女子高生の異世界召喚「君こそ救世主?」物語
Magic Kingdom

すぎな之助(旧:歌帖楓月)



69 ケンカの解決

「あーっはっはっはっはっは! あはー笑った笑った。さあて、わたしゃ、帰ろうかねえ」
 ルイルの笑いが一段落した。
「疲れた。私は寝ることにする」
 それに伴って、ルイルとリディアスは、そそくさとシルディのそばから退散しようとする。
「終わりじゃないでしょう。二人とも」
 人体の急所に針を打って致命傷を負わせるように、シルディは少ない言葉で、二人の動きを封じた。顔では、にっこりと笑っている。
 それに対し、ルイルは頬をひくひくとひきつらせて笑った。
「え? 一体なんだいシルディ? あ、あたしゃもう、リディアスとケンカなんかしないよう? 反省もキチンとしたしねえ?」
 一方、リディアスはシルディから視線を逸らして口を開く。
「全部片付いただろう。私がすることは何も無い」
「んだってえええ? あたしの家を元に戻す約束はどうなったってのさ!」
 シルディが何も言わないうちに、ルイルの方が、リディアスの言葉に反応した。
 扉の前に立つリディアスに、すでに階段のある方向を向いていたルイルは、くるっと向を変えてツカツカと歩み寄った。
「私がすることは何も無いけどねえ! あんたがするこたあ、山のようにあるんだよ! さあっ! 私の家に掛けた蝋化の魔法を、解くんだよ! 全部蝋になってる私の家を、元に戻しておくれ!」
 ふん、とリディアスがそっぽを向いた。
「知らん」
 かっ、と、ルイルの額に青筋が浮いた。
「あんたがやったことじゃないかい! きちんと責任取りな! でないと、」
「でないと何? ルイル」
 シルディが笑った。
「うっ、……」
 時が止まったかのように、ルイルが固まった。
 シルディは、その微笑みのまま、金糸の君の方を向いた。
「リディアスも。もしかして、今までのあの惨状は、それが原因なの?」
「……」
 リディアスは何も言わず、視線をシルディから逸らした。
「どうしてそんな子どもっぽいことで一々一々ケンカするの! あなたたちは小さい時からいつもいつもそう! いいかげんに引くことを覚えたらしたらどうなの!」
 シルディが、怒った。
「だ、だって、シルディ、」
「だってじゃないでしょ!」
 ルイルはおろおろと言葉を返そうとしたが、一蹴されてしまった。金糸の君は、面白く無さそうな顔になってうつむいた。投げやりに言葉を返す。
「私は喧嘩などしていない」
 それを耳にしたシルディが、リディアスの方を向く。呆れた顔になっている。
「じゃあ、さっきのあれは何? ケンカしてないんだったら、どうしてああいうふうになるの?」
 むっとした表情になり、金糸の君が顔を上げてシルディと目を合わせる。シルディも毅然とした表情で見つめ返す。
「……」
 つん、と、金糸の君がそっぽを向いた。言い返す言葉が見つからなかったらしい。無視無表情はあたりまえの彼が、言葉を捜せず口ごもるというのは、滅多に見られるものではない。
 その様子を見ているカイとエフィルは、固まってしまって微動だにできなくなった。こんなものを見ることになろうとは、思いもしなかった。あの三人とも、普段からは予想できない言動をしている。子どもみたいだ。
 ようやく、エフィルが、ささやいた。
「なあ、カイ。私たちはあっちに行ってようか? こういう親しい友人間のやりとりを、部外者が見ていてはいけない」
 カイが、ぎこちなくうなずいた。
「う、うん……。俺たち、ずっと後輩だしな。よし、どっか行こう」
 そろそろと、二人はそこから離れて行った。
 シルディは押し黙った二人に対して、ため息をつく。
「二人とも、もう大人なんだから、こんなケンカはしないでちょうだいね? 返事は?」
「……はーい」
 ぼそぼそとルイルが応じた。反論するとシルディが怖いから、仕方なくといった体だ。
「しようとは思っていない」
 リディアスはシルディの方をちらとも見ずにそういう返事をする。
「それじゃ、仲直りね。リディアスはルイルの家に掛けた魔法を解く。ルイルはリディアスにからまない。これでどう?」
 異口同音に、反論が返った。
「どうして私が?」
 それに対する言葉も一つだった。
「それ以外にどういう解決法があるのかしら? 自分がそれをするのは嫌でも、相手はそれを望んでるんじゃないの?」
 反論は返って来なかった。
 納得したかどうかはともかく、二人が、怒ったシルディを怖がっていることは明らかだった。
「解いた。私は寝る」
 リディアスは即座に魔法を解除した。そしてすぐに自室に入ってしまった。
「なんだい! 簡単に解けるんじゃないかい! あのモノグサ男めっっ! ……おっとっと、いやだよおシルディ、そんな怖い顔をおしでないよ? あたしゃ、これからリディアスのすることには一応口出ししないからさ? それじゃ……、あたしゃ帰るよ。またね、シルディ」
 ルイルは一応そのように口約束をして、逃げるように城を出た。
「ああ。やっと静かになったわ」
 さすがにうんざりした顔で、シルディは最後にその場を去った。そこの扉の内側では、もう寝息が聞こえていることだろう。




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