女子高生の異世界召喚「君こそ救世主?」物語
Magic Kingdom

歌帖楓月



23 王様の仕事は

「こわい人ね」
 明理沙がため息とともに、そう漏らした。
 カイもため息で応じた。
 ここは、マジックキングダムの東の森、カイが言うには、ルイルがさっき連れて行った岩山とは全く逆の方角にある森らしい。ここも秋の風景で、秋の日の黄金色の光に、色づいた落葉樹や、緑のままの照葉樹の葉が、きらきらと照り輝いている。風は清涼で、どこか物悲しいような冷気を多く含んでいる。
 カイが、落ち葉を蹴ってカサカサ言わせながら、渋い声を出した。
「ううーんまったく。王の候補って、どうも、魔法使いとしての実力が第一で、それ以外はどうでもよさそうなんだよなあ。そうとしか思えないような人選だよなあ。この水晶、一体どんな基準で選ぶんだろう」
「そうねえ」
 明理沙は、悩んでしまった。肩に、ヒラヒラと黄色く色づいた細長いケヤキの葉が降ってきた。
「うーん」
 どうすればいいのか? こういう人たちばかりなのだろうか? いいのか、国の王様がそれで。
 相応しいのはエフィルさんしかいないじゃない。明理沙は、選び出すのに苦労はしないで済みそうだが、人選の奇妙さに困惑していた。する気はないが、もしもエフィル以外の誰かを王にしようものなら、明理沙は一生を後悔と良心の呵責に苛まれて生きることになるだろう。
 それとも、エフィル以外の人物の内面を、もっと掘り下げてみれば、案外、彼らにも王に相応しい面があるのかもしれない。
「王様を選ぶのは、難しくないのかもしれないけれど、困ったなあ」
 明理沙は、落ち葉の上に座り込んだ。
 まだ後二人いる、大丈夫だろうか? おかしさがもっとエスカレートした人物たちだったら、どうしよう。
 そうだったら会いたくない。
「ねえ、カイ」
 明理沙は目の前で、落ち葉を持ち上げては宙に放っているカイに声をかけた。
「なに?」
「参考までに聞きたいんだけど、前の王様は、どんな人だったの?」
「前の王? 僕の父さんさ」
 カイは、あっさり答えた。
「えっ!?」
 驚いた。明理沙はそれ以上言葉も出ない。
 カイは、目を上げて空を見た。
「ユエの屋敷でエフィルが明理沙に色々説明してくれたよね? けど、彼は僕の身の上を思いやってくれて、全ての説明はしなかったんだ。水晶を受け取り、次の王様を捜すのが、前王家族の役目なのさ」
「あなたが後を継げばいいんじゃないの? 王様の子供なんでしょ」
 しかし、明理沙が皆まで言わないうちに、カイは首を振った。
「そういう王じゃないんだよ。そりゃ、僕だってふさわしければなったろうけど」
 カイは複雑な顔をした。明理沙は理解できないで首をかしげた。
「ふさわしいっていうのは、どういうことなの? 水晶玉があなたの姿を映し出すかどうかっていうこと?」
「うん。そうだね。水晶玉に映らなくちゃしょうがないものね」
 世襲制ではない王とは一体なんだろう。
「ここの王様って、何をするの? 政治や経済のことはたいした仕事じゃないって、前にカイは言ったわよね? ねえ、一番大切な王の仕事ってなに?」
 カイは、ゆっくりと明理沙を見た。
 聞かれたくなかったことを聞かれてしまった、という、残念な表情をしていた。そういえば、明理沙は、重要なことは何一つ教えてもらっていない。明理沙が何をするためにここにいるのか、それだけしか、カイは進んで教えようとはしなかった。
 カイは、「これでお別れだ」というふうな、諦めた顔になった。
「うん。この世界はね、明理沙。魔法でできているんだよ。代々の王が魔法で世界の形を維持してきたんだ。本当は、この世界は作り物で、『あるはずのないもの』なんだ。会った初めに言ったよね。この世界は夢で幻なんだって。あれは、本当のことなんだ」
「え?」
 明理沙は、周りにある、「普通」の風景を見渡して、納得できない顔になった。
「本当に? そうは見えないけど」
 カイは首を横に振った。
「そうは見えないだろうけど、本当に単なる作り物なのさ。ここは魔法使いが作った理想郷なのさ」
 こんな、世界が、作り物? 
「じゃ、あなたたちがいるべき、本当の世界もある?」
 カイは、うんと頷いて、寂しそうな顔で、地面に降り積もった落ち葉をやんわり蹴った。
「あるよ。荒涼として、何も生えなくなった、生き物もほとんどいない、そんな場所が。さっきルイルが連れて行った岩山より、もっと何もない世界が。王がいなくなったら、今いる世界は、そんなものに変わる、いや、元に戻るんだ。王がいないと、この世界はなくなる」
 ここで、カイは、苦しそうに息をついた。
「力のある魔法使いたちなら、そんな危機は乗り越えて、またそれぞれに世界を造って生き延びることもできるだろうけど、僕みたいな、魔法がほとんど使えない人間では、生きられないんだよ。王が、住みやすいように作ったこの世界に生まれてさえでも、魔法の力が少なく生まれた僕たちは、多分、まぼろしなんだ。世界が終われば、僕は消える」
 明理沙は瞬いた。
「カイ、カイは、魔法使いじゃないの?」
「違うよ」
 カイは、ゆうらりとうなずいた。
「僕は、ゴールドスターを持てなかった」
 明理沙は言葉を失った。
 カイは弱く笑う。
「この、王を選ぶ水晶玉が3つもあるから、辛うじて普通の魔法使い並のことができるんだ。これをね、本当の魔法使いが持ったら、すごいんだよ。シナーラが言ってたよね? 高く売れるって。これを王に渡せば、世界の安全が約束される。王が亡くなってから、もう、結構な時間が過ぎてしまっているんだ。今、誰もこの世界を支えていない。マジックキングダムの人間は多くが魔法使いだから、相変わらずのほほんとしていられるけど、本当言うともう時間がないんだよ」
 明理沙は、頷くことしかできなかった。
「そう、なんだ」




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