女子高生の異世界召喚「君こそ救世主?」物語
Magic Kingdom

歌帖楓月



20 桔梗畑の幽霊 解決

 家の中に入って、シナーラは、ハールが亡くなるまでの話をした。
 カイと明理沙も、一緒に話を聞いていた。
 明理沙は、ユエのことが恐ろしくなった。そして自分がそう考えていることを、ユエに悟らせてはいけないと思った。何をされるかわからない。いや、それどころか、彼女なら、自分の気分一つで、誰に対しても酷いことをしうる。
 一方、話を聞き終わったエフィルは、左となりにびったりとくっついているユエを睨んだ後に、哀れみに満ちたため息をついた。
「そうか。だから、お前はそんなにひねくれたんだな? それは無理もないことだ」
「フン」
 シナーラは鼻で笑った。
「そんなわけないじゃないの。母さんに似てないあたしは、昔っから『できそこない』『拾われっ子』って言われて育ったのよ? 人間の汚さなんて知ってる」
「シナーラ、なんてことを、人は本当はそうじゃないわ?」
 たしなめようとする母にも、シナーラは笑う。
「かあさん。せっかく生き返ったのに、まだそんなきれいごとを言うつもりなの?」
 視線をユエに移して、シナーラは嘲笑した。
「こいつらみたいな人間に、白い心なんて無い」
「キャーン! シナーラちゃんったらぁ、こわーい!」
 ユエは身震いして、エフィルにしがみついた。
「エフィル様ぁ、シナーラちゃんが、すごい目で睨むんですう!」
「当たり前だ!」
 エフィルはユエを押し離した。
「自分がかわいそうな風に言うな。自分が何をしたか、本当にわかってるのか?」
「……うふっ?」
 ユエは微笑んだ。
「あんまりわかんないかもっ!」
 彼女のはしゃいだ物言いに、エフィルは怒りに震えた。カイはげんなりとため息をつき、明理沙はぞっとした。
 シナーラは「フン」と呆れて肩をすくめた。
 ハールは、少し、ほんの少しだけ困ったような顔をした。白魔法の人形となってしまったシナーラの母は、もはや怒りや恨みの感情は無くなっていた。あるのは「白い心」だけ。
 シナーラは母を見た。生きている時よりも、もっと、ハールは「白い心」を持ってそこに在る。
「母さん、」
 シナーラは思わず聞いていた。
「なあに?」
 ハールは娘に微笑んだ。
「楽しい? 今」
 荒れ野に向かって独白するような娘の問いを、母は光の笑みで照らした。
「私の心には、いまは喜びや感謝しかないわ」
 それでは娘は納得できなかった。
「それは、楽しいの?」
 母は、この問いに答えなかった。ただ、笑った。
 それは、否定の代わりなのか。それとも、人形となった者にしかわからない、なにか言葉にできない感情なのか。
 白魔法をあやつるエフィルにさえ、ハールの気持ちは推し量れない。
 きっと、命を持つ者にはわからない。

 ユエは、ほとんどエフィルに追い出されるような形で、早々に姿を消した。しかし愛らしい笑みは、少女の顔に相変わらず浮かんだままだった。
 ハールは、ユエが姿を消すと同時に、気を失った。
 座ったままの姿勢で目を閉じて、動かなくなった。
「かあさん、どうしちゃったの?」
 やや青ざめたシナーラは、エフィルにたずねた。母の持ち主に。
 エフィルは、どうしようもない罪悪感を押し殺しながら、静かに答えた。
「人形になったばかりで疲れているんだよ。……疲れている、という表現は本当は正しくないんだけれど」
 正確には、もっと冷たい言葉で表現する。人形なのだから疲れはしない。その言葉をエフィルは口にはできなかった。もし使ったら、シナーラを傷つけてしまうだろう。
「ああ。フカカジュウニヨリキノウテイシってこと?」
 しかしシナーラは、いつもの皮肉げな笑いを取り戻して、確認してきた。
 負荷過重により機能停止。
「……」
 母が人形になったことを思い知らされるような言葉。それをあえて口にする彼女が強がっているようにも感じられ、あるいは、施工主を責めているようにも感じられて、エフィルはただ無言でうなずいた。
「ケッ。お人形さんね」
「すまないっ!」
 青年から、重く苦しい謝罪の言葉がこぼれおちた。うつむいて、目を硬く閉ざして。
「せめて年齢だけでも、生きていた時と同じにするつもりだったのに!」
 残酷な魔女が、娘と母の歴史すら奪うかのように、母を少女に変えた。シナーラの記憶のどこにもない、若い姿に。
「真面目なエフィル君?」
 シナーラは嗤った。
「ナラズモノの代わりに、親切にしてくれてありがと。お礼に一つ、いーいこと教えといてあげる」
「?」
 ほれ顔を上げて、と促されて、エフィルが見たのは、いつものずるがしこそうなシナーラだった。
 傷ついてもいないし、悲観してもいない。
「ためんなる社会勉強ー。『いっくら自分が悪くても、バッカみたいに謝っちゃーいけません』?」
 シナーラはニヤリと嗤って、エフィルの額を指で強く弾いた。
「痛っ!」
「謝るほど許してもらえるってこと、ないのよ? かえって、それをネタにしてゆすられたりたかられたり?」
「私は本心から悪いと思ってるんだ!」
「馬鹿?」
 またも額に衝撃が走った。
 シナーラは片頬で嗤った。
「フン? お礼はここまでね。もう一個付け加えるとすれば、そーねえ、『そんな馬鹿だから、シルディはあんたを子供扱いするのよ』」
「!? 関係ないだろうそれは!」
「チッ、あたしにしては優しすぎね。もうこれ以上話してやることなんかないわ?」
 シナーラは左手をしっしと振った。
「カイと明理沙連れて、もう出て行きなさいよ? まだ、『王の候補者』がいるんでしょ? ねえ明理沙!」
 いきなり、明理沙に声が掛かった。
「な、なに?」
「あたし、向いてそう? 王に」
「……」
 言葉を失った明理沙だが、瞬時にこう思っていた。
 水晶玉は、どうしてこんな人選をしたのだろうか、と。
 学生の私から見ても、はっきりとわかるのに。

 今の所、誰も向いていない、と。

「まだわからない。ともかく、全員に会ってみないと」
「そ」
 シナーラは明理沙の返答にあっさりうなずいた。
「んじゃ、残り全員に会ってみることね?」




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