女子高生の異世界召喚「君こそ救世主?」物語
Magic Kingdom

歌帖楓月



18 シナーラごめんね

「ユエ! どういうつもりだ!?」
 一番驚いていたのは、エフィルだった。
 人の形に戻ったハールを見て、頭の中が白くなり膝が笑うほどに驚愕し(きょうがくし)、二、三の間を置いてようやく問いただした。その声もうわずっていた。
「どういうって?」
 ユエはただただ愛らしく微笑む。
「うふうふ! 私の罪滅ぼしですうー!」
「罪滅ぼしなものか! これは悪ふざけというんだ!」
 綿菓子のような甘ったるい言葉を、エフィルは木刀で叩き返すように激しく応じた。
「えー!? かっわいいじゃないですか! んもうエフィル様ったら、真面目なんだから! でも、ユエは、エフィル様のそこが好・き!」
「ふざけている場合か!?」
 ひどく温度差のある会話に、当のハールが首を傾げた。
「どうかしたの? 私、変?」
 薄紫の、上品な優しい髪が、長くその体に添い流れた。そこには、かつてのハールのような、壮年の女性はいない。不思議そうな顔をしている17才の乙女がいた。ぱっちりと開いた瞳。柔らかで華奢な曲線を描く肢体。
「ぜーんぜん! ですよお?」
 ユエが笑った。
「ハール様、とってもとっても、とおーっても、カワイイでーす!」

 でも、陰に隠れた小さなつぶやきは、誰にも聞こえない。
「これで、白魔法の使い手が一人減った……うふふ」

 ユエはきゃぴきゃぴと言葉を続ける。春を唄う小鳥のように。
「ハール様は白魔法でできたお人形さん! もう、お年は取らず、主のエフィル様が生きてる限り、その若いお姿のままで在り続けるんですよっ!」
「ユエ!」
 エフィルは、無邪気で残酷なユエを睨む。次に、ハールに向かって申し訳無い顔をした。
「あなたの体は、今や白魔法で成っています。術の施し主は、私。今後、何かとご不自由があるかと思いますが……」
 美しく優しげな乙女は頬を赤らめた。
「いいえ」
 エフィルを見上げて、桔梗畑の楚々とした美だけを取り出したかのように、笑いかけた。
「ありがとう、エフィル。なんと礼を言えば良いやら、」
 こみ上げる涙に言葉がつまり、ハールは瞳に浮かんだ光をぬぐう。
「言葉も浮かびません」
「いいえ」
 エフィルは首を振った。そして、後ろを示して言う。
「さあ、シナーラに会ってくださいませ」
 ハールは、「ああ」と、感極まった声を漏らした。
「シナーラ……」
 少し離れたところに、娘のシナーラが立っていた。
 いつも浮かべている、人をあざけるような小憎らしい笑みは消えていた。
「母さん、」
 ハールは、娘の言葉に、たくさんの涙を落としながら応じた。
「ああ、シナーラ、シナーラ! ごめんね!」
「母さん」
 若くなった母は泣きじゃくる。
「あたしが、ユエたちを信じなければよかったのに。小さなあなたが何度も教えてくれたのに、……母さん、あなたの言葉を信じなかった!」
「も、もういいのよ母さん、」
「いいえ!」
 ハールは、娘から身を離して、相手の瞳を見つめた。
「いいえ! あのころの私はあなたに、人を信じなさいと教えてきたのに! あなたを、信じなかったの! なんて馬鹿な母親だったのかしら!」




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