女子高生の異世界召喚「君こそ救世主?」物語
Magic Kingdom

歌帖楓月



78 卒業

 十歳になるころ、学校を出た子どもたちは、それぞれの将来に向かって歩きだす。
 あるものは大人の魔法使いに弟子入りする。
 あるものは王宮に入って魔法の力を磨いたり、新たな魔法を作り出したりする。
 あるものは家業を継ぐ。
 あるものは、一人で、魔法の力を研鑽(けんさん)する。
 リディアスは、学校の卒業式には一応出席して、そして両親と別れた。
 別れたのだ。学校の門の前で。
「さよなら、母さん。父さんにも、僕がさよならって言ってたって、伝えてね」
 子どもは、親の買い与えたきれいな礼服を着て、静かに告げた。
「リディアス、どうしたの?」
 まだ十歳の小さな子どもが言った不思議な言葉に、母親は首をかしげた。さよならの意味がわからなかった。
 母は、そして父も思っていた。この子は、内にどれほどの魔力を秘めているかはわからないが、うまく圧し殺して使えなくなっている、と。
 あの恐ろしい強大な魔力は、もう無くなって跡形もない、と。
 学校生活では魔法に全く興味を示さなかったという。先生が嘆いていた。家に帰っても、魔法の教本を開いていたことは一度たりともない。
 だからこの子は、誰よりも魔法が使えないのだ。……あのひどく幼いときに私たちが読み聞かせた、幼児向けの魔法使いの物語の本、その微かな記憶以外に、この子は魔法について、何も知らないに違いない。
 その子どもが、さよならと言った。
 母は、訳がわからず首を傾げた。
「リディアス? さよならって、どういうことなの? どこかお友達の家に遊びに行くの? 母さんに、先に家に帰ってと言いたいの?」
 リディアスは、首を振った。少し笑った。
「違うよ。母さん、一緒にいるのは今で終わり。僕はあなたたちの家を出て、もう帰って来ないから。さよなら」
 3年間放棄し続けた魔法の授業と同じようにして、こどもは、そこから消えた。
「……リディアス?」
 母の声は地面に落ち、風がどこかに吹き飛ばした。

 リディアスは、沈思の森の北、湖を臨む断崖に、家を建てた。
「これはお家ではなくて、お城ね」
 あっと言う間にできあがった、石作りの巨大な建造物を見あげて、ハニール・リキシアは、眉を上げて息をつくようにほほ笑んで、つぶやいた。
 すばらしいわ、とは言わない。何も評価はしない。それが彼の望みだから。
 リディアスは笑って、光輝の妖精を見た。
「大きい方がいいかと思って」
「そう」
「僕、これから、色々なものを見てみたいんだ。魔法、本、歴史、世界を」
 なんて伸び伸びとした声を出すのだろう。ハニール・リキシアは、この子のこんな声を初めて聞いた。楽しげな友人の願いをかなえたい。妖精はそう思った。
 そして、光の貴婦人はにっこり笑って言った。 「それなら、良い場所があるわ。リディアス。あなたが知りたいことが、全部詰まってる場所があるの」
 リディアスは、顔を輝かせた。
「それはどこ?」
 友人は、満面の笑顔で答えた。
「それは王宮よ」
「王宮……」
 少年は、思っても見なかった答えにややとまどう。
 光輝の妖精は、ふわりと笑った。
「そうよ。そこに行けば、世界の全てを知ることができる」
「全てを? ほんと?」
「ええ。ただ、そこでは、皆があなたを評価するでしょう。それを気にしなければ、あなたにとって王宮はとても魅力的な場所になるはずよ?」
 リディアスは考えた。
 知りたい。すべてを。
 王宮で沢山の人に評価されるのは不快だ。しかし、色々なことを知れるという魅力の方がはるかに勝っていた。
「ぼくが気にしなければ、いいんだよね?」
「そうね。あなたが気にしなければ」
「気にしないことにする。もう、ぼくは人のことはどうだっていい。ぼくは王宮に行きたい」
「では、私が案内しましょう。あなたが王宮で暮らせるようにしてみます」
「お願いするよ」
 光輝の妖精は、少年と同じ目の高さに浮かび、誇らしく微笑んでうなずいた。
「ええ! 友達ですもの。私たち」
 そして、金の瞳をしっかりと見つめて、相手の意向を確認する。
「ね?」
 リディアスは、大きくうなずいた。
「うん」




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