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人質は三万〜誕生日の贈り物〜

すぎな之助(旧:歌帖楓月)


16

「あー! ウヅキぃー! やっと来たなー!」
 一階、機動部に入った途端に、
 懐かしいが思い出したくない声が響いた。
 いた。
 ウヅキは、今日これまでで一番疲れた。肩から首にかけて、痺れを伴った気だるさが襲った。
 ああ……。このなつかしい金切り声。できれば、あれきり二度と会いたくなかった。虹の珠騒動で終わりにしたかった。
 しかし、一応、ウヅキは、あいさつしてやった。
「やあ卯月。久しぶりだな」
 だが、相手の返答はというと、
「ウヅキィ、遅いんだよ来るのが! 相変わらずトロい奴うー! まちくたびれたぜ!」
 相変わらずだった。
 言いたいことを自己中心的にまくしたてる。
 卯月は変わらない。
 最後に会ってから一年経っているというのに。成長しない。
 少女の暴言に、はたで見ていたアリムラの方がぎょっとしたようだった。
「おう、ウヅキ。この子だけどさ、「お前の彼女」で正解?」
 ウヅキは、今日これまでで一番嫌そうな顔をして、激しく否定した。
「そんな訳ないでしょう! 断じて違います!」
「うぉ、ごめんなさい。すんまっせん」
 勢いに押されてアリムラが率直に謝った。そして同僚たちに言う。
「おいみんなぁー、僕が今から言うことを、よーく聞いてねぇ? ハズレェ。ハズレだよー。ハズレだってさー」
「え? そうなの? んだよ損したぜ」
「違うの? つまんね」
「駄目だこりゃ」
 これまで興味津々といった体で集まっていた機動部の面々は、それをきっかけに解散し始めた。
「あー。それじゃ、外勤行こ。いってきまース」
「俺も」
「俺は仮眠を取ることにシまーす。あー眠。今まで起きてて損したぜ」
 ウヅキは呆れた表情で、彼らを見た。彼女かどうかを賭けていたのかもしれない。まったく暇な人たちだ。

 当初20人近くいた機動部に残ったのは、ウヅキ、卯月、セイシェル、アリムラ、イワベ、ヤマグチ、の6人。
 面倒くさげに、ウヅキはたずねた。仕事の続きをしたいのに。
「で、何しにきたんだ? 卯月」
「『アナタに会いたくて……』って、ウガェ!?」
 ウヅキは、左下で代理返答した上司に、問答無用でげんこつを落とした。
「静かにしてください部長。勝手に代弁しないでください」
 懲罰執行部の青年は、少女に視線を固定したまま言った。
 セイシェル部長は、頭頂部を両手でそっと労わるようにさすりながら、涙声でつぶやいた。
「こいつ信じられないぜ。今、俺、視界が緑色になってる。すごい衝撃。しんじられない。普通、加減するだろ? 俺のガタイ、こどもだよ? 壊れてない俺?」
「卯月、答えろよ」
 ウヅキは、再度うながした。
 一方の彼女は、なぜか、うつむいてしまって、無言を決め込んでいる。
 ……しゃべる気が無くなったのなら帰ってくれないかな。
 ウヅキはそう考えてしまう自分を、しかし、人間として恥ずかしいとは思わなかった。それほどまでに卯月は失礼な少女だった。
「でへへ」
 下を見た顔から、笑い声が発生した。
「でへへへへ!」
 最初は小さかった笑い声は、しだいしだいに遠慮のない大声になっていく。
「へへへへー! うひゃひゃひゃひゃ!」
「卯月?」
 ウヅキはだんだん心配になった。卯月は変人に違いない。が、こんなふうに「変」な子ではない。もっと、人として嫌なふうに変わっているのに。
「どうした? 卯月」
 変なものでも拾って喰ったのか? と続けようとした時、
「アーハッハッハッハッハ!」
 卯月は、顔を上げ、腹を抱えて、大いに笑い出した。
「ハハハハハハー! チービチビー!」
 少女の視線の先には、セイシェル部長がいた。
「チビチビー! あははははー!? なんでガキがいるんだよォ!」
 それまで部下への不満を漏らしていた子供は、嫌な奴の登場にまなじりを決した。
「んだこらァ!? 初対面で何ナメた口きいてんだ、このガキがァァァ!」


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