女子高生の異世界召喚「君こそ救世主?」物語
Magic Kingdom

歌帖楓月



62 止しなさい!

「んまああーッ! 何てことするんだい!? リディアス、あんたって奴はっ!」
 ルイルが声を粗げた。ふわふわした薄紫の短い髪が、妖火のように揺れる。
 ほんの前までは無色透明の空気だった。いまや、漂う空気が二色に色分けされていた。紫と黄色の2色。毒々しい取り合わせの、まだら模様の空気に成り果てている。
「寝る場所を消されてはかなわん」
 不機嫌な顔で、金糸の君はルイルと相対している。ルイルはようやく金糸の君の部屋の前で、彼に追いついたのだ。
「そんなつまらない理由で私とやり合う気になったのかい? 本当に力の抜ける男だねえ!」
 噛みつかんばかりの勢いでルイルは迫る。
 リディアスはうるさげに首を振った。
「お前がどう思おうが知らん。それで、何が望みだ?」
 そう言われて、ルイルのこめかみに青筋が浮いた。
「偉そうな口をおききでないよっ! まず私に対して誠心誠意、丁重かつ謙虚に謝ってもらおうじゃあないか! そして、あたしの家にかけた蝋化の魔法を解くんだよ!」
「謝ることは何もない」
「なんだってーっ!?」
 まだらの空気が二人の間を流れる。その色は、まるで二人の相いれなさを表すかのような補色関係。
「あんたになくっても、私には大いにあるんだよ! さあ! さあお謝り! さあ!」
「私が謝る必要はない」
「ッきー! だから! あんたになくっても私にあるんだよ! つべこべいわないで謝らないかい!」
「それはお前の勝手だ」
「何だってえええ!」
 二人の間に(元からあったが)見えない亀裂が走った。
 ルイルが不穏な空気を撒き散らしながら、ほほ笑んだ。
「そうかい? どうあっても私に謝らないっていうんだね? それじゃあ私も好きにさせてもらうよ!」
 今までは好き放題やっていなかったらしいルイルは、そう言って、奇妙な舞を踊り始めた。

 ここに多くの精霊がいる
 すべて一つの理で動いている
 それは一本の縄となり
 私の意を表す流れとなる

 ルイルの歌声はとても澄んでいて美しい。鮮やかに華麗な高い声音は、人に楽園の花園を思い起こさせる天の調べのようだ。
 そして、その歌声に従い、淀んだ空気が、何を目標にとは言えないが、ある一つのものの為に動き始めた。
 が、

「止しなさい!」

 凜とした声が響き渡った。

「……げっ、シルディだ……」
 決してきれいとは言えない空気の中、彼女が、毅然と現れた。
 それを見て、ルイルが、強ばったように動きをとめる。
 無表情の金糸の君も、どこか、まずそうな雰囲気になる。
「二人とも、何をしているの?」
 自習時間に悪さをしている悪ガキを見つけた教師のような迫力だ。理性の力で自堕落な空気を両断する揺るがない眼光が、二人に注がれる。
 二人とも、そのまっとうさに圧倒され、返事もできない。
「この状態は一体何?」
 重ねての問いかけ。重ねて二人とも、返事もない。
 シルディは平等に二人を見やり、そして一喝した。
「元に戻しなさい!」
「だってー、シルディ……」
 ルイルが、おずおずと言葉を返すが、
「だってじゃないでしょう? どこの魔法使いが単なる感情的ないさかいでこんなに空気を汚すの? 理由は後で聞きます。さあ、まずは後片付け!」
「わかったわよう……」
 ルイルはしゅんとうなだれ、なんと、素直に言葉に従った。
「リディアス、あなたもでしょう?」
 シルディはルイルから目を転じて、ちょっとばかり後ずさった金糸の君を見た。
「私は別に、」
 反感といくばくかの逡巡がまじった答えを聞くと、シルディは、すっと相手を見返した。鋭く。
 そしてにこりと強く笑った。言い逃れを許さない、明るくも厳しいものだった。
「それは『自分に責任はない』ということなの?」
「……」
 リディアスは、母親にいたずらを諭されている子どものように、返す言葉を無くした。
「どうなの?」
「……。……わかった」
 ようやくの返事は、ひどく不本意で不機嫌で不承不承なものだった。




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