女子高生の異世界召喚「君こそ救世主?」物語
Magic Kingdom

歌帖楓月



61 城の異変

「!」
 城の書庫で、調べ物をしていたシルディが目を見開いた。彼女の鋭い感覚は、城の空気の変質を察知しえた。
 のんびりしていた城の精霊たちに、「誰か」が介入した。
「ルイルったら! なんてことをするの!?」
 顔色を変えてそうつぶやいたシルディは、書庫から走りだした。これまで安穏としていた空気が、今は配列を強いられ、きしんでいる。シルディには、それが悲鳴に聞こえる。
 ここの精霊を使って何をしようというのか。……十中八九、リディアスに対するものだろうけれど。
 とにかく、ルイルの行動を止めねばならない。
 石作りの床に、シルディの足音が響く。堅い革靴が奏でる、カツコツカツコツと小気味良い音。
「一体城のどこにいるの?」
 この広大な城の中から二人を探すべく、とにかく走る。
「あ!」
 ふと、石の壁から、手のひらほどの灰色の少女が浮き出してきた。
 朝、シルディにあいさつをした、城の石の妖精だ。
「よかった。あなたは大丈夫なのね?」
 ほっとして、シルディはほほ笑む。
 灰色の妖精は、子犬がじゃれつくような親密さで、笑いながらシルディの回りを飛んだ。そして音にならない言葉で教えてくれる。
「そう。おかしくなったのは空気の精霊だけなのね。やっぱりルイルがやったのね。ね、ルイルがどこにいるか、わかる?」
 シルディの問いに、石の少女は数度うなずいて、先導した。

 城に戻って来たカイは、異様な空気を感じた。怪訝な面持ちで、エフィルと顔を見合わせる。
「あーれー? なんかおかしいよな? エフィル、そうだろ? なんかおかしいよな?」
 眉間にしわを寄せるカイに、エフィルも複雑な表情で同意した。
「ああ。気持が悪いな。水の中に乳を入れたような、奇妙な魔法の匂いがする」
 今まで、この城でこんな奇妙な感覚を感じたことはない。いつも空気は澄んでおり、金糸の君の魔力が染みだして、まるで大海原のような、高地の風のような、広大さと畏怖とを感じさせるのだが。
 エフィルが、保安官らしく気の引き締まった真面目な表情になる。
「私はこれで帰るつもりだったが。こんな妙なものは看過できない。もうすこし残って様子をみてからにしよう」
 その言葉が終わると同時に、
 ミシッ、と、上の方から音が聞こえてきた。
 ただの音ではなく、これは、魔法同士がぶつかる音だった。
「? 何故、この城でこんな音がする?」
 やや信じられないという顔で、エフィルはそうつぶやいた。そして、走りだす。
「行こう、カイ。城の上の方から嫌な音がする。こういう音は、良くない」
「へ? なんか聞こえたのか? エフィルがそう言うんならそうなんだな。うん、行ってみよう」
 カイにはそれがよく聞き取れなかったが、エフィルの後を追った。

 城の石の精に導かれる途中、バリバリバリッという生木を裂くような嫌な音が響いてきた。シルディは、あまりの大きな音響に両耳を塞いだ。
「……何をしてるの!?」
 魔法にまつわる非常に不快な音だった。シルディは、これが何の音かを知っている。
 彼女の表情が、穏やかでなくなった。怒りにも似ていた。
 石の精が、振り向いてシルディの様子を伺っている。彼女は妖精を安心させるように微笑んだ。
「大丈夫よ。さあ、行きましょう?」
 大体、誰がどこで何をしているのかわかった。場所はリディアスの部屋あたりだ。魔法は、使う者の個性を強く表す。間違いなくこの魔法はルイル。大味なくせに、いやに粘着質な彼女の魔法。もう一つは、……リディアス。
 シルディは、走りながら息を吐いた。
「もうっ。二人して何やってるのかしら」




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