。
「……サヨーッ!」
 蒼い花は悲鳴を上げた。

 やがていつしか母は知る。
 蒼の対極。理想の娘。
 向日葵色の微笑を。
 それは次女に間に合った。
「ごめんね、サヨ」


←戻る次へ→

万の物語 作品紹介へ inserted by FC2 system