女子高生の異世界召喚「君こそ救世主?」物語
Magic Kingdom

歌帖楓月



16 ハール様を戻そう!

 シナーラの屋敷。
 先に着いていたユエは、シナーラの屋敷に上がり込んで、シナーラから墓の場所を聞いていた。
「母さんの墓の場所なんか聞いてさあ……。あんた、何する気なのよ? 悪だくみ?」
 夜中にいきなり現れたユエを、シナーラはいぶかった。
 ユエは、うふ! と、笑った。
「エフィル様と一緒に! ハール様を生き返らせるの! うふふ!」
「はあ!?」
 とてつもない台詞を聞いてしまったシナーラは、驚愕で目と口をこれ以上ないほど開き、同時に、我が耳を疑った。
「な、なんて言ったの? 今。生き返らせる? ……聞き間違えたのかしら? 幻聴?」
 ユエは、きゃらきゃらと笑い転げる。
「んもーっ! シナーラちゃんのおとぼけさん! ハール様を、いきかえらせるって言ったのよぅ! うふふふっ! ユエねっ、エフィル様と一緒に、お・仕・事できるのっ! うきうき!」
「嘘っ!?」
 動転してしまったシナーラは、意味もなく周囲を見回した。
「ななな、何言い出すのよ! ばばば、馬鹿も休み休みいいなさいよ! そんな魔法っ……無理よ! 蘇生ですって!?」
 そこに、青年の声が差し込まれた。
「シナーラ! 勝手に上がらせてもらったよ! ユエがとんでもないことをしていたから罪滅ぼしをさせに来た! 君の母上、ハール様を生き返らせる」
 エフィルがずかずかと屋敷に入って来た。
 シナーラは「ええ!?」と叫んだ。ユエの言ったとおりに、エフィルが、あのエフィルが自分の家にやってきた。まったく、二人の正気を疑う。
「エ、エフィル! あんたまで! なんの冗談よ! ユエと二人して……ねえ、頭でもおかしくなったんじゃないの?」
 しかし、そこで、エフィルの言った言葉に引っかかるものを感じた。
 罪滅ぼし……ですって?
 「ユエが、なんですって?」
 おろおろするシナーラに対し、エフィルは矢継ぎ早に言を継いだ。
「ああ、やっぱり君もハール様の死についての真相を知らなかったようだね。詳しい話はこれからするから。まずは明理沙が休める場所を用意してほしい。それからこのネズミだが。君がカイをこんなふうにしてしまったらしいが。……まあ、カイも君に対して失礼なことを言ったらしいから。自業自得と言えなくもないな。さあカイ、元に戻してやる!」
 エフィルの手のひらの上に乗っていたネズミから、ぼん、という音がして煙が立ち、人間のカイとなった。
 カイは動転していた。
「ありがとう、エフィル! 明理沙! 明理沙! 大丈夫かい? ああ、どうしよう! 明理沙ー!」
 エフィルに支えられた明理沙の周りで、少年は無闇に歩き回った。
 エフィルはカイに明理沙を連れて行くように言った。
「カイ、お前は明理沙に付いていてくれ。シナーラ、申し訳ないが、明理沙に客室を使わせてくれないだろうか?」
 シナーラは、少し落ち着きを取り戻した。けちくさいしかめ面になって、ふん、と鼻から息を出した。
「まー、仕方ないわね。貸してやるわよ。2階に上がって奥から3つ目の部屋を使ったら? で、どうしたのよこの子、病気?」
 エフィルは軽くうなずいた。
「いや。そのことも後で話すから。じゃあ、カイ、まかせたよ。私は、ユエと一緒に、ハール様を生き返らせるつもりだ」
「うんわかった」
 エフィルは、気を失っている明理沙をカイに渡して、シナーラに向き直った。
「シナーラ。君の母上は死ななくてもよかったんだ。さあ、教えてくれないか? ハール様の墓はどこにある?」
 シナーラは、怪訝な顔のままで屋敷の裏口を指さした。
「何度も言うけど、本気なの? 裏に生えてる松の木の下よ。母さんはそこで眠ってる」
「よしわかった。行くぞユエ!」
「はあい!」

 エフィルとユエは、大きな松の木の根元に置かれた人丈ほどの石の前に立った。石の前には、沢山の桔梗が供えられている。
 花を見て驚いたのは、エフィルだった。
「……どうやってこの桔梗を摘んだんだ?」
 偽りの桔梗畑の桔梗だ。ただの植物ではない。多くの苦労をしなければ、あの次元の裂け目に咲く花を摘むことはできない。いくつもの防御魔法を使うとか、あるいは、次元渡行の魔法を使うとか。ひどく、難しい。
「桔梗は、母さんが大好きな花なの。だから飾ってる。それだけよ」
 シナーラは仏頂面で面倒臭そうに言った。
 亡き母のために、シナーラは危険な場所の花をつむのだ。
 エフィルは感動した。
「シナーラ……!」
 青年から熱く見つめられて、シナーラは気持ち悪そうに身を震わせた。
「ちょっと!? あんた、なに、じっと見てんのよ! なんなのよ!」
「お前、良い所あるんだなあ。母さん思いなんだなあ。立派だよ! シナーラは立派だ!」
 まっすぐな賞賛の言葉を贈られて、シナーラはさらに身震いする。
「やっ、やめなさいよ! 気味が悪いわ! そんなことより! ホントにあんた達、馬鹿よね! 死んだ人間を生き返らせるなんてこと、普通考えないわよ!? いくらあんた達でも、魔力には限界ってものがあるでしょ? そんな魔法使ったら、力尽きて死んでしまうわよ?」
 エフィルの隣に立つユエが、ぴょんとはねた。
「ううん? ユエはすっごい魔法使いだから大丈夫よ! とっても疲れるけど、でもでも、エフィル様のためなら、頑張るっ! うふ!」
「そうさ」
 エフィルも、めずらしくユエに同調して、彼らしく爽やかに笑った。
「楽しみに待っていてくれ、シナーラ」
 シナーラは、彼のまっすぐな善意に、吐きそうな顔をした。
「……ご自由に」

「いくぞ、ユエ!」
「はぁい! エフィル様っ!」
 エフィルは墓の前に立った。
 その左隣に、ユエが、愛を語り合う恋人のように、びったりと寄り添う。しなだれかかる、と言ってもいいほどに。
「ちょっと、ユエ」
 エフィルは顔をしかめた。
「もう少し離れてくれないか? 左手が動かしにくい」
 ユエは、「駄目ですう!」と首を振る。
「エフィル様に、ユエの魔力をぜーんぶ差し上げるんです! これっくらいくっついてなくっちゃ、駄目なんですっ! 漏れ出しちゃいます!」
 与える当人からそう断言されてしまっては、なんとも言えない。
「……そんなものか?」
「そうでーっす!」
 気を取り直して、エフィルは若々しい声で、呼ばわった。
「ハール様! どうぞこちらへおいでくださいませ!」
 面倒くさげに二人の後ろに離れて立っていたシナーラが、はっとした。
「母さん……」
 小さな小さなつぶやきをかき消すように、大風が吹いた。木立を揺らし、空気をごうっと鳴かせて。
 青紫色のもやが、墓の上に、降りてきた。不定形で、体積は人一人分ほどありそうな、もやが。
『エフィル、本当に?』
 白魔法使いは、真摯な顔でもやを見上げて、うなずいた。
「はい。お約束いたします。必ず、貴方様を元のお姿に戻して差し上げます」

 しかし、もやは動いた。
 悪い気を発して、魔法使い二人を包む。
 それは、毒。猛毒のもや。
 すぐさま防御の魔法を使い、エフィルは白銀の空気に、ユエは赤紫の空気に包まれた。
 ハールのもやは、助けてくれるはずの二人を毒に包みながら、悲鳴を上げた。
『か、体がっ……勝手に! やめて! やめて!』
 もやは黒く黒くなっていく。白を拒絶する。悪意を凝らせる。
 もやに溜まっていた恨みは、もはや、本人にも制御できなくなっていた。生きとし生けるもの、全てが、憎悪の対象。
『止めて! わたしはもう恨みたくない! 恨みたくなんかないの!』
「あははは!」
 悲鳴を上げるハールに、ユエがぞっとする愛らしい笑い声を、無情にぶつけた。 
「それはこっちの台詞ですう! やめてくださいな、ハール様? うふ! あたしに刃向かうなら、あー面倒くさいです! 消しちゃいますよー?」
 エフィルはきっとユエを睨みつけた。
「やめろユエ! 手を出すな! 私に魔力を供給することしか、許さない!」
「えー。でも」
「言うことを聞かないと、絶交だぞ、ユエ」
 ユエは、頬を膨らませた。
「はぁい。大好きなエフィル様がそうおっしゃるから、やめまーす。ぷん!」
 しかし、かばわれたハールの方が首を振った。
『いいのよ! もういいわ! 私を消してエフィル。消しなさい!』
 青年は、きっぱりと断った。
「いいえ!」
『これでは、偉大だったあなたのお父様とお母様に、おわびのしようがない。あなたに、あなたに申し訳ない!』
 同時に、不定形の気体は、容赦なく二人を攻撃する。毒の空気をもたらし、殺意の雷撃を食らわせる。
『お願い! 消してぇ!』
 辺りが、戦慄の雷光と、白銀の清光と、赤紫の濁光に、彩られた。
『エフィル!』
「いいえ、消しません! あなたを助けて差し上げます!」
 エフィルは、激しい恨みのもやと雷とが乱れ飛ぶ、悪の嵐の中にあって、毅然として言った。
「なぜなら私は、白魔法使いだからです!」
 ハールは、目を見開いた。
『……エフィル……』
 その桔梗色の両眼から、光の粒が落ちた。
「ユエ、力を貸してくれ!」
 叫ぶ魔法使いに、愛らしい少女は不服げに鼻を鳴らした。
「もーっ! ユエはぁ、エフィル様が大好きだから、大好きだから! 力をあげるんですからねっ!? ハール様なんて、どうなったっていーんだから!」
「お前が言うな! さあ、力を! ユエ!」
「はーい。あーあっ!」

 次の瞬間。
 辺りは、白銀に染まった。
 もやも、桔梗も、木立も
 夜も、魔法使い達も、
 すべて、光の中に




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