女子高生の異世界召喚「君こそ救世主?」物語
Magic Kingdom

歌帖楓月



66 白魔法は嫌い?

「ちょっと、腰を下ろしてくれないかしら? 私の目の高さになって? こんな床の上で悪いんだけれど。そうしないと、私はあなたの目をまともに観察できないの」
「目?」
「そうよ。目よ。目を見れば、その人の考えていることがだいたいわかる。白魔法が使えるか使えないか、魔力も当然だけど、なにより、使うときのその人の気持ちが成否を分けるのよ。私はそう思ってる」
 近くでは、ルイルがぐったりと座り込んだままだ。
「シルディー。ねーえ、リディアスが白魔法を使えるようになるまで、私もここで休憩したままでいいかい? こういうことはやっぱり平等にしなきゃねえ? 私一人働くのは不平等だよ」
「だめ」
 シルディはくるりとルイルを見て、すっぱりと言った。
「こういう不自然な状態は、一刻も早く元に戻さなければならないでしょう? 平等っていうなら、半分はリディアスに残しておいてちょうだい。あとの半分は、あなたが、できるだけ早く浄化するの」
「ええー……」
 と言いながらも、ルイルはよれよれと体を起こした。それは、シルディの言い分が正しいから、というよりも、彼女に叱られるのが怖いからそうしたのだ。
「あーあーあー。やりますよう。やりゃあいいんでしょーう? ああ。疲れたー。辛いー」
「自分がしたことでしょ?」
「はい、そうですよー……。はあ……」
 よぼよぼと再び浄化の魔法に取り掛かるルイル。
 シルディの前には数年ぶりに彼女の生徒がいた。エフィルとカイ以来だ。
 シルディ自身はひざまずいて、金糸の君を正面から見る。大体、目の高さは同じ。ややシルディの方が高い。
「では、ちょっとやってみましょうか。リディアスは、御力の動きはわかってる。だから、使い方さえわかればいい」
 相手の可能性を見つけて引き出す、指導者の表情になったシルディは、じっと金糸の君の顔を見た。
「私の言った後に続けて、呪文を唱えてもらえる?」
 相手がうなずくのを待って、シルディは息を吸い、呼吸を整えた。そして、口を開く。
「聖の法によりて」
 凜としているが、柔らかい声音が響いた。
「聖の法によりて」
 落ち着いた低い声が後を追う。
 シルディは、金糸の君の目を見つめたまま次の言葉を紡ぐ。
「穢れを受けたもの、きよらの存在へ還らん」
「穢れを受けたもの、きよらの存在へ還らん」
 そこで、シルディは待ったをかけた。
「今、夢も希望もない目をしたわね……。リディアス……」
 渋い顔になるシルディ。
「余計な世話だ」
 無表情で返す金糸の君。
 ルイルが横から口を出す。
「ホッホッホ。夢だの希望だの、そいつにそんなものを期待しようって方が、間違ってるよ」
「黙って、ルイル」
 シルディが茶々を入れた相手を睨む。
「そうでないと、いつまでもリディアスは白魔法は使えないのよ? ルイル。ということは、どうなるのかしら?」
 ルイルは、自分が言ってしまった不用意な言葉を後悔した。
「するっていうと、私が一人でこれを片付けないといけないのかい? ちょっと! リディアス! なんとかするんだよ! 夢だの希望だの、そんなもん、ちょちょっと捻り出しゃいいじゃないか!」
 態度を翻したが、自己中心性だけは小指の先ほども変わらないルイル。そんな彼女は置いておいて、シルディは、困った顔でリディアスを見る。
「普段はそんなでもないのに、なんで呪文を唱える段になったらそうなるの? 白魔法を使うそばから否定してたんじゃ、使えるはずないわ」
 リディアスの内面に、一気にそこまで踏み込めるのも、彼女の眼力の鋭さの賜物だ。
「御力を見るのも、白魔法を使うのも、同じだと思うんだけど……違う? 白魔法は、嫌い?」
 シルディの問いかけに、金糸の君は、無表情につんと横を向いた。
「さあな」
「……目が曇ってる」
 シルディは頭を抱えた。金糸の君はそっぽを向いたままだ。汗だくになって白魔法を使っているルイルが、疲労を紛らわせるためにわめいた。
「もう! シルディ! そいつの好き嫌いに構ってないで、強制的にでも使えるようにできないのかい?」
「その好き嫌いで左右されるのよ白魔法は。ルイルも嫌いでしょう?」
「そうだね。好きじゃあないね!」
 なんのこだわりも無い即答だ。
 困った二人に囲まれて、シルディは渋い顔のまま口を開いた。
「これは後片付けに時間がかかるわねえ。二人とも、これにこりたら、もうこんなことはしないわね」
「ええっ? するってえと、もういいのかい? エフィルに頼んで片付けてもらえるのかい?」
「誰もそんなこと言ってないわ。片付けはあなたたち二人の義務でしょう?」
 ルイルはシルディの言葉を、「反省する気持ちがあるのなら、ここで一連の作業を中止する」という意味に受け取ったらしい。なのに、それを否定されたので、ルイルはがっくりとうなだれた。終わりのない苦行のように、よれよれと魔法を使い続ける。
「それで、リディアス。また聞くけど、白魔法の使い方を、私から聞く気はある?」
 問いかけに、金糸の君は、2度の瞬きの後、向き直った。
「教えて欲しいと私が希望したのだった。どうも白魔法と聞いただけで反射的にこうなってしまう」
「そう、反射的ね……」
 反射的に退けるほど、心から嫌いなようだ。
 何故そこまで嫌うのか? 善き力を。
 シルディには理解できない。
「根が深そうだけど。私にできることはしてみるわね。そうか、好き嫌いからね」




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