女子高生の異世界召喚「君こそ救世主?」物語
Magic Kingdom

歌帖楓月



51 何に惑うのか?

 暗い森に、迷いの霧が流れる。

「この森に、惑わされるってことは、それはつまり、僕が僕の考えをわかっていなかったからなんだ」
 少年はうつむき、両の拳をきつく結んで、硬い足取りで薄暗い森を歩いた。あてどもなく。
「だから、この森が送ってくる、うれしいとか、悲しいとか、辛いとか、怒ってるとか、そういう感情に引きずられて、……そんな思い出を引き出すんだ。僕自身が。そして、……際限なく悩むんだ」
 少年は、唇をきつく噛んだ。悔しそうに。
「馬鹿だったんだ、僕は」
 森は、来た人全てに、様々な感情を染み込ませていく。
「この森は人を試す。そうさ、だけど、それをどれくらい深刻に受け止めるかは自分で決めることだし、それをどう取ろうと森はどうでもいいことなんだ! 別に、森がこれくらい苦しめようとか思ってやっている訳じゃないんだから!」
 世界だって同じだ。この森と同じだ。いいや、不吉だと言われてるこの森こそが、むしろ、僕にそれを易しく教えてくれてるんだ。
「僕がどう思っても世界はかまわないんだ。ただ構うのは僕自身の方なんだ」
 自分は世界のお荷物だと思っていた。いや、自分では自分のことをそうは思っていなかった。ただ、世界にとって自分はお荷物だと思われている、と、思っていたのだ。
「でもそうじゃないんだ。ちがうんだ。僕は、馬鹿だったんだ。世界がそう思ってるんじゃない。自分が、自分をそう行動させるように仕向けるために考えてたんだ。……世界はそう思ってない。この森と同じだ。悲しい気持ちや辛い気持ちを送ってくるけど、……それをどう取ろうと森はどうでもいいことなんだ」
 しかし、黒魔術に心を売っていたユエの言葉が思い出されて胸に刺さる。
『お荷物』
「違う! そりゃ他人は色々思うさ。僕のことを荷物だって思う人もいるだろう。だけど、それだって僕と同じ一つの人間の頭の中で作った心であって、僕と同じ心じゃないか! どっちが正しいとか悪いとか良いとか価値があるとか、そんなことを決めるためじゃないんだ! なびくためにあるんじゃないんだ!」
 自分ではそう考えていないつもりだった。ただ、世界は自分とは違う考えで、それに沿わないといけないと……思っていたのだ。
「だけど、違ったんだ! 自分の心っていうのは! どっちが正しいからこう思ってることにする、ってことじゃなくて、自分がどう感じたかを表すのが、心なんだ!」
 それを誤解していたのだ。自分は、存命中の父に、聞けばよかったのだ。『僕だけできそこないで恥ずかしいから、僕は隠れてこそこそしてたらいいの? 僕はそう思ってないけど、世界のみんなはそう思ってるから、そうした方が良いの? 』と。そしたら、答えは返って来たきただろう。自分の世界観に関する問いかけごとの返答が。
「僕は、どこまでが自分の心がわかってなかったんだ。本当は、世界観ごと含めて、自分の考えだったんだ。実際の世界がどうなのかっていうことと、世界はこういうものだっていう考えは、全然別なんだ」
 世界を正確に捉えようが、歪めて捉えようが、それは自分の考えでしかなく、世界のありようとは最初から別物なのだ。
「今なら、……何をやってたんだ僕は、って、思える。……少しだけ」
 森の中で、少年を歯を食いしばって霧を睨んだ。形のなかった不安と決別するように。




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