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人質は三万〜誕生日の贈り物〜

すぎな之助(旧:歌帖楓月)


11

「やっりぃ。大収穫ぅ」
 荒れ放題の秋の草原のような、ぼさぼさの短い茶色の髪。
 少女は、すすけた顔をニタニタ笑いで歪めて、大きな独り言を言いながら、街をひょこひょこ歩いていく。
「最近つきまくり。メシにもありつけるし。こんなのももらえたし! ついてる時は、どこまでもついてるもんよねぇ」
 彼女は、上着から何から、灰色に汚れている。一見すると、山火事から焼き出されてきた、隠遁少女。全身が荒れていた。手入れしていない髪、露出している肌はすすを被って変な色。あちこち破れた上に汚れた衣服。足は裸足。
 街を行きかう他の人々はおしなべて身奇麗。
 だから、少女の姿は周囲から浮いていた。
 人々の中には、ひどく気の毒そうな顔をして、てくてく歩いていく少女を見送る者もいる。動くゴミを見てしまったかのように、嫌悪感むきだしで顔を背ける者もいる。
 街頭では、慈善団体だか政治団体だか卯月にはよくわからないが、とにかく社会に働きかけたい人間の集団が、「希望はかなう!」とか「幸せをあなたの手に!」など書かかれた横断幕を背景にして、活発な演説を繰り広げている。卯月の耳にも、「さあ立ち上がりましょう! 恵まれない貴方こそが、社会の主人公、幸福の受取人なのです!」という青年や中年女の口上が入ってきた。が。
 少女は気にしない。見なかったことにする。で、歩き続ける。
「あーあっ!」
 空は曇り。そろそろ降りだしそうな、重暗い灰色。
 少女は、思い切り伸びをした。ぱらぱら、と、全身から灰色の粉が落ちて地面を汚した。悪臭もした。魚が腐ったような。
 しかし、そんなことには、少女は構わない。
 ひどく上機嫌だった。今は。
「臨時収入もあったことだし! メシもらって、風呂入って……あ、そーだ、あいつに会わなきゃね、うん」


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