17時30分か。悪くない。
男は、家の門の前で、腕時計を確認して笑った。
悪くない誕生日だ。
理想の家族を持ち、定時に家に帰り、家族と共に食卓につく。
悪くない。
そして男は、酷薄な笑みを口にのぼらせた。それは一瞬だったが。
あとは、いらないものを捨てるだけだ。
私は理想の娘を持っているからだ。
そうだろう? 愛しいミマ。
私の愛。
「おかえりなさいませ。旦那様」
玄関で夫を迎えた妻は、薄紫のドレスのすそを広げて、しとやかにお辞儀をした。
「ただいま、お前」
「父さん、お帰りなさい。お邪魔しております」
玄関で父を迎えた息子は、紺のスーツをびしりと着こなし、精悍な微笑を浮かべながらも、丁重に礼をする。
「うむ。今帰ったぞ」
そして、
「父さん! かえりなさい」
愛しい娘が家の奥から出てきた。
可愛い桃色のドレスを着て。
「ミマ、ただいま。父さん、今帰ったよ。おや? 制服は、どうしたんだい?」
ミマは、にっこりと笑う。
「父さんの誕生日ですもの。今日はおめかししたのよ?」
「……そうか」
父は瞳を落とし、少し残念そうにした。
「父さん!」
ミマは、父のふところにすがりついた。
「大好き!」
そのはずんだ言葉で、父の機嫌は直った。
「ふふ、そうか?」
そして娘は父と腕を組み、その後を母が、最後に兄が続いて。
誕生日の特別な夜が始まる。
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