女子高生の異世界召喚「君こそ救世主?」物語
Magic Kingdom

歌帖楓月



70 僕のせいだ

「明理沙」
 カイとエフィルは、明理沙が眠っている部屋に来た。
 灰桃色の絨毯が敷かれた、灰色の石造りの部屋。窓から見える曇り空が、部屋を静かな明るさにしていた。
 こんこんと眠り続ける明理沙の傍らに、カイはくずおれるようにしゃがみこんだ。
 明理沙の枕元に顔をうずめ、カイはくぐもった声を出す。
「ごめんよ、明理沙。僕が、僕が意気地無しなばっかりに……」
 エフィルは隣に立って首を振った。
「そんなに自分を責めるなよ、カイ。こうなった原因は、金糸の君の魔法の影響なんだから」
「違うんだ」
 しかしカイは否定した。うつむいたまま、くぐもった声で。
「違う、僕のせいだ。僕が、意気地無しで、無力な自分の未来を悲観してたからなんだ……。だから、間違ったことを明理沙に教えてしまったんだ。もしも、正しいことを教えられていたら、明理沙はこんなにならずに……。自分の弱さが、悔しいよ」
「待てよカイ」
 カイの言い分を、エフィルは遮った。
「そんな性急に結論を出すな。それに、もし、カイの言うとおりだとしたら、明理沙は最初からマジックキングダムに来なかったんだぞ?」
「え?」
 その言葉に、カイはエフィルを仰ぎ見た。泣いていたらしく、目と鼻が赤い。
「どういうことだよ? 明理沙がここにはいないって」
 エフィルは肩をすくめてみせた。
「だって、そうだろう? もしお前が、そんな悲観的な未来を描いていなかったのなら、明理沙をマジックキングダムに呼ぶ必要はないだろう? カイ、お前は、明理沙にこの世界を救って欲しくて、ここに呼んだんだろう?」
 エフィルは、カイに少しでも前向きな考えをさせたくて、そう言った。
 なのに、少年は、またうつむいた。
「そっか……。じゃあ、僕は、明理沙をこんな目にあわせるために、ここに呼んでしまったんだな。ああ、なんて奴なんだ僕は……」
 消沈してさらに落ち込んでしまった。
 エフィルは、カイがあまりにも悲観的なのであきれてしまう。
「おいおいちょっと待て、カイ。何もそんな風にとらえなくったっていいだろう? しっかりしろよ。私が言いたいのはそういうことじゃないんだ」
「……どういうことなんだ?」
 すっかりしぼんでいるカイを見て、エフィルは一つ咳払いをしてから、言葉を紡いだ。少年を力づけるように笑顔を浮かべて。
「こういうことが言いたいんだ。そりゃ、明理沙は今、ちょっと体を壊して眠ってるけど。なあ、カイ。お前が望んだから、明理沙はここに来たんだろう?」
「うん」
「そして明理沙は、お前の頼みを聞き入れてくれた」
「うん」
「それなら、明理沙に出会えたのも、お前だったからなんだよ。お前以外の人間が明理沙に会っていたら、承諾しなかったかもしれない」
「そうかなあ?」
「そうだとも。とにかく二人は出会った。それでさ、それを良い出会いにするかどうするかは、出会った瞬間じゃなくて、今この瞬間に決めていくことなんじゃないかな?」
「……」
 カイは、瞬いた。
「今、明理沙がまいっているのは、これはまあ、事故のようなものなんだから、お前が気に病んで落ち込んでもどうにもならないだろう? お前が落ち込んだからといって明理沙が治ったりなんかしないだろう?」
「……ああ、そうだな」
「それよりも、明理沙の目が覚めたときに、悲しませないようにするのが、お前ができることじゃないのか? その方が、明理沙も喜ぶんじゃないかな?」
 カイの目から涙がぽたりと落ちた。
「エフィル、いいこと言うなあ……ううっ」
 そしてぐすぐすと鼻をすすった。
「いや、別に。おい泣くなよカイ。明理沙は明日には元気になるんだからさ?」
 エフィルは微笑みながら、カイの肩をポンと叩いた。
「うん! エフィル、俺、強くなるよ!」
 カイは、涙まみれの顔で笑った。
 明理沙の周りには、金糸の君が撒いた小さな花々が散れていて、とても優しい香りを放っている。エフィルは、それに気づいて微笑んだ。
「ほら、見てごらん、カイ。金糸の君も、随分と明理沙を気に掛けているようだ。これはカミツレの花。弱ったものを労る薬草だ。今は時季外れで花は見当たらないはず。東にある高原に……かえり咲きの花が、あるかないかといったところだ。それをこんなに集めて、」
 本当だ、と、カイは目を見開きながらつぶやいた。
「カイ、君一人がそんなに重荷を背負わなくても、大丈夫だ。な?」
「うん」
 明理沙はすやすやと眠っている。
 二人は、部屋を出た。

「エフィル。僕……、明理沙に会わせようと思うんだ」
 エフィルが、金糸の君の城から出ようとするところで、カイはそう言った。意を決した様子で、唇を引き結んでいる。
 城の中は、外からの曇天の柔らかな薄明かりが、開いている扉を通ってふうわりと明るくなっていた。
 エフィルは、城の内から見送るカイの方を振り返った。
「そうか」
 カイは明理沙に、一体、誰を会わせるつもりか。カイが名前を言わなくても、エフィルにはわかっている。その人の境遇や、カイとの関係も、良く知っている。
 だから、そんな結論に達したカイに対して、微笑みを浮かべた。まるで、カイの方こそが、どこかに行く立場であるかのように。エフィルはカイの無事を祈るような笑顔を浮かべた。
「明理沙にもその方が良いと思うし、カイにとっても、それは良いことだと思うよ」
 カイは薄暗い城の内側にいて、外に立つエフィルを眩しそうに見つめながらつぶやいた。ほっとしたように。
「そう思うか?」
 エフィルはしっかりとうなずいた。
「思うとも。否という者は、うん、きっと、いないだろう……。それから、会わせるなら、シルディにも一言、言っておいた方がいい。彼女はそのことを心配していると思うよ」
 カイは、勇気をもってうなずいた。
「わかった」
 それを見てエフィルは安心して微笑み、姿を消した。
「じゃあな、カイ」




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