「だから何度説明したらわかるのよバカー! これはもらったのぉ! もらったったら、もらったんだってばー!」
「うるさいわ! このクサレ宝石泥棒がっ! さっき盗んだってさんざん自慢してたろうがバーカ!」
「んだとこの筋肉男ーォ! 違うンだよ!」
地下の留置所は、ひどく騒がしかった。
「なにぃ筋肉男だとォ!? フフン。最上級の褒め言葉だぞうれしいな!」
鉄格子の中と外でやりあう、少女と男の所に、ウヅキとセイシェルがやってきた。
「おーい。コソドロと筋肉脳。みっともない喧嘩はやめろや? そもそもお前ら、存在自体がみっともな……」
セイシェルの言葉の途中で、ヤマグチが黒い革靴を脱いで投げつけた。
「チビ、口の利き方に気をつけろや?!」
豪速の革靴がセイシェルの顔にめりこむほど当たった。
セイシェルは真後ろに倒れた。
それをそのままにして、ウヅキは一礼してから言った。
「すみません。卯月の事情聴取に来たんですけど。ヤマグチさん」
「その前に、そのチビ、そこのナマゴミ入れにしまって来いや?」
「いえ、まだ動いているので」
「動いて、って……。さりげにひでぇ奴だなぁ。お前」
ヤマグチはセイシェルの方へと、頭をかきかき面倒くさそうにやってきた。
「おい、セイシェルちゃんよ? テメエの部下さんは、冷たいねぇ?」
セイシェルの腹の真上に、右足を振り上げた。もう片方の革靴を履いた足を。
「死なねェと、お家のナマゴミ入れに帰っちゃダメだってさア?」
んじゃさよなら、と言って、思うさま足を振り下ろす。つまり、腹を踏み潰そうとする。
「ひ、人殺しぃ!」
気絶していたセイシェルが、殺気を察して飛び起き、飛び退った。そばにあった木製の大きなゴミ入れにぶち当たり、それを横倒しにしてしまう。
ドガン、と音がして、ヤマグチの革靴つき右足が床に打ち込まれた。
耳を突く重低音に、ウヅキは顔をしかめる。
泡を食ったセイシェルは、震える声で叫んだ。
「テメ、今、今、今っ何しようとしやがったァァ?!」
「なんだァ。ボク、自分でおうちに帰れるんじゃないのぉ。手間掛けさせないでよぉ」
ヤマグチは、右の頬だけで笑った。
「ほら、お家の中身が散れてるよオ? ちゃんと持って帰ンな? チビゴミ」
「今、何するつもりだったかって聞いてんだこらァ筋肉バカ!」
「うっせ」
ヤマグチは、右足が履いていた靴を脱いでセイシェルに投げつけた。
顔に当たった。
真後ろに倒れた。
おり(おり)の中から見ていた卯月が、ふゃははははと笑った。
ウヅキは、卯月が入れられている牢の前に立っていた。
左隣にはヤマグチがいて、細い目でにやにや笑いながら、茶髪の頭をかいている。
「卯月。お前の事情聴取に来たんだけど」
少女は、鉄格子を両手で握って、かたきのようにゆすっている。しかしびくともしない。
「なあ。ここから出せよォ、ウヅキ」
「虹の珠をどこで手に入れたのか。教えてくれないか?」
卯月は舌を出した。
「出すまでしゃべんねぇぞウヅキ」
「……」
眉をひそめた青年は、隣の岩鉄男に聞く。
「出していいですか? ヤマグチさん?」
「駄目に決まってんだろ」
「出すまでしゃべんねぇぞ」
ヤマグチと卯月の言葉は同時に発せられた。
ウヅキはため息をついた。
「じゃあ、卯月」
「何よう?」
「その虹の珠の持ち主はどうしているか、それだけ教えてくれないか? その人を探してるんだ」
これまでと種類の異なる質問に、今までふて腐れていた卯月は、呆けて(ほうけて)口を開けた。ぽかんと。
「どうした卯月?」
怪訝な様子のウヅキに、卯月は、へへ、と、取り繕うように笑いかけた。
「あー。忘れてた。頼まれてたんだった」
「何を?」
「ユキハって人から、あんたに伝言」
ユキ、ハ?
……?
ウヅキは、聞いたことの無いユキハとかいう人が、どうして自分に用があるのか、わからなかった。
「ユキハって、誰だ?」
卯月は「うぇ!?」と、すっとんきょうな声を出した。
「てっきり、知り合いかと思ってたのに。懲罰執行部のウヅキか部長にって言われたんだぞ? なんだ、お前、知らないのか」
そう言いながら、卯月は、懐にしまった「虹の珠」を取り出した。
「この持ち主だよ」
「雪葉だ!」
ウヅキと、起き上がったセイシェルが、同時に叫んだ。
「うるせぇっ」
ヤマグチが眉をひそめた。
そのヤマグチに、チビが飛びかかってきた。ひどく急いでいる。
「雪葉! 雪葉だよオイ! うぉぉ雪葉ァっ! よーしッ! おゥ、無駄筋肉ッ! 希望が見えてきたッ! 今すぐそのガキ出してやれ!」
「うるせ」
ヤマグチは無言でセイシェルをつまみ上げると、天井へと放った。
「え? あれ? ちょっ!? あーれーッ!」
飛んでいって当たって落ちた。
「アハハハハ! なぁー? あいつ。良く死なねえなぁ? さっきから」
卯月はその様を可笑しそうに見ながら聞いた。
ケっ、と、ヤマグチが吐き捨てた。
「おうさァ。だってあいつ、生き物じゃねぇもん」
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