女子高生の異世界召喚「君こそ救世主?」物語
Magic Kingdom

すぎな之助(旧:歌帖楓月)



13 桔梗畑の幽霊2

 目をこらすと、……妹が好んで読んでいた架空の物語の中によく出てくる「魔法陣」と呼ばれる星形の奇妙なマークによく似ていた。
「これって、魔法陣とかいうもの? ……もしかして、お守りになるの? これ?」
 ネズミは頷いて、明理沙に、例の水晶玉をこの絵の上に乗せるようにじたばたと身振りをした。
「わかった! 乗せればいいのね!」
 明理沙は、ポケットから取り出した水晶玉を、手のひらほどの大きさしかない魔法陣の上に乗せた。
 途端、魔法陣から薄桃色の光が立ち、明理沙とネズミの回りの空気から、天使の声のような美しい歌声が聞こえて来た。まるで、賛美歌のような。
 そして、青紫色のもやは、明理沙のそばに来た。
「カ、カイ、大丈夫だよね? 大丈夫だよね!」
 明理沙は震えながら、恐怖を取り去る呪文のように必死にネズミに確認する。ネズミもガタガタ震えながら頷く。
 明理沙の身長の2倍はあろうかという青紫色のもやは、明理沙の眼前3メートルほどの所で、ゆらゆらと宙に浮いていた。
 明理沙は、もう自分にできることは神頼みくらいだ、と思い、指を組み合わせて口中で祈っていた。
 神様助けてください。私を守ってください。
 震えで歯の音がカチカチカチカチと鳴った。
 ネズミも全身の毛をハリネズミのように逆立てて、ブルブル震えていた。
 これが、明理沙の世界でいう「ドラキュラ」であれば、十字架やニンニクなどが撃退法としてある。その他、性質の悪いお化けなどにはお札や念仏などが、効くらしい。
 しかし、ここは明理沙の世界ではない。それらの方法をやってみたところで、……きっと、どうにもならない。
「ヒ、ヒヒヒヒヒヒ!」
 もやが笑った。老婆の声だった。
「娘が一人とネズミが一匹、ヒヒヒヒヒ! ネズミは化かされた人のようだ! ヒヒヒヒ! 呪いの道具にぴったりだ! ヒヒヒヒヒ!」
 その不気味なしゃがれ声に弾かれたように、ネズミがチュウチュウと騒いだ。何を言っているのか明理沙にはさっぱりわからない。
 もやがゆらゆらと近寄って来た。
「カ、カイ! 逃げた方がいい? それとも、この魔法陣から離れない方が安全なの? ねえ! どっち?」
 ネズミは魔法陣を指さしてチューチューと鳴いた。
「ここにいた方がいいのね?」
「チュウ!」
 もやが哄笑した。
「ヒーヒヒヒヒヒッ! どっちにしろエサになるんじゃ! ヒヒヒヒヒッ! そんなちっぽけな魔法陣じゃあ、ヒヒヒヒ! 無駄さあー!」
 駄目で元々で、明理沙は両腕を十字に重ねてもやにかざしたり、念仏を唱えたりしたが、案の定効果はなかった。
「ヒッヒッヒッヒ! ヒッヒッヒッヒ! キキョウ畑で苦しむ私を助けなかったお前らに……私の絶望と苦しみを何十倍にもして返してやるのさ! ヒーヒヒヒヒヒ!」
「桔梗畑?」
 桔梗畑には行ったが、誰かを見捨てて来た覚えはない。小石を投げたりはしたが。
「わ、わ、私たちそういうこと、し、してません」
 明理沙が必死にそう言うが、もやから返って来たのは歪んだ笑い声だった。
「ヒーッヒッヒッヒッヒ! 人の形をしておれば、誰であれ私の恨みの対象なのさ! お前らの苦しみが、私の恨みを晴らすのさ! ヒヒヒヒヒ!」
 ぶわっと明理沙とネズミの体が宙に持ち上げられた! 
「キャー!」
「チュー!」
 明理沙は、魔法陣に置いてあった水晶玉を必死で掴み、ワラにもすがる思いで胸に抱いた。が、その水晶玉は、ものすごい力で明理沙から引き離された。
「お前らを殺すんだ! 桔梗畑に落としてやる! こんな水晶玉になんか頼らせん! 誰にも助けてもらえないまま、私のようにお前らは苦しんで死ぬんだ! ヒヒヒヒヒヒヒ!」
 宙を舞う、王の継承者を探すための水晶玉。
 一人と一匹の姿は、照葉樹から、かき消えた。




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