女子高生の異世界召喚「君こそ救世主?」物語
Magic Kingdom

すぎな之助(旧:歌帖楓月)



17 白い光の中

 明理沙は、目を覚ました。
 真っ白だ。
 ここはどこだろう。
 ……なんて白い世界なのだろう。
「明理沙!」
 カイの声が掛かったが、どこにいるやら、姿が見えない。
 全て白の中。
「カイ? カイ? どこ? どこにいるの?」
「君の隣に、すぐ隣にいるよ」
 明理沙は、きょろきょろと見回すが、光があるばかり。
「見えないのよ、カイ」
「これは白魔法の光さ。エフィルが魔法を使っているんだ」
 どこを見ても白。それ以外に何も見えない。
 白い世界に独りきり。それなのに、不安は感じなかった。
 世の中を流れる「素敵なもの」や「良いもの」の本質のような、光。
「いい光ね……」
 思わず、口をついて出た言葉がそれだった。
「うん! いい光だろっ?」
 カイは誇らしげに返事をした。まるで、自分が褒められたかのように、エフィルへの賛辞を喜んでいた。
「エフィルの白魔法は、全てを癒すんだ!」
「全て……? すごい」
「うん! 今、エフィルよりも白い魔法を使える魔法使いは、いないんだよ!」
「『白い、魔法』?」
「そう。白い、魔法」
「白魔法って、……色のことなの? 性質ではなくって?」
「両方なんだ。良ければ良いほど、白い」
 話しているうちに、光が薄れてきた。白霧が晴れるようにではなく、視界に別の映像が入り込むように。
 明理沙は名残惜しく思った。
「明理沙!」
 カイの声にハッとする。
 自分は見知らぬ家の寝床に横たわっていて、その右ふちにはカイが立っていて、今が夜で、灯りは窓からのぞく星明りだけだということが、わかった。
 そうして、少年を見上げた。まだ、気持ちが、ぼうっとしていた。
「……カイ、」
 カイは、ぱあっと笑った。
「よかった! 明理沙っ! 僕たち、助かったんだよ! エフィルが助けてくれたんだ!」
 明理沙は「ここはどこなの?」と聞いた。
 カイは、「ここはね、」と言いかけて、鼻をズズッとすすった。
「カイ、泣いてたの?」
 少年は、少女の問いかけに、照れくさそうに「へへ」と笑った。
「うん。明理沙が心配で」
 カイは、今晩の自分のふがいなさを思い返して、ほろにがい表情で肩をすくめた。
「ごめんよ明理沙。僕がネズミに変えられたばっかりに、こんな目に遭わせちゃったよ……」
「う、ううん」
 明理沙は首を振るが、徐々に、思い出してきた。さっきどんな目にあったかを。
「……」
 恐ろしさが、よみがえった。同時に、強烈な安堵も押し寄せた。
「カイ、恐かったね!」
「うん、ごめんよ! ごめんよ!」
 二人は、手を取り合って、泣きじゃくった。

「ここは、シナーラの家なんだ」
 しばし、二人してわんわん泣いた後、カイが言い出した。
「あのね、明理沙、さっきの悪霊は、……実は、シナーラのお母さんなんだ」
「え!?」
 明理沙は、心底驚いた。まだ起きちゃ駄目だよとカイに言われたので、寝台に横たわったままで。
「そんな! あ、悪霊がお母さんなの? シナーラさんは、じゃあ人間じゃなくて悪霊の子どもね!?」
 その言葉に、今度はカイの方が、身をびくびく震わせて驚いた。
「ええーっ!? いやいやいやっ! 違うよー! シナーラは確かに、むっちゃくちゃ根性悪いけど、彼女は人間だよ!? お母さんも、元は人間だったんだよ!」
「あ」
 明理沙は、ほうっと息を吐いた。
「なんだ。人間なのね。びっくりしちゃった」
 そして、表情を曇らせた。
「お母さん、どうして、悪霊になっちゃったの?」
 問われて、カイは「うん……」と言葉を濁らせた。
「元は、とっても、とってもね、優しい人だったんだ」
「そうなの」
 カイは、何を思い出しているのか、弱いけれど長いため息をついた。
「僕みたいな人たちにも、親切にしてくれる、とっても良い人だった。エフィルと同じ白魔法使いで、ここに住んでいることから『桔梗の君』と呼ばれていた、きれいな人だったよ」
 僕たちみたいな人、それは一体どんな人のことだろうか? 明理沙は怪訝に思ったが、その時の彼はあまりにも惨めな表情をしていたので、とても聞けなかった。
「そうなのね……」
 あたりさわりのない相槌を打った。
「うん」
 カイは、ふーっと、息をついた。
「けれどね、ある日から、全然まったく姿を見なくなったんだ。皆は不思議に思ったけれど、もともと家の中にいるのが好きな人だったから、それほど深刻にはとらえてなかった」
「何かあったの?」
「死んでたんだ。偽りの桔梗畑に囲まれたこの家で。まだ十歳くらいのシナーラを独り残して」
「病気?」
「うん、病気だった。だけど不思議なことに、ハール様の杖がどこにもなかった。彼女自身は家から一歩も出てないのに、どういうわけか杖だけが消えていたんだ。杖がなければ、ハール様は魔法が使えない」
「変なの」
 言いながら、明理沙は背筋が冷たくなるのを感じた。
 カイの言い方は、まるで、誰かがハールの大切な杖を故意に奪ったかのようだ。
 これから先の話は、聞きたくないと思った。
 しかし、少年は暗い顔をして言う。
「ユエたちが、盗んだんだ」
「そんな、」




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