女子高生の異世界召喚「君こそ救世主?」物語
Magic Kingdom

歌帖楓月



12 桔梗畑の幽霊1

 そして、夜になってしまった……。
「どうしよう、カイ」
 夕暮れ時に座り込んだ木の下で、明理沙は心細そうに尋ねた。
 ちょっとの休憩のつもりで立ち止まったのに、周りは急速に暗くなっていき、身動きが困難になってしまった。
「ねえ、ここって、夜になると狼とか盗賊とか……危険なものって出てくるの?」
 明理沙の問いに、闇の中、ネズミは、申し訳なさそうに、……うなずいた。
「どうしよう!」
 顔色を変えて、明理沙は叫んだ。
「そうだ、この木に登ってたほうがいいかな? 地面にいるよりはその方が安全だよね? ね?」
 明理沙は狼狽(ろうばい)しながらも、自分で考えうる一番用心深い案を提示した。
 すると、ネズミはしばし迷って、おずおずとうなずいた。
「よし、じゃあさっさと登るね!」
 明理沙は早速木によじ登った。ネズミは身軽に幹を駆け上がって行く。
 空には星が出始めていた。

「エフィル様! 夕食も食べて行ってくださいなっ! うふっ! ユエね! エフィル様のために、手料理作りまーす!」
「ユエ。私はまだ仕事がある。もう帰らせてくれ」
「だめでーす!」
 あれからずっとエフィルは、ユエに捕まっていた。
「駄目だ私は帰る! 仕事があるんだ!」
「いやーん! ユエかなしい! エフィル様ぁ、そんなの代わりの方に任せればよろしいじゃありませんの! あ、どうしても仕事がしたいっておっしゃるんでしたら、ユエ、悪いことしそうな人とか、危険な動物とか、その他いろいろエフィル様のお仕事の種になりそうなこと、ぜーんぶ、消しますわ! そしたら、エフィル様、お仕事しなくていいでしょう? ね?」
「そんなことするな」
 エフィルは、ユエに張り付かれて、ぐったりしていた。自分のことを思うあまり黒魔法に手を出したユエが可哀想になり、こうして屋敷にいたエフィルであったが、もういい加減疲れ切ってしまった。
「頼む、ユエ、今日は許してくれ。……仕事に行かせてくれ」
「いやでーす!」
「……」
 エフィルは、にべもないユエの返答にがっくりとうなだれた後、やおら立ち上がった。
「ああん!」
 エフィルの腕にしがみついていたユエが、立ったエフィルにぶら下がった形となる。
「じゃあな、ユエ」
「いやいや! エフィル様ぁー!」
「力づくでも出て行ってやる」
 エフィルはユエをぶら下げたまま一歩また一歩と踏み出す。屋敷の玄関に向かって。
 エフィルの腕に、まるで猿の子のようにぶら下がったユエが、花のように笑った。
「じゃ! あたしも! 一緒に行きますわ! ね? うふっ!」
「かんべんしてくれ……」

 そして、危機は訪れる。
「……ねえ、カイ。あれ、なにかな?」
 落葉樹に登って遠くに光る街の明かりや、輝く空の星を眺めることで、夜の恐怖から気を逸らしていた明理沙は、あるモノに気づいた。
 明理沙たちが歩いて来た道、偽りの桔梗畑のある方角から、ぼうっと、青紫色の光るもやが現れ、そして、ゆらゆらと近づいて来た。
「……カイ、あの、変な光るものって、……危険なものなの?」
 ネズミにされてしまったカイを両手の上に乗せ、自分の顔の前に持って来てそう尋ねると、夜の暗さでよく見えないが、ネズミは、その方向を見ると、ビクッと毛を逆立てて、尻尾を針金のようにピンと延ばして「チュッ!」と悲鳴を上げた後、頷いて「チュウー」と鳴いた。情け無さそうに。
「どうすればいい? カイ」
 明理沙はがたがたと身震いが起こるのを感じた。
 どうしよう。一体あれは何だろう? 私の世界では、ああいうのは、……普通「幽霊」とか「怪奇現象」とか、そういう方面でとらえられる……。まさか、
「ねえあれ、幽霊、なの……?」
 明理沙はそう尋ねた。
 すると、否定すればいいものを、頷きが返ってきてしまった。
「うそ!」
 明理沙は本格的に震え始めた。
「ど、どうすればいいのよ、カイ!」
 多分どうしようもないのではないだろうかと、絶望的な予想を立てながら、明理沙は尋ねた。あの青紫のもやは、どんどん近づいて来ている。
 ネズミは、ピョンと、明理沙の手の上から木の幹の上に降りた。そして、小さな爪先で、カリカリと、幹に何やら絵を描き始めた。
「なにこれ……?」




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