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人質は三万〜誕生日の贈り物〜

すぎな之助(旧:歌帖楓月)


25

 その光景は、ちょうど階段のところにいたウヅキと、階段を下りてくる所だった男たちの集団に目撃された。
「なに、あれ?」
 機動部一行は、何か、巨大な手のようなものに、捕まえられ引き戻されていったヤマグチを、呆然と見ていた。
 ウヅキは、首を傾げていた。
「もっと、小さい手だったような、気がするんだけど」
「大小の問題じゃねェだろ。セイシェルのは」
 アリムラが最初に階段を降りきった。そして、うんざりした様子で、ヤマグチが消えていき「ホントすんませんすんません! お助けェェェ!」という声が響いてくる、留置所の方を見た。
「やだねえ、セイシェルちゃんはアレだから」
「機動部長様のお出ましかイ?」
 次に来た金髪のイワベは、両手に収まるくらいの小さな四角い紙箱を持っていた。そしてあごをしゃくり気味にして、ウヅキに言う。
「おいウヅキ。弁当あるだけど、喰わねぇか?」
「……は?」
「弁当だよ。ちょっと、なんか、箱が濡れてるように見えるけどサ。まあ、一般的な、そう、これは正真正銘の喰える弁当だ」
「は?」
 どういうことだ? と、ウヅキは困惑した。そういえば、さっきも、彼から弁当のことについて問われた。一体なんなのだろうか。
「どうして、今、弁当なんですか?」
 イワベは、押し付けるように、ウヅキに弁当箱を差し出した。
「いいから、コレもらっとけよォ。もらってくれねェと、俺の気が済まねんだよ。これ作るの苦労したんだぜエ?」
 次々に階段を下りてくる機動部の面々が、「さっさともらえよ」だの「ありがてェ心遣いじゃねエか」だの、ウヅキに声を掛ける。脅し気味に。
「はあ」
 本当に訳がわからないまま、ウヅキはそれを受け取ることにした。
 手渡された弁当箱は、なぜか、ぬっちゃりと濡れていた。
「?」
 気色悪い感触に、ウヅキは弁当箱を片手で持ち、右手を離して見てみた。
 これは、
「さぁて、セイシェルちゃんに会いに行くかァ!」
「おー」
 ウヅキが何か言おうとする前に、アリムラの号令の下、一行は留置所へと歩き始めた。
 青年は、一人、取り残された。
 弁当のふたを開けてみる。
 だらだらと、薄黄色の透明な液体がこぼれ出した。
 ……食用油?
 箱の中身は、「弁当に食用油をかけたもの」だった。かけたというより、もはや、漬けこんだ様になっている。
「?」
 こんなものをくれたイワベの意図が全くわからず、ウヅキは立ち尽くした。
「何のつもりだ?」


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