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人質は三万〜誕生日の贈り物〜

すぎな之助(旧:歌帖楓月)


23

「『罰は私の与えるとことではないと、主要がおしゃった』って伝えてと言われたんだけど?」
 卯月の言葉を、耳の穴をかっぽじって聞いていたセイシェルは、首を傾げた。
「待て待て。『罰は私が与える所ではないと、主上がおっしゃった』じゃないのか、小娘?」
 しかめっ面での訂正に、少女は相手よりも首を傾げた。
「え? 『まずは渡しノア耐える床……』 え? もう一回」
 セイシェルは、優しく微笑んで首を振った。
「お前の脳内変換機能ってすげえなあ。……ふふ、いや、いいんだよ。バカガキがそこまで覚えてただけでも合格点だよ。いいんだいいんだ、アッハッハ。さあ、自分の巣箱におもどり?」
「ウガー! バカにすんな!」
 卯月は、鉄格子ごしに拳を繰り出した。
「グハッ!」
 それは、もろにセイシェルの顔面中央に入った。
 真後ろに倒れ行く部長に、ウヅキは、珍しく若者らしい明るいさわやかな声を出した。
「部長っ! 解決しますね!?」
 ヤマグチが苦笑いする。
「やあ、嬉しそうだねエ? ウヅキ君。上司サンは倒れちゃったッてェのに」
「はい! 戻って仕事の続きをしないと……」
「ヒュウ、仕事熱心」
 駆け出そうとするウヅキに、卯月が叫ぶ。
「おォいー、出せよオォ!」
「駄目だ。盗んだのは事実なんだろ?」
 ぞんざいに言って、ウヅキは走った。「ケーチ!」という声が背中にぶつかったが、気にしない。
 可哀想と思わないでもなかったが、ウヅキの心の大方がこう思っていた。これでいい。一度くらい、本当に反省すればいいのだ卯月は、と。前回の「虹の珠騒動」の時は、心優しい生活安全部長代理夫人が身元引受人になってくれて、罪にならずにすんだのだから。……卯月は、あの人に感謝したのだろうか?
 いいや。懲りずにまた宝石に手を出したんだから、あいつは反省も感謝もしていないんだろうな、と、ウヅキは苦々しく思った。
 そして、ウヅキは地上一階への階段にたどり着いた。
 だが、そこで足止めをくらうことになる。
「……どうして?」
 青年は驚いて目を見開き、階段から降りてくるその集団を見上げた。


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