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人質は三万〜誕生日の贈り物〜

すぎな之助(旧:歌帖楓月)


45

 17時30分か。悪くない。
 男は、家の門の前で、腕時計を確認して笑った。
 悪くない誕生日だ。
 理想の家族を持ち、定時に家に帰り、家族と共に食卓につく。
 悪くない。
 そして男は、酷薄な笑みを口にのぼらせた。それは一瞬だったが。
 あとは、いらないものを捨てるだけだ。
 私は理想の娘を持っているからだ。
 そうだろう? 愛しいミマ。
 私の愛。

「おかえりなさいませ。旦那様」
 玄関で夫を迎えた妻は、薄紫のドレスのすそを広げて、しとやかにお辞儀をした。
「ただいま、お前」
「父さん、お帰りなさい。お邪魔しております」
 玄関で父を迎えた息子は、紺のスーツをびしりと着こなし、精悍な微笑を浮かべながらも、丁重に礼をする。
「うむ。今帰ったぞ」
 そして、
「父さん! かえりなさい」
 愛しい娘が家の奥から出てきた。
 可愛い桃色のドレスを着て。
「ミマ、ただいま。父さん、今帰ったよ。おや? 制服は、どうしたんだい?」
 ミマは、にっこりと笑う。
「父さんの誕生日ですもの。今日はおめかししたのよ?」
「……そうか」
 父は瞳を落とし、少し残念そうにした。
「父さん!」
 ミマは、父のふところにすがりついた。
「大好き!」
 そのはずんだ言葉で、父の機嫌は直った。
「ふふ、そうか?」
 そして娘は父と腕を組み、その後を母が、最後に兄が続いて。
 誕生日の特別な夜が始まる。


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