女子高生の異世界召喚「君こそ救世主?」物語
Magic Kingdom

すぎな之助(旧:歌帖楓月)



75 授業放棄

 学校が終わって、こどもは家に帰る。
 母が待っていた。
「お帰りなさいリディアス。あの……、学校は、どうだった?」
 ほほえんで出迎えて、学校での様子を心配そうに聞く。これが母の日課になっていた。
「別に。何もないよ」
 子の答えも絶対に同じだった。笑いもせず、はしゃぎもせずに、淡々と報告する。
「そう。魔法の授業はどう?」
「おもしろくない」
「そう。ふふふ」
 その切って捨てるような返事に安心して、母はほほ笑む。
「そうよね。そうよ。魔法なんて、無理に使う必要はないわよ。母さんたちは仕事だからしかたなく使ってるけど。そんなものなくったって生きて行けるのよ。あなたは魔法なんか使わないでいいの。さ、おやつを食べなさい」
 やがて、リディアスは魔法の授業自体に出なくなる。

 明理沙は眉をひそめた。
「そんな……。親が子どもにそんなふうに言うのは、どうかと思いますけど」
 金糸の君は、否定も肯定もしなかった。
「母と父は、恐ろしかったのだろう。私が魔法を使うのが。……いざという時、母にも父にも、私の魔力を抑さえこなす力はないのだから」
「でも、子どもの可能性を親がつぶすなんて……」
「実害を伴う可能性なのだ。つぶされるのも当然だと思うがな」
 彼自身がそう思ったにしても。明理沙はそれでも腹立たしく思った。
「でも、マジックキングダムでは魔法使いであることに価値があるのでしょう?」
「まあ、そうだが」
 あしらうように、金糸の君はつぶやく。
「だがな、私の両親が恐れていたことは、決して非難されるだけのものではない。子を養育すべき親の態度としてはどうかとは思うが、この世界に生きる人のありかたとしてはうなずける。親の手に負えない魔力を持った子を授かったとして、その子の好きなようにさせる親が一体どれくらいいるだろうか。子どもに、無茶をしないように言って聞かせたところで、完全に大人しくしている訳が無い。また、不慮の事故も考えられる。どちらにしても、被害は甚大なものになる」
「それは、そうです、けど……。でも、」
 不満の残る明理沙を見て、金糸の君の方が苦笑した。
「君が怒ってどうする。これは私の話だ。私だって、子供のころから納得していた訳ではない。私は、内心では反発を覚えていたのだ。時が経った今だからこそ、こう思っているだけだ」
 もしも子供の時に親のやり方に従っていたら、今の金糸の君はいないだろう。今頃ここには、全く魔法が使えない彼がいたことだろう。
「金糸の君。それなら、魔法を……使っていたんですか?」
 明理沙の問いに、金糸の君はうなずいた。
「使っていた。ただし、学校でも家でもない場所でだけ。私は、学校に入ってから2年間は、魔法の授業には出なかったな」
 明理沙は、金糸の君の言葉を聞いてぎょっとし、数回の瞬きをした。
 7才の時から授業放棄って……。
 少女は、思いを巡らせる。この人は、魔法を学ばせたい学校の先生と、反対する両親との間で板挟みになってしまい、どうしようもなくなって、授業を受けられなかったのだろうか? 親の言うことを聞けば、魔法の授業でつらい思いをする。逆に先生の言うことを聞けば、親が恐れる。だから、授業自体を受けないということで、折り合いをつけていたのか? 
 明理沙の考えを読んだ金糸の君は、軽く息を吐いた。
「私はそんな殊勝な子ではなかった」
「じゃ、どんな理由で?」
 明理沙にはそれ以外の理由が思い浮かばなかった。
 どういうことだろうか。明理沙の疑問は晴れない。
「授業に出ないときは、一体、どこでどうしていたんですか?」
「沈思の森に行っていた」
 さらりと返って来た言葉に、明理沙はさらに瞬きをした。
「沈思の森に? でも、そこは湖に囲まれた島の中ですよね? どうやってそこまで行ったんですか?」
 金糸の君は、さあ自分でもわからない、とつぶやいて、首を振った。
「いつも、いつの間にかそこに着いていた。当時は、森の名も性質も知らなかった。ただ、授業から逃げ出し、校舎から外に出てしばらく歩いていると、その森にたどりついていた」
 無意識に転移の魔法を使っていたのかもしれないな、と、金糸の君は言った。そして、ふと笑った。どこか苦笑めいていた。
「そこで、リキシアに会ったのだった」
「ハニール・リキシアに?」




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