女子高生の異世界召喚「君こそ救世主?」物語
Magic Kingdom

歌帖楓月



10 偽りの桔梗畑

 ユエの屋敷のある街を二人は歩き、そして、途方に暮れていた。
「カイ、とにかく、あの水晶玉を返してもらわないと。彼女、どこに住んでいるの?」
「……あいつはマジックキングダムの西部にある『偽りの桔梗畑』に住む魔法使いで……嫌なことに、彼女も王の候補者なんだ」
 王の候補者は変わった人ばかりだ、と、明理沙は選定に疑問を持った。しかし、それを口にしてもしょうがないので、別の気になることを質問した。
「『偽りの桔梗畑』って、変わった名前ね?」
「うん。そりゃあきれいな、涼しそうな薄い青紫の花畑だけど。とても恐ろしい場所でさ」
 明理沙はまゆを寄せた。
「なんで花畑がこわいの?」
「次元の裂け目があるんだよ。花畑のいたる所に沢山ね。落ちたら死ぬんだろうな、きっと。でも彼女はあんな場所で生まれ育った。今もそこで暮らしている。ほとんど誰も近づけないあの花畑で」
 カイが肩をすくめた。彼女の気が知れないよ。と、言い足した。
「引っ越せばいいのに、絶対に彼女はあそこから動こうとしないんだ。僕の納屋暮らしを信じられないって言ってたけど、それをいうなら、彼女があそこに住み続けることの方が誰にも理解できないことだよ。……彼女は変わり者なんだよ。それは間違いない」
「ふうん……」
 美しいが恐ろしい場所に住み続ける魔法使い。
「なんでだろう?」

 偽りの桔梗畑に風が吹く。楚々とした優しい薄紫の花を、さらさらとなでていく。
「明理沙、もうそれ以上進ないで。危険だから」
「うんわかった」
 カイと明理沙は、花畑の際までやって来た。本当に美しい場所だ。星の形をした涼しい薄紫の花、桔梗が、ゆるい風に揺られている。
「明理沙、見てて」
 カイは、そう言って、足元にあった小石を拾って、桔梗畑に投げ入れた。
 小石が、桔梗の花々の中に落ちて行く。
「あっ!」
 突然、小石が落ちたと思われる場所から、銀色の閃光が上がった。研がれた刃物のような、身も竦む鋭い光が。
「あれが、次元の裂け目?」
 慄然とする閃光が消えた後、何もなかったようにそこに咲き続ける桔梗たちを、尾を引く驚きの表情で見つめた後、明理沙はたずねた。
 カイは軽くうなずいた。
「そう。桔梗があるお陰で、地面のどこに次元の裂け目があるかわからなくなってるんだ。だから、この畑に入ることなんて、相当な魔法使いじゃなきゃできやしない。そして、次元の裂け目なんか、誰にも塞げるような代物じゃない。明理沙、あそこ、ほら、遠くに小さく見える、あれがシナーラの家だ」
 カイは桔梗畑の真ん中に、数本の針葉樹に囲まれて建つ、木造りの屋敷を指さした。明理沙らの立っている桔梗畑の際から、1キロほどの距離がある。
 遠い家に、明理沙は肩をすくめた。
「来たのはいいけど、私たちでは、あの家には近づけないのね」
 カイは肩を落とした。
「……うん。水晶玉が3つあったら、僕でも、結構、魔法を使えたんだろうけど。2個ともシナーラが持って行っちゃったから、もう何にもできない。これじゃ、空も飛べないし。エフィルかユエくらいの魔法使いがいれば、この畑であっても転移魔法が使えるんだけど」
「うーん。何かいい方法、ないかなあ?」
 二人は困惑した。
 しかし、考えてどうなるものでもない。
「シナーラさんは勇気があるなら来なさいって言ったけど。これは勇気とは関係ないと思う。できるかできないか、その力があるかないか、どちらかだものね。……カイ、魔力って、努力だけではどうにもならないのでしょう?」
 明理沙がとつとつと問うと、カイはうなだれるように頷いた。
「そればっかりはどうにもならないんだ」
 そして大きなためいきをついた。
「はあ……。いくら努力しようと、魔法使いになれない者は、絶対になれないんだ」
「そう」
 はっきりした世界だ、と、明理沙は空しく感じた。
 私のいた世界は、一応は努力が報われると言われているし、まあ大概においてそうだ。だけれど、この世界では、だめな人間はいくら頑張ってもだめらしい。努力とは関係なく。……私の世界もそんなことはあるけど。例えば、運動選手なんて、それこそ運動神経が備わっていないと、ほとんどだめだもの。だけど、この世界のように、それが全てってわけではない。ここでは、全員が一応は魔法を使う、……ただ、星が降りてくるかどうかは努力ではどうにもならない。運だ。
 明理沙は息をついて、考えをいったん止めた。
「カイ、エフィルさんかユエさんにお願いしてみようよ? 私たちではどうにもならないことだからさ」
「そうだな」
 カイはため息をついて俯き、そして、恨めしそうな表情でシナーラの家を睨んだ。
「シナーラめ! 覚えとけよ! ちくしょう、腹立つ」
 そして彼は、シナーラの家に向かって叫んだ。
「シナーラのバーカ! 守銭奴! おまえのかーちゃんでーべーそ! あ、ちょっとだけすっきりした」
 とてもレベルの低い憂さの晴らし方だ。だけど、気持ちはわかる。明理沙は、複雑な表情でカイを見つめた。
「……行こうか? カイ」
「うん」




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