女子高生の異世界召喚「君こそ救世主?」物語
Magic Kingdom

すぎな之助(旧:歌帖楓月)



31 絶体絶命を助ける者

 青紫色の光が、二人を覆った。
「ああああ……死んでないみたいだ。ん……なんだ? これは、」
「誰かの魔法?」
 周囲は真っ赤な炎が岩をも焦がしている。
 二人の周りを、青紫の光が取り囲み、炎と熱から守っていた。
「エフィルさん……?」
 岩にぶつかる波のように、青紫の光がきらきらと弾けた。赤い炎のなかの、青い冷海の塊のようだった。
「いやいや。エフィルの魔法は白い光を放つ。ユエなら……たぶんこの島ごと爆破して吹っ飛ばす、ルイルなら呪いの力などで火竜自体が苦しみ出すはずだ。あと、は、」

「よー! 明理沙! 助けてやったよ! カイに足引っ張られながらも頑張ってるーう?」

「その声……シナーラさん?」
 きょろきょろと、辺りを見回すが、シナーラはいない。炎しか見えない。
「げ……やっぱりシナーラ!?」
 カイは嫌そうな表情でそう叫び、そわそわとあちこちを見た。しかし、炎しか見えない、周りの風景すら見えない。
 声だけが聞こえる。
「これだけの火を消すのは面倒臭いからしない。あんたたちが何かくれるっていうんなら別だけど。というわけで、あんたたち助ける最小の力しか使わなかったから、周りは火の海なの。この島一帯の消火作業なんかは、持ち主がやればいいわ。とりあえず、空に浮かべてやるからね。後は城に行くなり森に落ちて焼け死ぬなり、好きにしな。あと、火竜の始末もしてないから、ま、気をつけてね」
 カイが引きつった。
「ちょ、ちょっと待てよ! 空に浮かべて、それでおしまいか? 俺、水晶玉持ってないんだぞ! あ! 森に置いてきたんだった……燃えてるかも……。あの水晶玉がないと、俺は魔法が使えないんだ! もうちょっとなんとかしろよ! シナーラのケーチ!」
 ケーチ、と言った瞬間、カイの頭上に3個の水晶玉が投げ付けられた。
「ギャッ!」
「ほらよ。森が燃える前にきちんと拾ってやってたよ。だから有り難く使いな。私は王の候補者なんだから、王の水晶玉をその辺にほいほい置いていくなんて間抜けな真似はしないの。あんたと違ってね。ヒッヒッヒ」
「……」
 カイは黙るしかなかった。
「黙ってないで感謝したらどうなのよ? バカカイ」
「どうもありがとうございましたシナーラさん」
 棒読みで礼を述べたカイの服の一部に、火がついた。
「ぎゃー!! あちちち!」
「感謝の気持ちがぜんぜん足りてないわよ!」
 シナーラがわざと魔法の力を弱くして、火竜の炎の侵入を許したのだ。カイが必死の形相で口を開いた。
「大変ありがとうございました! シナーラさん! 感謝の言葉もございません! あなたは命の恩人です!」
「よしよし。まあいいわ。げっ……やな奴が出て来そうだから私帰る。じゃね、明理沙。またな、カイ」
 シナーラの声は、一方的にそこで途絶えた。
 二人は青紫の光に包まれて、大地を震撼させる業火を逃れ、大きな月が浮かぶ星空へと上昇していった。

 火竜は、一瞬で森を焼き尽くし、少年少女を炎の中に飲み込んだ後、本来の目的だったシルディに向かって行った。
 城へはまだ遠い。
「おしまいね」
 シルディはつぶやく。
 しかし、すぐに勢い良く首を振って言った。
「って、あきらめるのはまだ早いわね! リディアス! 起きなさい! 眠ってる場合じゃないの! あなたの水晶玉が大変なのよ! リディアス! 起きてー!」
 声を出さずにはすでにもう何度も何度も呼んでいたが、まるで何も返って来ない。絶対に寝てる。
「リディアス!」
 彼をたたき起こす時と同じ大きさの声で、シルディは叫ぶ。
「リディアスったらー!」
 火竜が、火を吐いた。

 ゴフ! 

 熱い風圧を伴い、シルディの前方、城へ向かう道が竜の炎によって発火し、溶岩となった。
 城への道を絶ったのだ。
 シルディが顔をしかめた。そして、後方、竜がいる方向に振り返った。
「城へは返さないのね。リーディーアース! 起きなさいってば! ほら! あなたの水晶玉が、竜に食べられちゃうわ!? 毎日毎日磨いてる、このとんでもない水晶玉が、狙われてるのよ! 起きて!」
 メラメラと陽炎が立ち、道がしだいに熱気を帯びてくる。
 火竜の、大きな真珠のような光沢を持つ目が、ぎらりと輝いた。グワというどう猛な音と共に、火竜の口が大きく開けられた、口内には、白色までになった炎が、放出される瞬間を待っている。その中の一塊が、唾液のように口から流れ落ちた。その瞬間、その辺りの岩が、音を通り越した空気振動を発して、蒸発した。
 シルディが、あせりの表情で後ずさった。
「まずいわ……」
 クッ、と、竜の喉が鳴った。

 ゴオゴオオオオオオ
 
 火竜が白い炎を吹いた。

「うわあああああ! シルディーー!」
 宙に浮いたカイは絶叫した。見下ろす、城への道は、真っ赤に燃える火竜と、真っ白な炎の二色になっていた。
「シルディ、シルディ!! 畜生! 今助けるからなあっ!」
「カイっ! 行こう! シルディさん助けなきゃ!」
「よし!」
 二人は、細い道へ向かって急降下した。
 ガン! 
「あんたたちバカ?」
 いきなり、カイの頭に、金の杖が降ってきた。……キキョウ畑でカイをぶったのと同じものだ。ゆえに、この声はシナーラのものだった。
「うぐうぅう」
 あまりの痛さにカイはうめきながら身をよじった。
「お、お、お前なあ……シナーラ……、なんでいるんだ? それよか、邪魔するなよ!」
「邪魔ですって? 笑っちゃう」
 シナーラが、二人の前に姿を表した。金の杖を持っている。
「あんたがあんまり馬鹿だったから心配して帰るに帰れなかったのよ! 案の定だったわ! あんた達が行ったって無駄! カイができる攻撃魔法は握りこぶし大の氷塊か炎か蛇かを相手に飛ばすだけでしょ? もう全然無駄」
「ぐ……だけどシルディが!」
「あれを見なさいよ!」
 ばっ、と、シナーラは、金の杖で、自分たちよりもずっとずっと上空を指し示した。
「金糸の君よ! 『おでまし』なの! お陰で転移魔法が無効になって、あたしはあんた達と一緒にいるしかないの!」




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