女子高生の異世界召喚「君こそ救世主?」物語
Magic Kingdom

歌帖楓月



15 桔梗畑の幽霊4

 その時、桔梗畑に、夜空の恒星のように小さく強い光が現れた。
「チュー!」
 ネズミが、驚いて鳴いた。
 もやが、揺らめいた。
「お前! ハニール・リキシア!」
 桔梗畑の上空から見ると、それはほんの針の先くらいの、しかし強い光輝。
 ひかりは、声を紡いだ。
『金糸の君は動かないけれど、私はこの子をむざむざ殺させはしないわ。本来、私は王に仕える者。王を捜し出すこの子を守ることは、私の役目でもあるのだから』
 美しい女性の声が響く。
 明理沙は桔梗畑のすぐ上で止まっていた。落下のショックで気を失っている。
『私はハニール・リキシア。金糸の君に従う光輝の妖精。』
 唄うように優雅な声が、夜に響いた。
 次いで、真っ白な大きな光が、桔梗畑に現れた。
 その光の出現と入れ替わりに、ハニールリキシアの光輝は消えた。
「明理沙!」

 偽りの桔梗畑。
 空間移動で現れたエフィルは、すんでのところで明理沙を助けて、今はその上空に、青紫色のもやと対峙している。右腕には明理沙を抱え、左腕にはユエが腕を絡み付かせている。
「ハール! 偽りの桔梗畑に取り憑き、近寄る者全てに害をなす怨霊! お前は、いや、あなたは、そんな非道な魔法使いではなかったはずだ!」
 エフィルが叫ぶ。
 青紫色の、桔梗色のもやは、蠢いた。
「何を偉そうに! 苦しむ私を助けもしなかったくせに! そうとも! 昔、私は善良だったさ! だがなあ、私を利用して、恨みの塊に変えたのは、お前らなんだ!」
 血を吐くような叫びを聞き、エフィルは不思議な表情で首を傾げたが、隣のユエはくすくすと笑った。
「うふふ! 人は、誰にでも悪ーいところが、あるものですわ! ちょっとは疑った方が良かったのですわ? ハール様! 生きてるときに、もっと私の言うことにも耳を貸せば、よろしかったのに! うふふ!」
 もやが激高したように激しく波打った。
「黙れユエ! お前ら、悪巧み意外に何も考えない、力だけはある奴らの手によって、私は歪められていったのだ! 失望したのだ! お前らのせいだ!」
「ユエ、わっかんなーい!」
 そらとぼけて、ユエは満面の笑みを浮かべる。
 エフィルは怪訝な表情で、愛らしい微笑を見つめた。
 まさか、
「ユエ。……何をした? ハール様に」
 そんな魔法使いは、ユエを含めてもほとんどいない。無論、エフィルは生前のハールを尊敬こそすれ、怒らせるようなことをした覚えはなかった。だから、何故、人の良いハールがこんなに荒んだのか、わからない。
 ユエは、エフィルにほほ笑みかけた。
「エフィル様がお尋ねになるなら、ユエ、特別に教えちゃう! ハール様の魔法の杖と水晶玉を奪い取って、病床のハール様を桔梗畑に閉じ込めたのは、私と、私のお友達でーす!」
「お前か!」
 エフィルと、もやが、同時に叫んだ。ネズミのカイは「チュー!」と大きく鳴いた。
「謝れっ! ユエ!」
 エフィルはユエの頭に手をかけて、ぐいぐいと押さえ付けて礼をさせようとする。
「ああん! エフィル様、痛ーい! だってちょっとふざけただけだったんですよお? ……ただ、途中で、ハール様の杖と水晶玉、無くしちゃって、返せなくなったんですのー。あたしたち、ハール様に怒られるのが怖くて、そのこと秘密にすることにしたんでーす! ごめんなさいハール様。お見舞いにも行かないで。ハール様なら、すぐに元気になって、桔梗畑くらい渡って来れるって思ってたから、私たち、ハール様が病気だってことも、杖と水晶玉がなくて魔法使えないってことも、誰にも言わなかったんでーす!」
「なんてことをしたんだ……」
 くらっ、と、エフィルがめまいを起こした。
 ハールのもやも凍りついたように動かなくなった。
 ネズミのカイも、一声も鳴けなかった。
 ……彼女たちが、見殺しにしたのだ。遊びで。
「ユエ、」
 しばらくの間を置き、ようよう、エフィルが、声を絞り出した。
「なあに? エフィル様っ!」
 きゃぴきゃぴしたユエに、エフィルは鬼のような表情を見せた。
「お前の魔力を全部使ってでもハール様を生き返らせろ!」
 だがユエは、そんなエフィルの様子など、まるで意に介さない。
「えーっ!? やだ! ユエは、そんな疲れることしたくないですう! それに、私、白魔法なんて使えないしー」
「白魔法は俺が何とかする! 魔力はお前のを寄越すんだ!」
「いやですう! エフィル様と一緒に魔法使えるのはとってもうれしいけど、疲れるのは、絶対にいやー」
 もうどうしようもないユエの言葉に、エフィルは数瞬言葉を失い、そして考え、ようよう口を開いた。
「そうか。ならば、そうしないと絶交する。もう金輪際ユエの前には私は現れない。口をきくことも無い」
 ええっ! と、ユエが叫んだ。
「や、やだ! エフィル様! そんなのいや!」
 絶交、の言葉によって、ようやくユエは了承した。
 エフィルは、長い長いため息をついた後に、青紫色のもやに向かって深々と礼をした。
「今まで我々が心なく行った非礼の数々、どうか平にご容赦ください。ユエ、謝れ!」
「……はあい」
 ユエも、エフィルに頭を押さえ付けられて、礼をさせられる。
「ハール様ほどの心優しく偉大な方に、苦痛と屈辱を与えた罪、拭えるものではありませんが、このユエに何とかさせます。ひとまずは、無下に奪われたあなたのお命、お返し致します」
「ええ? だってエフィル様! ハール様はご病気で亡くなったんですのよ? あたしが殺したわけじゃないでしょう? ご病気で亡くなられたのにい……あたし、やだなあ……」
 ぴし、と、エフィルのこめかみに青筋が立った。
「何をどう取ったらそう言えるんだ? 全部お前の責任だ! お前が係わらなかったら、ハール様は死ぬこともなかったし! こうして恨みを持って苦しむ必要もなかったんだ!」
「ああん! 怒らないでください! エフィル様が怖いぃー!」
「ユエ! 先にシナーラの屋敷に行け! ハール様の墓があるはずだ!」
「きゃあん!」
 エフィルはユエを叱り付けて眼下の屋敷へ追いやり、そして青紫のもやを見た。
「ハール様、まずはあなたのお命をお返し致します。あなたのお話は、それから、すべてお伺い致します」
 不定形のもやが、揺れる。
「わたしの恨みを……、」
 エフィルは頷いた。
「大変な目に遇われましたね。あまりのことに……なんと申し上げれば良いのか。ああ、謝罪の言葉も浮かびません。なんということをしたのでしょう。私達は、あなたの不幸に気付くことさえなかったのですから。よろしければ、どうか私たちに贖罪の機会をお与えくださいませんか? ハール様」
「……」
 沈黙の後、ゆら、と、もやが揺れて、人のような形になった。
「お返しするわ。エフィル……」
 ネズミになったカイを、もやはエフィルに渡した。
「ありがとうございます。カイ、お前にかかった魔法はシナーラの家についてから解くからな。人間二人を抱えるよりもネズミと人間を抱える方が楽だ」
「チュウ」




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