女子高生の異世界召喚「君こそ救世主?」物語
Magic Kingdom

歌帖楓月



71 変

 ちょっと恥ずかしかったかな。
 廊下を歩きながら、シルディは思い返していた。
 さきほどのことだ。リディアスに白魔法を使わせるため、自分の心の中を見せたこと。
「うん、」
 ちいさくつぶやいて、少しうつむく。
 肩を少しゆすってみた。
 恥ずかしかった。ほんとうは。彼に心の中を覗かれるのが。知られるのが。
 しかし、そう思ったらすぐに、「でも彼は他人に興味なんてないから。別にいいわ」と考え直したりもする。
 実に不安定に心が揺れる。
 今度は天井を見上げた。
 こんな自分を誰も見ていないことに感謝しつつ。
 小声で白状してみた。
「はずかしい、かも」
 しばらくは、リディアスと顔を合わせたくない。
 ううん、でも、彼は他人を気にしない人だから。私の心を知ったところで、態度が変わることもないだろう。そうに違いない。だから、私も気にしないでいていいかな。
 また考えが揺れた。
 振り子のように揺れる心にとまどい、シルディはためいきをついた。
 自分は、単に、彼のシルバースターなだけであって、別に心身を捕らえられているという訳ではないのに。
 でも、彼に対してやけにこだわる自分が、いる。理由はわからないけれど。いつもではなく、時に、やるせないほどに。
 私は、自分自身がこんなに執着心が強いなんて、今まで思いもしなかった。
 まさか、シルバースターになったら、心がこんな性質に変わってしまうのだろうか? 主に拘泥(こうでい)するように?
 そうなのだろうか?
 ……わたしには、わからない。
 誰かに相談したいけれど。シルバースターは世界に私一人だから、こんなこと誰にもわからない。
 シルディは、首からさげたシルバースターを指でそっと取り出して、「これのせいなら、どんなに気が楽か」と思った。
「まあ、考えたってしょうがないわね」
 こう言って考えに区切りをつけてみる。
 いつもなら、それで気持ちを切り替えられる。
 でも。
 例外はあるもので。
 シルディは、また、ためいきをつく。
 どこまで知られたかしら。これからどんな顔して会えばいい?

「シルディー!」
 いきなり背後から、少年のとても元気な声が、勢い良くシルディに届いた。
「!」
 シルディの体はあまりの驚きにびくりと揺れた。
 そして、おそるおそる振り返ると、ほっとした顔になった。
「……カイ。なあに? どうしたの?」
 少年がタタタタと走ってきた。
 頬が上気して、口をぐっと結んでいる。決意した顔だった。けれど言葉はない。
「どうしたの?」
 怪訝に思って再びシルディが問いかける。
 カイは一つうなずいた。大きく。
「僕、明理沙を会わせようと思うんだ! ティカに!」
 しっかりした声だが、前置きのない言葉だった。
 けれど、シルディにはそれだけでも通じた。それほどに、ティカとカイのことを案じていた。
 カイは、相手の笑顔を見ることができた。シルディは、まるで、待ち焦がれた夜明けを迎えたような顔で、彼に笑いかけた。
「そう、そうなの。ティカに、……そう」
 うなずいて、「ふふっ」と思わず漏らした笑い声には、少し涙がにじんでいた。
「うん! 僕、明理沙が目覚めたら連れて行くよ! ティカのこと、明理沙に知ってもらいたいんだ」
 ごめんね今まで心配ばっかり掛けて、と、カイはシルディに申し訳無さそうに言った。
「ううん」
 シルディは首を振った。安堵の気持ちをこめて、ゆっくりと。
「よかった。カイはそんなふうに考えられるようになったのね。嬉しいわ、私」
 強くなったねカイ、と言われて、少年はくすぐったそうに笑った。
「へへっ」

 さて。
 自分の話が一段落したので、カイの心に、相手の様子を伺う余裕がようやくできた。
「あれー? シルディ、どうしたのさ? 熱でもあるの? 顔が赤いよ?」
「え?」
 シルバースターはどきりとした。
「……あらそう?」
 一応、落ち着いた様子を作って、シルディは右の頬に手をやった。
 熱い。
 なんてことだろう、と、思った。自分でも気付かなかった。
 強いて心を静かに保って、ゆったりと笑って返す。
「本当ね。どうしたのかしら?」
 額に手をやってみる。熱は無いとわかっていながらも。
 無いわね、と、おっとりつぶやいて、カイに首を傾げてみせた。
「さっき怒ったのが、まだ残ってるのね」
 苦笑を作る。
「ああ! あれはひどかったよね!? シルディ?」
 カイが彼女の言葉をまるきり信じて、心の底から同意した。
「シルディが怒るのも、無理ないよ! 魔法使い二人が、白魔法を使えないんだからさ?」
「そうねえ。本当に困ったことだわ」
 二人をだしに使ったことを内心で謝りつつ、シルディはうなずいた。でも、嘘はついていない。怒りを覚えたのは、本当だから。
「向き不向きはあるにしても、あれは極端すぎるわ。使えないのは仕方ないにしても、ああも無神経に空気を汚すなんて」
「そうだよねー!? アハハハ!」
 カイはかつての先生と同意見になったのが嬉しいらしく、無邪気にからから笑っている。笑いながら、何かに気付いて、「あっ!」と頓狂な声を上げた。
「そういえばさ、ユエも白魔法が使えないよね? シナーラもそんなに得意じゃないしさ。……あれっ? 王の候補者って、白魔法が苦手な魔法使いばっかりだ」
「そういえば」
 シルディも、言われて気付いた。
「そうね。王の候補者で白魔法使いは、エフィル君だけね」
 白魔法が使えるのは、エフィルだけ。
 白魔法は善き力。巧拙はあるにせよ、マジック・キングダムの魔法使いは、ほぼ全員が使える魔法。
「……そうね」
 シルディは、笑みを、消した。
「変ね」




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