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人質は三万〜誕生日の贈り物〜

すぎな之助(旧:歌帖楓月)


49

「そんな女子なんて、いるわけないでしょ?」
「アハハッ!」
 同じ少女達が、部屋の隅でこそこそ言い合った。
 中年男の倒錯した愛に耽る様子をみながら。
「最悪」
「醜い」
「気持ち悪!」
「うえ。もういーい? ミマー?」
「ごめん。もうちょっとよ。もうちょっとの間だけ、待ってくれる?」
 ミマと、人質の少女たちは、心底うんざりした顔で話し合う。
「『動かぬ証拠』を押さえてからじゃないと、いけないのよ」
「ゲーッ!」
 人質たちは、吐きそうな顔をした。
「証拠って『どこ』までー? まさか最後までじゃないでしょーね?」
「取り返しがつかなくなったらどうするのよ? 公安の人たちが来るのって、いつなの? もっと先なの? 間に合わなきゃ、あんたの兄ちゃん呼んだらどう? 社会福祉士さんでしょ。専門家じゃないの」
 人質たちの訴えに、ミマは肩を竦めた。
「まだまだ。犯罪になるまでよ。そうじゃなくちゃ、駄目なの」
「えーッ!?」
「ひどくないそれ!? あの子、可哀想だよ!?」
「だって! 彼女本人が『それでいい』って言ったんだよ!?」
 少女たちが同情の目で見つめる先の、寝台の上では、男が雪葉を組み敷いていた。
 もはや男は、自分の性欲に支配されて、周りが見えなくなっていた。他の少女たちの会話など、聞こえもしない。そもそも、彼女たちのことは、ただ怯えるだけの「か弱く可憐な少女」達だとしか思っていないので、今は注意を払う必要がないのだ。
 そう。
 少女とは、本来、そうでなければならない。
 可憐で純情で清純で気弱で。
 ……やすやすと、男の手にかかる。
 それが男の理想で妄想だった。
「この白い靴下に隠された君の足裏、……たまらない、たまらない、」
 男は、雪葉の右足首を握ると、靴下をなめ始めた。
「うわ最悪」
 聞こえてきた気味の悪い猫なで声と荒い息遣いに、少女達は皆、総毛だった。
「気持ち悪ーいッ!」
「ジジイ最悪!」
「見たくない聞きたくない!」
「けど、アタシたち目撃者役だし。我慢?」
「変態! ジジイ変態!」
「いや嘘ーッ! 靴下なめてるよ!? 馬ッ鹿じゃないの!? もう想像超えてるし!」

 まだ、この「幼児遊び」の程度のうちに、助けを呼ぼうか。と、雪葉は思った。
 つま先が、不快な湿りにくわえ込まれて、ぞっとした。思わず顔をしかめる。
「君、いいね。その顔、なんて理想的なおびえ方だ。よくわかってるじゃないか?」
 ひどくやせているくせに、不釣合いに粘り気のある精力的な声が耳に侵入する。
「そうだ。おびえるんだ。泣け、泣くんだ。君の純潔は、私がめちゃくちゃに汚してやる。さあ……、泣いて嫌がってくれ?」
 顔を寄せ、神経質な顔が頬に口付けしようとするのを手でかわし、雪葉は、もうこれでいいだろうか、と、思った。
 そう思ったところで、ミマと人質の女の子たちの会話が雪葉の耳に入った。
「もうよくない? 見るに耐えないよー」
「まだまだ。犯罪になるまでよ」
 雪葉は、これではまだ犯罪ではないのだろうか? と、思った。
 法のことは知らないから、どうなのかがわからない。
 そう思ったところで、また会話が耳に入った。
「まさかやっぱり最後まで!?」
 ……最後?
 そこまでしたら、彼女たちを助けられる?
 そう思ったときに、男が制服のスカートをまくりあげた。白い脚線をなで上げながら。
 雪葉は思った。
 それなら、それでいい。


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