もう無関係だと思っていたのに。
ウヅキの気分は、池の底のヘドロのように沈んでいた。
卯月が庁舎に来ているらしいのだ。そして、ウヅキに用があるという。
なんで俺に用があるんだ? 何か罪でも犯したから、身元引受人になってくれ、とか?
機動部の三人とウヅキ、なぜかセイシェルまでもが、庁舎の階段を降りている。
通りすぎる署員は、全員が全員、黒服のごつい男たち。
セイシェルのような子供とは一人もすれ違わない。
ウヅキのような、中肉中背の青年とは一人もすれ違わない。
二人は浮いた存在だった。
当然といえば当然。自分たちは、公安庁舎にはあってないような存在なのだから。なぜなら……。
「ウヅキ、てめえ弁当持って来てるのか?」
いきなり、イワベから、おかしな質問が飛び出した。
弁当?
ウヅキの思考は停止をしいられた。
わけのわからない質問。
どうして今、弁当の話になるんだ?
怪訝に思いながらも、青年は答えた。
「いえ。私は、弁当でなく外食で済ませてますので」
「つまんねぇーェつまんねぇーェ」
「?」
「いや、気にすんなよ? こっちの話」
「……?」
そうは言うものの、いやに悔しがっているのはどうしてだろうか? 話が見えない。
しかし、たかが弁当の話だ。そう気にするものではない。
ウヅキは忘れることにした。
三人と二人は、階段を下りていく。
二階から一階への踊り場で、すれ違った署員が鼻で「へッ」と笑って、セイシェルの頭を片手でなでていった。
「てめえッ!? 馬鹿にしてんのか! 生活安全部だなお前! 顔見たことあるぞ!?」
噛み付くセイシェルに、相手はガハハハと笑って、一つ上の階から言葉を投げ捨てていった。
「はーい、そうですよーォ? ボクちゃん賢いですねーえ?」
「ぶっ殺す!」
追い駆けようとするセイシェルを、ウヅキが抱え上げた。
「やめてくださいよ。本当、みっともないから」
「離せウンコー! おおい生活安全部! ああもう誰でもいいや! 代表でテメんとこの部長代理に天罰くだしてやっからなーー! ちょっ、もう、離せや、ウンコ! ウンコー! 聞いてンのか? ウンコ、おいい!」
「……。進行方向に放り投げていいですか?」
「!」
部下の静かな言葉に、部長の小さな体がこわばった。つまり、階段から投げ落とされる、ということで。
「は、はは」という、震えた笑いの後、嫌に長い口上が続いた。
「いやほら、馬鹿お前、今のはあれだよ? あれ、あの、ほら、掛け声。ウンコってのは、あの、単に掛け声だから、俺がウンコっつう時は。な? あの、何か、誤解してない?」
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