万の物語/四万ヒット目/四方山話〜賢者達のお家事情〜

四方山話〜賢者達のお家事情〜

すぎな之助(旧:歌帖楓月)




西賢者のお家事情

ノウリジ:
 次は、西の賢者のところに行ってみよう。
(自宅を出る。空は晴天、景色は緑の野原)
 あー。さっきの「異世界巡り」で疲れたなあ。ちょっと運動しとこ。
(のび。屈伸。首を回す)
 さてと。
(西へ向かって歩き出す)
 西の賢者はウィズド。彼の巫女は凛(リン)。二人は夫婦だ。象徴色は青。
 ウィズドは、世間では四方一の美形賢者」と言われてる。
 うー、まあ、たしかにきれいだな。
 性格も優しいし。穏やかだし。うん。
 そんでもって、四方一の苦労性だ。
 理由はな、ううん……。ま、会ってみればわかる。
 さあて、着いた。
(空はかすみ晴れ。南の賢者宅よりも若干涼しい。)
 西の風景は、いわゆる「趣きがある」っていうのかな。いい感じの枝ぶりをした木が生えてたり、詩情を誘うような草花が咲いてたりする。静かで、情趣たっぷりだ。
(西賢者の館前に立つ)

 ? あ、あれ?
(呆然)

 この前まで、ウィズドの家って「寝殿造り」じゃなかったっけ?
(注:寝殿造りとは、日本の平安時代の寝殿造りのような様式だと思って下さい)
 それが、なんでだよ?
 ふつーの、「ちょっと大きめの住宅」になってるんですけど。
 赤い屋根の白いおうち、みたいな。
 ……道、間違えたかな?
(ピンクのツルバラが絡まる白い門の前で逡巡)
 なんか、周りの風景に合ってないんですけど。この真新しいおうち。
 とりあえず、入ってみるか。
(白い門をくぐると、三色スミレの花壇。スイセンやチューリップも咲いている)
 うわぁ。お花が咲いてるぞう……。
(白いもんしろ蝶がノウリジの前を右から左に横切る)
 なんか、このおうちって、
(ぬるい笑い)
 名づけるとすれば「しあわせな新婚新築様式」みたいな?
 うわあ。玄関扉もまっ白だぞう……。
 ……金色の呼び鈴、鳴らしてみるか。
(リンゴーン)

扉の向こうから若い女の人の声:
 はあーい!
 今行きまーす!

ノウリジ:
 た、たしかに、凛の声だ。
 やっぱり改築したのか?

(白い扉が勢いよく開いて、巫女凛登場)

凛(銀色のくせ毛 長さはあごの下までの短髪 銀色の瞳):
 あらー!(いつもごきげん)
 いらしゃい! ノウリジ!
 遊びに来たの?
(にこにこにこ!)

ノウリジ(つられて笑顔):
 こんちはー。
 邪魔していいか?

凛:
 どうぞ!
 さあ、入って入って!

(ノウリジ、凛に招かれるままに家に入る)

ノウリジ:
 お邪魔しまーす。
 凛、家変わったんだな?
 うお、木の床以外は全部まっしろだなあ。

凛(玄関からまっすぐ続く廊下を先導):
 そうよ?
 つい、三日前だったかしら。
 ちょっと遊びに出かけたら、すごくいいおうちがあって。
 こんなとこで暮らせたら楽しいわよねえって思って。
(くるっと振り返ってノウリジにニコっと笑う)
 家、まねして変えちゃった!

ノウリジ:
 思いつきで改築!?
 っていうか、これは「解体後に新築」だろ!

凛:
(さらりとうなずき)
 そう!

ノウリジ:
(ぽかーん)
 ……ウィズドは、止めなかったか?

凛:
 ウィズドがいない間に跡形も無くやっちゃった!
(輝く笑顔)
 
ノウリジ:
 あのでけえ屋敷を……こ、こんなに小さく……。
(呆然。開いた口がふさがらない)
 ああ、そうか……。
 凛だけは、巫女の中で唯一、機能限定してないものなあ……。そりゃ、できるよなあ。
(もう他に言葉が思い浮かばない)

凛:
 さあどうぞー。
(突き当たりに居間がある)
 ウィズドがお茶飲んでるから、一緒にどうぞ?
 準備してくるわねー!
(元来た廊下を小走りで帰っていく。途中で右に曲がった)

ノウリジ:
 あ、おかまいなくー。
(まだ呆然)
 あ、入らなきゃ。
 ウィズドにお見舞い(被災お見舞い?)しなくちゃ。

(白い引き戸を開けて、居間に入る。日本の部屋にして二十畳の広さ。床は木。壁は白い壁紙。天井は白漆喰)

ウィズド(美形。青い長髪。青い目。キラキラ):
 やあ、ノウリジ。いらっしゃい。
(にこ)

ノウリジ:
 ようウィズド。このたびはその、災難? だったな……?
(最初はさわやかだった笑顔が、次第にしぼむ)

ウィズド(ひきつり苦笑い):
 あ、ああ。……ありがとう。
 まあ掛けてくれ。
(自分の真向かいの長椅子を勧める。白いクッションがみっちり並んでいる)

ノウリジ:
 じゃ、遠慮なく。
(座る。)
(居間を見回す。)
 新婚家庭だな。この色合い。
(ふたたび呆然)

ウィズド:
 ……うん。
(そう相槌を打つほか無い)
 なんていうか、まだ、慣れないなあ、って、感じなんだけど。
 今の彼女の「流行り」は、これなんだ。
 多分しばらくは、これ。
(力無い苦笑)

ノウリジ:
 そっか……。
(深く同情)
 心中、察して余りあるよ……。

ウィズド:
 ありがとう……。

(しみじみとした空気が流れる)

凛 登場:
 はあいお待たせー!
(お盆に林檎の香りがする紅茶を入れて持ってきている)
 お菓子もあるのよ?
(同じくお盆に、凛の手作りと思われる、可愛らしい形をした焼き菓子が乗っている)

ノウリジ:
 うわーいい匂いだな!
(そして、完全無欠の「新婚メニュー」だな)
 ありがとう、凛。

凛:
 ゆっくりしていってね?
(ノウリジとウィズドの間にある、ガラスの卓にお盆を置き、自分はウィズドの左隣に座る)
 召し上がれ?

ノウリジ:
(遠慮なく飲み食い)
 あ、うまい。
(星型の焼き菓子をもりもり食べる。)
 料理上手だよなあ。

凛:
 ほんと? ノウリジに褒められると、嬉しい。
(と言ってニッコリ笑いつつ、隣のウィズドに腕をからませる)
 ウィズド、褒められちゃった、私。

ウィズド:
(にこ)
 よかったね、凛。
(にこ)

ノウリジ:
(家、わざわざ改築しなくってもさあ、素で「新婚」だよなあ? どうだよあれ)
(とか思いつつ、もりもり食べる)
 おお、うまいなあ。この乾しブドウが入ったやつも。
(こんどは球形の焼き菓子をもりもり)
凛:
 うれしーい。
 やっぱり修行に行ってよかったわ!

ウィズド(青ざめ):
 え、凛?

ノウリジ(青ざめ):
 凛、またどっか行ったのか?

凛:
 うん! さっきね!

ノウリジ(愕然):
 「さっき」!? どこへ!?

凛:
 さっき、えーっと、
(左斜め上を指差す)
 あの辺の、星にね、お菓子職人さんがいて、
 そこで修行をね?

ウィズド:
 え?!
 さっき「ちょっと出かけてきます」って言ったのって、それだったの?!

凛:
 ううん。
 そのさっきは、ほら、どこかの星の学校の……教室? で、男子学生さんが私の姿を見た方よ。
 これはまた別なのよ。

ウィズド:
 凛……。
(半泣き)

ノウリジ:
(賢者も把握できない巫女の動向って……どうなんだよそれ。すごすぎる。)
(林檎紅茶ごくりと飲む)
 ああ、お茶もおいしいや……。
(一体どれだけ修行したんだ)

ウィズド:
 凛。
 言ってるだろう? どこかに行く時は、

凛:
 「必ず一言いってから」でしょ?
 ええ、言ったわよ?
 「出かけてきまーす」って。

ウィズド:
 (泣き)
 ……もっと、行き先とか、用件とか、詳しく話してくれないかな?

凛:
(にっこり)
(ウィズドの口に焼き菓子を放り込む)
 でもおいしいでしょ?
(にっこり)

ノウリジ:
(ウィズドに目で訴え)
(お前、そこで甘い顔するなよ! ここでガツンと言わなきゃ、凛を御せ無いぞ?)

ウィズド:
(ノウリジの視線が痛い。)
(夫として、主として、やはりひとこと言っておかなければと思い、凛を見る)
 あのね、凛、

凛:
(夫の目を見て、にこーと笑う)
 おいしい?
(ぎゅっと抱きつき)

ウィズド(即時降伏 陥落):
 あ、うん。あ、凛、駄目だよ、
(顔真っ赤)
 少し離れなさい。

ノウリジ:
(注意するのはそこじゃないだろ?! しかも「少し」かよっ!?)

凛:
 はいもう一個、あーん。

ウィズド:
(照れながらも素直に「あーん」)

ノウリジ(めまい):
 ごっ、ごちそうさまでした。

凛:
 あら、まだまだ沢山あるわよ?

ノウリジ:
 いやあもう、(身も心も)おなかいっぱいで。

ウィズド(赤面):
 あの、凛、離れて……。

凛:
 はーい。
(何の未練も無くあっさりぱっきり離れる)
 あ! そうだ!
 ねえ、ノウリジ?

ノウリジ:
 は、はい?

凛:
 北の賢者インテリジェのところには、行ってきたの?

ノウリジ:
(質問の意味がわからない)
 ああ。

凛:
 巫女の雪葉ちゃんはいた!?
(瞳きらきら! なにか企んでる様子)

ノウリジ:
 ……。
(何を考えているんだ凛は。どうしようどう答えたらいい?)
 な、なんで?

凛:
(にっこー)
 私もウィズドもね、雪葉ちゃんにまだ会ったことないの。
 インテリジェったら、一体どれくらいの間、彼女を隠してきたのかしら?
 もう、彼に巫女がいるってことに気付きもしなかったし、そんなこと考えもしなかったわ!
(とってもにこにこ)
 あの「世の中なんにも面白くありません」って顔しかしないインテリジェが御執心する雪葉ちゃんに、是非とも、会ってみたいの!

ノウリジ:
 ……ううーん。
 今いきなりはまずいんじゃないかなー?
(あの二人なら今頃別次元でよろしくやってるし、と、答えるのもはばかられる悲しい独り者賢者)
 
凛:
 あら! 大丈夫よ?
 きちんと玄関のところであいさつするから。
 いきなり家の中に上がり込んだりはしないわ?
 じゃ!
(消え)
凛がお宅訪問!

ノウリジ:
 !
 えええええ?! 行っちゃったぞ!?
 いいのかウィズド!? いいのか!?

ウィズド:
(涙ぐみ)
 ……もう、慣れてるから……。

ノウリジ:
 慣れるなよ!?
 お前、優しすぎだぞ!?
 そんなんだから、凛がいつまでたってもああなんだぞ!?
 もっと、こう、がっちり抑えとかなきゃ!

ウィズド:
 じゃあ、ノウリジ。
 君だったら彼女を止められるというのかい?
(真顔で問いかけ)

ノウリジ:
 う……。
(ひきつり笑い)
 む、無理無理。

凛:
 たっだいまー!
(ウィズドに抱きつき)
 北へ行ってきたけど!
(ノウリジを見つめてにっこり)
 ノウリジがどうして渋ってたのか、よくわかったわ。

ノウリジ:
 お、おお。

凛:
 セイシェルが応対してくれたんだけど。
(あっけらかん)
 雪葉ちゃんとインテリジェ、よろしくヤってるって言われたわ!
 ヤってるんですって!
 ほんとに、昼間から熱々なのねー!
 北って、実は熱い土地だったのね?

ウィズド:
 ちょ、ちょっと、凛、
(泡を食う)
 君、何、言ってるんだい、そんな、
(あせり)

ノウリジ:
(呆然)
 凛、お前……。
(さすが夫婦暦永遠)

凛:
(聞いてない)
 インテリジェの別な顔、発見したわね!
 ね? ウィズド?
(旦那を見上げてにっこり)

ウィズド:
 ……。
(呆然 どう答えたものか)

凛:
(にっこり!)
 ねっ?

ウィズド:
(笑顔に陥落)
 そうだね。凛。

ノウリジ:
(げんなり)
 俺に言わせれば、西も北も似たようなもんだよ……。
(ためいき)

凛:
 ん? 何か言った? ノウリジ?

ノウリジ:
 ……ごちそうさまって言ったんだよ。
(よろよろと席を立つ)
 じゃ、俺はこれで。
 東に、行かなきゃ……
(疲れた様子)

凛:
 もっとゆっくりしていけばいいのに。
 このお菓子、よかったら持って行って?
 向こうの優奈ちゃんに食べさせてあげて?

ノウリジ:
 あー。優奈、喜ぶなあ。
 いただいていきます。じゃあな。


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