女子高生の異世界召喚「君こそ救世主?」物語
Magic Kingdom

歌帖楓月



49 再生の光の下で

「あー! おっはよおおう! カイー!」
 城を出て、さて荒野でもさすらおうかとたそがれていたカイの耳に、明るくて元気がよくてかわいくて聞きたくない声が衝突してきた。
「うげっ! なんだよユエ!? なんでお前がここにいるんだ! 嫌いなはずだろ? この島を!」
 数多の焼け焦げた倒木を軽快に飛び越えて、ユエがカイの方へ走って来た。
 そのままカイに飛びつく。
「やっほー! ついに金糸の君のとこまでこれたんだねー! おめでとー! カーイー!」
「ぎゃー! はなせー!」
「……やめないか、ユエ」
 大騒動の二人に、困惑した声がかかった。
 ユエにもみくちゃにされているカイが目を丸くした。
「! エフィル、お前も来たのか! どうしたんだよ一体?」

 白魔法使いの若者は、事の次第をカイに話した。
「ユエが隠していたんだ……」
 3人は倒木の上に並んで腰掛けた。真ん中に座ったエフィルが、右隣にちょこんと座っている見た目はかわいらしい少女を恨みがましく睨む。
「だってお知らせしたくなかったんだもーん! うふっ!」
 カイが辟易したため息をつく。
「ユエはシルディがかかわるとこれだもんな……」
 少女は可愛らしく微笑んで首を振った。
「ちっちっち! ユエはね! エフィル様にかかわることならなんでもそうなの! 別にシルディにも誰にも恨みなんかありませーん! カイと明理沙の時だって、そうだったでしょ?」
 はああーっ、と、カイが重いため息をついた。
「そうだったよなあ……。お陰で死ぬかと思った」
「……それで、シルディはどうしているんだ? 無事なのか?」
 エフィルが口をはさんだ。
 カイはきょとんとして目をしばたいた。
「会わなかったのか? シルディは湖の岸にいるぞ? 僕にだって気配がわかったのに。……王の水晶玉のおかげだけど」
「!」
 がたっとエフィルは立ち上がって、ユエを睨んだ。
「ユエ!」
「だあって、エフィル様に関わることなら邪魔したいんですものー。エフィル様にはユエがいますものねっ?」
 エフィルは言葉も出なかった。照れているのではなく、ユエの無軌道さ加減に言語中枢がマヒしてしまったらしい。
「……じゃあな! カイ!」
 エフィルはユエの存在を振り切るようにして、勢いよく湖に向かって駆けて行った。
「あーん! エフィル様、待ってえー!」
 ユエがエフィルの後を追って飛んで行った。カイが見える範囲で少女は白魔法使いに追いつき、その背中にしがみついた。
「離せー!」
 叫び声がここまで響いて来た。同情を込めた目で、カイは二人の姿を見送った。
「大変だな。エフィル」

 が、それから3分も経たないうちにエフィルが駆け戻って来た。ユエは彼の背中から離れて、それでもぴったり寄り添って走ってくる。
「どうしたんだよ、エフィル? 会えなかったのか? それともユエが何かしたのか?」
「来いカイ!」
 返答もせず、有無を言わせずにエフィルはカイの左腕に自分の肩を貸して持ち上げ、空へと上がった。
「うわわわ!? なんだよ、エフィル、どうし」
 いきなりのことに驚くカイの言葉を、エフィルは遮った。
「金糸の君が魔法を使う! 地面にいたら危険だ!」
「エフィル様ー、私も抱っこしてくださーい!」
 エフィルの左隣りからユエがたかってくる。
「ユエ! 冗談を言ってる場合ではないんだ!」
「私本気ですー。……きた」
 銀の光が視界を奪い、次に衝撃が三人を襲った。
「!」
 前方から来た空気の振動とも波とも表現できるものが、3人にぶつかった。首が後方にのけ反りそうになる。
「う……!」
 カイは何とか態勢を立て直してエフィルにしがみついた。エフィルは最初から腕で顔を防御して前かがみになっている。ユエはというと、そよ風に当たるかのように、にこにこ笑いながら、衝撃が来た方向を見ている。
「うふ! お祈りとお約束の魔法ね! 木が戻ってくるといいわね! リディアス! ふふふ!」
 無邪気な、陶磁器の鈴を振るような笑い声がころころ響いた。空気は鳴動を伴い、嵐のように激しく揺れている。ユエは、風に遊ぶ小鳥のように、さらさらと髪をなびかせて笑い続ける。
「リディアスは面白いわね。面倒臭い複合魔法なんか使っちゃって! わたしなら、時間魔法でちょちょいのちょい! なのにね! なんて丁寧なのかしら、りディアスったら! ふふふ。そーんなに、」
 ここで、ユエの言葉がとぎれた。この状況では、よほど通る声でないと隣にいても聞き取れないが。
「……シルディが、たいせつ?」
 前に、黒魔法を使ったユエが見せたのと同じ、暗いほほ笑みが、やみ夜に浮かぶ新月のように、口の端に上った。しかし、嵐の中、呟きもその表情も、誰にも知られなかった。

 衝撃に耐えることしばらく。
「終わったようだ」
 エフィルの声に、カイが閉じていた目を開くと、
「あ……!」
 カイが広がる風景に息を呑んだ。
「沈思の森がよみがえった!」
 昨日見た森が、眼下にあった。
「すごいな、やっぱり……。そう、思うだろ? エフィル?」
 カイが、何故か消沈した様子でつぶやく。が、エフィルからの返答は返って来なかった。「?」
 見ると、白色に若草色のまじる髪をした彼は、上空を見つめていた。衝撃が来た方向を。
 二人を、見ていた。複雑な顔をして。
 それを見て、カイは、エフィルにはしばらく声をかけないで、そっとしておこうと思った。
 が
 突然、白魔法使いの背中に衝撃が走った。バチーンッ、という音と共に。
「エッフィルさまー! もー! しっかりしてくださいよおー!」
 ユエが彼の背を勢いよく叩き、腕に絡み付いた。
「!」
 現実に引き戻されたエフィルが腕を振る。
「離せユエ! 自分で浮け!」
「だってユエ、エフィル様とラブラブ! したいもーんっ!」
 粘着物のようにべったりとくっついたユエは、エフィルがいくら腕を振っても取れなかった。
「よせよ、ユエ、」
 カイが助け舟を出そうと試みるが、
「そおだ! カイが落ちたら、私はエフィル様とくっつけてラブラブ! できるのよね! ね! カイ?」
「やめてくれー!」
 ユエがカイを引きはがしにかかった。カイがエフィルにしがみつく。エフィルが止めに入る。
「ユエ、やめないか!」
「やでーす! さっ、いいからおとなしく落ちて、カイ!」
「やめろおー! ひとごろしいい!」
「死なない死なない。だーいじょーぶっ!」
「その根拠はどこにあるんだー!」

「やっぱりエフィル君じゃない。それに、ユエ。……カイ、どうしたの? 城にいたはず、……真っ青」
 3人でもみあっていると、若い女性の声がかかった。シルディが、騒ぎに気づいて近寄って来たのだ。
「シルディ……、たすけて」
 カイが泣き顔でシルディを見た。
「泣かないの、カイ。……王の水晶玉、持ってるんでしょ? だったら自分で浮けるはず」
「ああ! そうだった!」
 ユエから落とされかかっていたカイは、シルディの言葉でようやく思い出した。
「自力で浮けるんだった……。ごめんエフィル。ありがとうシルディ」
 そそくさと、カイはエフィルから離れた。さっきまでエフィルが支えてくれたのは、魔法の渦中ではカイが浮遊魔法を使えないからだったのだ。
「なんだ……。ユエにあんまり慌てるから、てっきり持っていないのかと思った」
 エフィルが拍子抜けした声を出した。
「面目ない……」
 カイは真っ赤になって顔を伏せる。
「エフィル様ー! これでラブラブできますねー!」
「! やめろ! ユエ! ……おはようシルディ。昨日は大変だったみたいだね……」
 ユエにかまけていては話ができないと悟ったエフィルは、今だけは自分の左腕をユエにくれてやることにした。
「死ぬかと思ったけど。すんでのところでね、助けてもらえたわ」
 肩を竦めて笑う彼女は、金糸の君に支えられている。
 エフィルは、彼女の睫が濡れていることに気づいた。
「そう。よかった」
 声が複雑な響きを帯びた。
「エフィル君は、森の焼け具合でも見に来たの?」
「ええ。本当なら、その時にわかればよかったのだけど、気づいたのが今朝だったので。マジックキングダムの変事は確認しなければ」
 にっこりとシルディは笑った。
「そう」
「でも森も再生したようですし」
 マジックキングダムの保安を任された者として、金糸の君に一礼する。
「逆鱗を失った火竜を止められたとのこと。マジックキングダムの安寧を保つ任にある者の代表として、感謝いたします。金糸の君」
 まだまだ、適わない。エフィルは心中でため息をついた。白魔法については焦りを感じない。道と共に歩んでいる自分がいる。たとえ、白魔法を極めるためのほんの途上に立っているとしても、焦りは感じない。極めるためには自分は研鑽して進むだけだ。
 ただ、それ以外の、つまり、彼の魔法を見るたび、心中が穏やかでなくなる。自分の未熟さを思い知らされる。
 金糸の君。彼には、自分にない何かがある。それは感じられるのだ。それがあるから、彼には強大な力がある。それが何かを見極め、それを得ることができれば……。
 なんにせよ、自分はまだまだだ。
「カイー、それで明理沙は王の候補者の全員に会えたのねっ?」
 エフィルにくっついているユエが、突然カイに声をかけた。
「なんだよ、いきなり。……まあ、うん。全員に、会えた、かな」
 カイは怪訝な顔で、返事をした。いきなり何故そんな質問をしたのか、ユエの意図が見えない。王の継承に、彼女が興味を持っていたとは思えなかった。
 シルディは、カイのあいまいな返答に、複雑な表情を見せた。
 金糸の君は遠くで吹く風の音を聞くように、横を向いた。
 エフィルはユエの突飛な問いにまゆを寄せ、カイの表情を気遣った。
「そう!」
 ユエはほほえんだ。
「なら、もういいのね? 明理沙に決めてもらいましょう? 次の王様をさっさと!」
「待て」
 金糸の君が言葉を返した。
 ユエは、笑みを浮かべたまま、大きく瞬きをした。
「なあに? リディアス」
「彼女は臥せっている。今は駄目だ」
「そんな! さっきまでは、元気だったのにどういうこと……、」
 カイが割って入った。が、金糸の君と目が合うと、神妙な顔になって俯いて、そのまま押し黙ってしまった。
「今すぐは無理だ」
 カイには答えず、金糸の君はユエの言葉の方を制した。
 ユエはにっこりほほ笑んで大きくうなずいた。
「ふうーん、病気ならしかたないわねっ! んじゃ、治ったらいいのねっ!」
「ユエ、静かにしろ」
 エフィルがはしゃぐユエをたしなめた。
「明理沙は、体調が悪いのですか?」
 心配顔でエフィルが金糸の君に問うと、うなずきが返ったきた。
「今は動かせない」
「!」
 カイは驚愕した表情で、金糸の君を弾かれたように注視した。
 エフィルは思案顔で言葉を紡ぐ。
「そうですか……。私に何かお手伝いできることはありませんか?」
 彼の白魔法は、今のところマジックキングダムで一番優れていると言われている。
「そうだな、……取り敢えずは光輝の妖精が手を打ったが」
 エフィルは一瞬言葉に迷った後、再び口を開いた。
「私にも、様子を見せてはもらえないでしょうか?」
「かまわないが」
 金糸の君は城へと戻って行く。エフィルが後に従った。ユエはその場から消えた。カイは、そこにとどまった。




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