「わきまえろ、雪葉」
寝台に白紫(ビャクシ)の雷が落ちた。
「キャー!?」
少女たちは驚いて身をふせた。
直撃をくらった男は吹っ飛び、壁に体を打ちつけて、気を失った。
もはや寝台に雪葉の姿はなかった。
代わりに、部屋の中央に、紫色の髪の男が立っていた。左肩に白い小鳥を乗せて。
北の賢者インテリジェは、ひどく不機嫌だった。
「来い」
声を出すのも面倒くさげだった。
同時に、空気が、ズゥンと音をたてて震えた。
部屋中に白いもやが立ち込めた。
「な、何!?」
人質の女の子たち、そしてミマは、何が起こったのか全く理解できなかった。
ただ、前より窮屈になったのがわかった。まるで人ごみの中にいるように、もやの中で、少女たちは押し合いへし合いしていた。
「狭! どうなってるの!?」
全て白いもやの中。訳がわからない。
それを突き抜けるような、色めいた女の艶声が響いた。
「ハッアーイ! 命令に従い、セイシェルとその下僕タチ、来・ま・し・たァーん! 主上、お・ま・た!」
「人数が多すぎる。減らせ」
「はぁい! ただいま! 半分はァ、外で待機ィ! どお? みんなぁ。空間転移って、気持ちイッイでしょー?!」
シュシュッと音がした。まるで蒸気が吹き上がるような音だった。
白い霞が少し薄れ、押し詰められた感じが消えた。
寝台の上に、公安の制服の上着だけを無造作に羽織って胸の谷間を開放的に見せ付けている、ほとんど半裸な金髪美女が立っていた。露出癖があるに違いない。
「アッハーン! アタシ、お仕事ガンバルわよォーん!」
北の賢者は氷のようにつぶやいた。
「うるさい静かにやれ」
「ああん!」
セイシェルはぞくぞくっと、身を震わせた。
「主上の不機嫌なおコトバに、セイシェル、か・ん・じ・ちゃ・う!」
「……壊されたいか?」
主の刃物のような言葉が、お色気新殻衛兵に突きつけられた。
「ウフン?」
セイシェルは、怖じることなく微笑んだ。同時に、右手で波打つ金の髪をゆるゆるとかきあげる。なまめかしいことこの上ない。
彼女の履いた黒い革靴の下には、男のみぞおちがあった。
「壊すのはアタシの仕事ン! 主上は只、ごゆっくりご覧いただいていれば、よろしいのン!」
微笑の温度は急速に低くなっていく。
「主上とアタシの愛しい雪葉の靴下をなめた罪は、スンゴク重いわよン? 聞いてる? 部長代理ン?」
言いながら、男のみぞおちを踏みつけにする。
グググ、と、寝台の下敷きがきしむ音がした。
「ああっ! アアッ!」
男は声を上げた。
「んふ?」
セイシェルは片頬で嗤った。
「そぉんな苦しい声だけじゃァ、アタシを悦ばせるコトはできなくってよォん? 部長代理ン?」
「あああ」
「『あああ』じゃないのン。アタシはアナタの上・司! アナタはアタシの下僕なのッ! ホォラ、カエルみたいな、そのみっともなァい格好でェ、『麗しいセイシェル生活安全部長様』とお呼びッ!」
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