女子高生の異世界召喚「君こそ救世主?」物語
Magic Kingdom

歌帖楓月



68 金糸の君の白魔法

「本当? じゃ、一緒にやってみましょう。いい?」
 シルディは水晶玉を金糸の君に返す。そして一つうなずいた。
「私と一緒に術言を唱えて。私の心を見て、同じような気持ちで白魔法を使うの」
 無言で金糸の君がうなずく。二人は立ち上がった。向かい合わせに立つ。
 二つの声が、響いた。
  
聖の法によりて
 穢れを受けたもの、きよらの存在へ還らん
 ゆがんだものねじれたもの
 元の姿ありて今にいたらん
 聖の力借りて還るべく
 我、御力に助けを請う

 術言が終わった瞬間、
 辺り一面が白銀に染まった。というより、白銀の光に置き換わった。
「うわっ!」
 反射的に目に手をやるカイ。だが、眩しくはなかった。白魔法の光なのだから。
 エフィルは驚いた表情で立ち尽くした。
 あまりの白さに、言葉を失った。
 正鵠を射るような白さが、一瞬見えた。それと同時に、空気が全て変わった。無垢で清浄なものへと。

「どわぁっ!」
 ルイルは尻餅をついた。隣で爆風のような光がいきなり起こったのだから、びっくりした、などという程度の衝撃ではない。しかし、次に出た言葉は、ルイルのひととなりを良く表していた。
「なんだいッ! できるんなら最初からおやりよーっ!」
 ルイルは驚くこともせずに、そう言いかかった。何が何でも自分中心らしい。
 彼らのうちで一番驚いているのは、白魔法を教えたシルディだった。
 信じられないものを見る緑の目は、見開かれたまま瞬きすらしない。
「……」
 一方、相手は無表情で短く返した。当の本人が一番落ち着いていた。
「使えたな」
 これまでどうやっても使えず、たった今、生まれて初めて使えた魔法なのに、彼は憎らしいほど無感動だった。
 どうしてこうなのかしら、と、シルディは肩を落とした。驚いたり、喜んだり、嬉しく思ったり、そんな感情は無いのだろうか。
「私が今しがた教えたことを、リディアス、あなたときたら、完璧に使ったわ。信じられないことよ? ……どうしてそんなことができるのか、なんて、聞いていいかしら?」
 白魔法は自分が専門なのだ。金糸の君は門外漢だ。だから、なぜできたのか、と、彼に理由を聞くのはおかしな話である。それは承知だ。しかし、これを彼本人に聞かずして、一体誰に聞くというのか、答えるというのか。
 果たして金糸の君は答えた。
「私は、君に言われた通りにしたまでだ」
「そんなはずはないわ? そんな答えで納得できる魔法ではなかったわ? ずいぶん純度の高い白魔法だったのだから。『言われたらできる』ですって? そんなに容易いの? あなたにとって、魔法を使うことは、」
 それでできるのなら、彼はやはり天才という他はない。シルディは、再び、驚きの表情でリディアスを見る。
 そして、心中でため息をついた。これなら、私がいくら努力しても、かなわなかったのは当然なのだ。ハニールリキシアが選んだのは、間違いなくこの人なのだ。自分と彼との能力の違いは、今の関係になってもまだはっきりとは認識できない。大きすぎて、彼の力は測れない。だからこうしてたびたび驚かされる。
「ああ。久しぶりにびっくりしたわ?」
 シルディは大きく息を吐いた。そして笑った。
「使えるようになって、良かったわ。おめでとうリディアス」
 だがしかし、
「待て。買いかぶってもらっては困る」
 シルディの言葉に、リディアスは不機嫌そうにに首を振った。
「えっ?」
 彼の言葉の意味がわからず、シルディは聞き返した。
 金糸の君は、明らかに苦い顔をした
「私一人で使えるわけがないだろう。君がいなければ駄目だ」
「え? なあに? どういうことなの?」
 シルディは怪訝に思ってたずねた。彼女の隣では、床に腰を下ろしたまま、ルイルが、弾かれたように笑い出した。腹を抱えて。
「ホーホホホホー! そりゃ、つまり、お手本を見ないと全然駄目ってことだね! まるで一人で歩けない赤ちゃんじゃないか!? ひーっひっひっひっひ! は、腹が痛いよ、痛いって、あ痛たたた、ほーっほっほっほ!」
 ルイルは腹を抱えるどころか、よじって笑い転げはじめた。
「そうなの?」
 シルディは、本人に確認する以外にない。
 金糸の君は、不機嫌な顔でうなずいた。そして、恐らく生まれて初めて、彼は、これまでまともに相手にしていなかったルイルを、憮然として見下ろした。

 そこから離れて見ている少年と青年にも、ルイルの声は当然聞こえた。
 それまで、驚きと称賛の表情で、金糸の君を見ていたのだが。今はその表情をどのように引っ込めるべきか、あいまいな顔になっている。
「な、なんだ、そうか。あんなにすごいから、てっきり、一瞬にして白魔法を極めちまったのか、ってすごい驚いていたんだけど。そ、そっかあ。そうなんだ」
 カイの視線はすっかり泳いでいる。それから先の言葉を選びあぐねている。エフィルは、当たり障りのない表現はないものかと、言葉を探しながら応じる。
「まあ、一つくらいできない魔法があった方が……人間らしいし、な?」
「あ、う、うん。やっぱり人間だったんだなあ。金糸の君も……。ほ、ほっとしたよな?」




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