女子高生の異世界召喚「君こそ救世主?」物語
Magic Kingdom

歌帖楓月



63 信じられない光景

 少年たちは、城の中を巡り巡って、ようやく金糸の君の部屋の前に駆けつけた。
 そこで二人が目にしたものは、信じられない光景だった。
「シルディー、もういいだろーう? ゆるしとくれよおーう」
「駄目よ。まだ全然元の状態には戻っていないでしょう?」
「あたしゃ、いい加減疲れたよう」
 部屋の扉付近にしゃがみこみ、泣き言をいうルイル。
「自分で散らかしたものは、自分で片付ける。その人には収拾のつかない魔法は、その人には使えない魔法なのよ? 魔法を勉強する時に、最初に教わること。知ってるでしょう?」
 腰に手を当てて、さっぱりしたほほ笑みですげなく応じるシルディ。
「うっくっ……くっ……」
 ルイルは疲れて泣きだした。
 少年たち二人は、これは夢か? と思った。ルイルがそんな。
「どうして、あのルイルが泣いているんだろうか?」
「ええー。あの自分勝手なルイルが、他人の言いなりになっている……?」
 ルイルはへとへとの様子ながらも、シルディの命令どおりに「浄化の魔法」を使っている。周囲には白銀のか細い光が放たれている。
 その側では、金糸の君が立っていて、難しい顔をして、磨き上げられた水晶玉を手に考え込んでいる。
 そしてそんな彼らを指揮監督するシルディ。
 平素、少年たちには思いもつかない光景が、そこにあった。
「シルディ。これは、一体どうしたことだい?」
 エフィルが、複雑な顔と声とで、シルディに声をかけた。ルイルを叱咤していたシルディが、そこで二人の姿に気づいてほほ笑んだ。
「あら、二人とも、帰って来たのね」
 ルイルがエフィルを目にして、水を求める砂漠の孤独な旅人のように、希求の声を上げた。
「まー! エフィルじゃないかい! ああーちょうど良かった! ここへ来て、一緒に浄化の魔法を使っておくれよ! あたしゃもう、死にそうだよ!」
 ルイルのお願いの仕方。それは熱心な口調と、瞳にはまるで相手をとって食わんばかりに飢えた肉食獣の迫力があった。エフィルは身の危険を感じるほどだった。自然、彼は一歩身を引く。
「いや、私はただ様子を見に来ただけなので」
「そんなこと言わずにさあー」
 だがそこで、シルディが、ぽんと、ルイルの肩を叩いて、彼女ににっこり笑った。
「ねえルイル。エフィル君に頼っちゃ駄目よ。これは全部あなたたちがやったことでしょう? 私は、あなたたちがどういう悪いことをしたのか、あなたたち自身にしっかり理解してもらうために、こうして後片付けさせているの。さー、まだまだ先は長いわね。頑張って」
「そんなあ……シルディー。あたしゃもう、もう、疲れたよーう……疲れたー。ねえー?」
 ルイルのべそに、シルディは一向に頓着しない。
「それだけのことを、したのよ」
「ねえ、シルディ。ちょっと、」
 ここで何が起こって、今何をすべきなのかを、状況を見て感じ取ったエフィルが、シルディに声をかける。
「何?」
 ルイルから離れて、エフィルの方に近寄って来たシルディに、彼は耳元でささやいた。
「私がやろうか? ルイルには向いてない」
 シルディは首を振った。
「いいえ。これは二人がやったことなの。だから二人が片付けることなの。収集のつかない術は展開してはならない。エフィル君も知ってるでしょう? それは魔法使いとして当然のこと。片付ける自信があったから、二人ともこうまでしたのよ? そうでなかったら、一人前の魔法使いではないわ」
 エフィルの隣に立っていたカイが、「うう」と言ってしゃがみこんだ。
「気持ち悪くなった。吐き気が……」
「カイは向こうに行ってなさい。ここは空気が悪いのよ」
 シルディはそう言って、カイの肩を叩いた。
 しかし、カイは苦悶の表情を浮かべて答えた。
「うう。苦しいけれど、僕をここにいさせてくれ……。こんなにも珍しいものなら、見逃すわけにはいかないだろう?」
「おいおい。しかたないなあ」
 苦笑したエフィルが、何事かつぶやいてカイの頭に手をかざした。
「あ、楽になった」
 すくっと立ち上がったカイを見て、シルディも苦笑した。
「よかったわね、カイ。でも、無理はしないでね? ……リディアス! 居眠りしないの! どうして眠れるのよ、こんな場所で!」
 片付け組の二人が芯から真面目であれば、シルディはこのままこの少年二人と、ほのぼのとした雰囲気の会話を続けていられただろうに。ところが、二人とも、涙が出るほど問題児だった。
「できん」
 水晶玉を持ったまま、リディアスは無表情につぶやく。立ったまま壁にもたれ掛かっている。そのまま眠るつもりだったらしい。
「ちょっとーっ!? なァに休んでるんだよっっ! あんたが働かないと、あたし一人でやることになるじゃあないか! しっかりしとくれよ! ったく!」
 隣で噛み付くルイル。シルディは、額に手を当てながら、世界一の魔法使いに、つかつかと近寄って行った。
 リディアスがシルディを見る。
「時魔法では駄目なのか?」
「……だめでしょう、それは。あなたもわかっているように、時魔法で解決することじゃないでしょう? 汚染したものは、白魔法でしかきれいにはできないの」
 金糸の君は、持っている水晶玉に目を落とした。良く手入れされたそれは、何もしなくても優しい透明な光を放っている。
 白魔法以外の魔法ならば、主の意に答えて、縦横に働く素晴らしい水晶玉なのだが、……白魔法については、単なる透明な玉でしかなかった。
 わずかに嘆息して、金糸の君は水晶玉を持ち直し、何度目かの呪文をつぶやいた。

 聖の法によりて
 穢れを受けたもの、きよらの存在へ還らん
 ゆがんだものねじれたもの
 元の姿ありて今にいたらん
 聖の力借りて還るべく
 我、御力に助けを請う

 だが、金糸の君の呪文に答えたのは、そっけない静寂だった。通常なら、桁違いの威力を誇る魔法が、発現されるはずなのだが。
「……」
 手に持った水晶玉を見下ろすリディアス。彼は無表情だが、内心では恥ずかしいとか情けないとか悔しいとかいう感情が渦巻いているのかもしれない。世界一の魔法使いなのに、白魔法については、全く使えないらしい。子どもが使える程度の白魔法も使えないらしい。ルイルとリディアスを除いた全員が、その様子の滑稽さに、吹き出したい気持ちでいっぱいだった。が、彼の白魔法に対する無力さは周知の事実、暗黙の了解、触れてはいけない禁忌、なので、こらえた。
 ただ、ルイルだけは、正直に本心をありのままに言った。
「リディアスー! なんて役立たずなんだい! ええい忌ま忌ましいいー! あんたのお陰で、あんたが使えないお陰で! これっぽっちも先に進まないじゃないかい!」
 ルイルは、彼を笑うよりも怒りの方が先にくるらしい。金糸の君が使えない以上、後片付けの全てルイルがせねばならなくなるので、怒るのも当然ではあるが。
 でも、この大方はルイルが引き起こしたのよね。と、シルディは天井を見上げてそう思った。




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