女子高生の異世界召喚「君こそ救世主?」物語
Magic Kingdom

歌帖楓月



3 簡単な願い

 でも。と、明理沙は思った。
 でも、たかが「話を聞くだけ」なのに、どうしてこの少年はこれほどあせっているのか? 私は、こんなにも悲壮な顔をして、人にものを頼んだことなんかない。
 恐らく、明理沙が今までに経験したことの無い何かを、彼は抱えているような気がした。それが何かは、わからないが。
「ね、私が断れば、あなた、多分、とても、……困るんでしょう?」
 そう言った瞬間、少年はバッと顔を上げて明理沙を食い入るように見つめた。見抜かれた、という顔をしていた。
「そう、」
 彼は、頬をぴくぴく引きつらせて、微笑んだ。目が、ひどく怯えていた。
「そうなんだ。君にとってはただ話を聞くだけのことなんだ。だけど、僕にとっては、本当に……命がかかっているんだ。頼む! 僕の願いを聞いてくれ!」
 言葉の最後で、震えていた声が、必死なものに変わった。
 ああ、と、明理沙は心中で声をもらした。
 追い詰められてる。この人は。
 明理沙は少年の顔を見つめ、こくりとうなずいた。
「うん、いいよ。理由はわからないけど、あなた、大変なんでしょ?」
「……あ、」
 少年の目から、涙が溢れ出した。つぎつぎに。
 ありがとう、ありがとうと、何度も言って、少年は、しばらく泣いていた。

「この国は魔法使いだけが住む国。マジックキングダムって呼ばれてる。でね、……今、困ったことになってるんだ」
 三度、鼻をかんだあと、それでもまだぐすぐす鼻をならしながら、とりあえず口調だけは元気に、カイはそう言った。
「キングダムって、『王国』よね?」
 明理沙がそう言うと、カイは、うん、と、返事をした。
「そう。王がいるんだ。だけど、困ったことに、彼は死んでしまったんだ。そして、次の王がいない」
 そこまで聞いて、明理沙は、うーん、と言って首をひねった。
「それは困ったことだわ。政治や、経済が、滞る?」
 だが、カイは「ううん。困るのはそこじゃないんだ」と言った。
「違うの?」
「違う。そういうのには、あんまり困らないんだ。王はそういう仕事もしてるけど。別に、政治経済は、別の人が肩代わりするから、いいんだ」
「肩代わりできる。えっと、じゃあ、肩代わりできない何かが、困る原因なのね?」
「うん。マジックキングダムの多くの人は、困らないだろうけど……僕や、僕のような人は、とても、困るんだ」
「あなたのような人? あなたは一体何が困るの?」
「うん……」
 カイは、曖昧に押し黙り、少し暗い顔になった。目を伏せて、くちをつぐんだ。
 言えないらしい。明理沙は、原因が分からないままなので、もどかしい思いになる。
「じゃあ。こう聞くわね? だから次の王を捜すのね? ね、見当はついてるの? あ、もしかして、私が話を聞く6人の人が、何か関係があるの?」
 カイはこくりとうなずいた。これには答えてくれた。
「うん。彼らが、次の王になる資格のある人達なんだ。そこに……行ってくれるかな?」
「いいよ、行こう。どこにいるの? その人たち」
「居場所は、わかっているんだ。それに、僕は、彼らの顔も知ってるしね。何度か話をしたこともあるし」
 そういいながら、カイは懐から3つの水晶玉を取り出した。それぞれ、黄色、水色、緑色をしている。
「このうちのどれかを、新しい王が、持つことになるんだ。これは、王が死んだときにね、僕のところに、現れたんだ。何も無いはずの空間から、この3つの水晶玉が、僕の目の前に落ちて来たんだよ。だから、僕はこれを王に渡さなければならない」
「これは王の持ち物なの?」
 明理沙の問いかけに、カイはうなずいた。
「うん。これは、間違いなく王の物なんだ」
「ふうん」
 明理沙がうなずくと、カイは立ち上がった。
「じゃあ、早速行こうか? これは夢だ。君が目覚める前までにね」
 その言葉に、明理沙はひっかかるものを感じた。「簡単な願い」の内側に気づいたように。
「カイ、これは、夢じゃないんでしょう? 本当は」
 違うよ。と、うつむいて、カイは言った。
「夢だよ。この国は幻なんだ」




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