女子高生の異世界召喚「君こそ救世主?」物語
Magic Kingdom

すぎな之助(旧:歌帖楓月)



11 あんたなんか!

 シナーラは自分の家にて、彼ら二人を水晶玉に映して見聞きしていた。
 来てはみたものの、途方に暮れる二人が映った。シナーラは、ほくそ笑む。
 ふん、そりゃ、魔法もろくに使えないカイと、魔法なんてこれっぽっちも使えないあの娘じゃ、畑の際で精一杯にきまってるけどね。それにしても……バカな子たち。何のために王探しやってんのよ。こんな時こそ、さっきのエフィルとユエを使えばいいんじゃないの。王に値するか力試しをする、とでも言ってさ? 何で利用しないのかしら? まったく、本当にバカ。
 肩を竦める彼女のそばには、さっき盗んだ王の候補者探しのための水晶玉が2個とも転がっている。彼女は自分の水晶玉で二人を見ているのだ。簡素な造りの室内にはしかし、数多くの財宝が飾られていた。
「けっ、小石投げただけで帰るのか。本当にバカというか、まあしょうがないわよね。二人でなんとかなるわけないんだから……。ん……?」
 水晶玉には、負け犬の遠吠えとでもいうのか、カイがシナーラの家に向かって悪態をつく様子が映っていた。
「……」
 その子供じみた様子に、だが、シナーラは呆れるのではなく、顔色を変えた。怒りで。
「あの、馬鹿カイ! 言っていいことと、悪いことがあるのよ!」
 シナーラはそばにあった金の杖を掴むと、思い切り壁へ向かって投げ付けた。その杖は、物凄い勢いで宙を飛び、ふっとかき消えた。
 ガツン! 
「あいたっ!」
 突然、桔梗畑に金の杖が出現し、カイをぶった。
「いてっ! いてっ! ……なんだよこの杖!」
 透明人間が杖でカイをぶつように、杖が勝手に動いて、カイをぶっている。
「カイ! 大丈夫?」
 明理沙はその杖を追い払おうと努めるが、武術の達人に握られた杖であるかのように、明理沙の手を、ひらりひらりとかわして、カイをぶつ。
「いてえ! いてってば! 畜生! シナーラだな! やめろよ根性悪!」
「根性悪はどっちよこの馬鹿! 母さんの悪口言ったわね! 許さない!」
 声が降って来た。シナーラの声だ。先程までの人を小馬鹿にした口調とはまるで違う。真剣に怒っていた。
「あんたなんか! あんたなんかネズミにしてやる!」
 そんな、叫びが、響いた。
「……えっ! や、やめろよシナーラ! よせ!」
「うるさい!」
 ボン、と、カイが大量に発生した煙に巻かれた。
「カイ!?」
「……チュー……」

 なんということだろうか。
 明理沙はとぼとぼと道を歩く。
 草原の中の、舗装されていない土の道は、石畳の道に比べると疲れにくい。たそがれ色の風が、びゅうと吹いて、明理沙に当たった。
「チュー……」
 明理沙の肩に握りこぶしくらいの大きさのネズミが一匹座っている。カイが持っていた1個の水晶玉は明理沙が持っている。
「カイ、今まであっさり遠くまで行けたのは、カイの魔法があったからだったんだね……」
 疲労によるため息とともに、明理沙はつぶやいた。ユエの街から、偽りの桔梗畑まで、行き道は15分とかからなかったのに、なぜだろう、帰りは3時間たってもまだ到着しない。
「魔法で、歩く速さを、とても速くしてたんだね。ねえ、まだ半分も来てないよ」
「ちゅー」
 明理沙の右肩で、ネズミが、申し訳なさそうに尾を振った。このネズミが、カイである。シナーラの魔法により、カイは、褐色の野ネズミにされてしまった。
「ふう」
 明理沙は道端に立っていた落葉樹の根元に腰を下ろした。根元には、まばらに芝のような雑草が生えて、一休みするのにちょうどよい場所になっていた。
「道はこれであってるんだよね?」
 明理沙は、肩から両手の平の上にネズミを移してそう尋ねた。
「チュー」
 ネズミはそう鳴いて頷いた。
「……とりあえず、大きなドブネズミとかにされなくて、よかったね。小さいネズミだから、私にも運べるし」
「チュ、チュー……」
 ネズミは、決まり悪そうにもじもじとうずくまり、前足で顔をこすった。
「でも困ったね。これじゃ、街につく前に夜になっちゃうね」
 野宿の準備も、明かりも、何も持っていない。カイが人の姿であったなら、そんなもの用意しなくても魔法でなんとかなったはずなのだ。
「そうだ、エフィルさんを呼んでみようか? シナーラさんにカイの声が届いてたんだから、エフィルさんにも届くかも。届くかな?」
 明理沙がそう尋ねると、ネズミは頷いた。
「じゃあ、呼んでみるから。エフィルさーん! エフィルさーん! 助けてください! 明理沙です! カイが魔法でネズミにされてしまって困っているんです! エフィルさーん!」
 大声で呼んでみた。そしてちょっと待ってみたが、彼は現れなかった。
「まあ、すぐに来てくれるってことはないよね? それに、聞こえてないってことも、あるかもしれないしね」
 明理沙が、気を取り直すようにそう言うと、ネズミもこくりと頷いた。




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