女子高生の異世界召喚「君こそ救世主?」物語
Magic Kingdom

すぎな之助(旧:歌帖楓月)



84 話していいかしら?

 城へ着くと、二人は金糸の君に会いに行った。カイが今までのことを彼に謝るつもりだった。
 しかし、何度も扉を叩いたが反応が無い。
 金糸の君は、眠っているようだ。
「寝てるみたいね?」
 明理沙は呆れて笑い、少年を見た。
 カイは、拍子抜けも苦笑もしなかった。
「カイ?」
 少年の顔は、曇っていた。それは金糸の君がただ惰眠をむさぼっているわけではなく、何か正当な理由があることを言外に表していた。
「彼は、ああして魔法の力を蓄えているんだ」
 明理沙は意外に思った。
「え、それ、ほんとに?」
「うん、ほんと」
 明理沙は、カイの顔つきがとてもしっかりしていることに気付いた。これまで見知っていた「うわついて情けないカイ」は、いなかった。
「いつか、よくないことが起こるから。……いや、ずっと起こり続けてるんだ。それに対処するために、こうして、」
「どういうこと? 何が起こっているの?」
 カイは、「今ここでは話せないんだ」と首を振った。
「場所を変えて、後で話すよ。その前に、シルディに会いたい。金糸の君と同じように、彼女にも謝らなければならないから」

 シルディは自室にいた。金糸の君の部屋の階下にある。
 扉を開けたシルバースターは、カイの安定した表情を見ると驚いた。そして、口元を抑えた。
「カイ……」
 涙をこらえているようだった。少年のこんな顔を見るのは、久しぶりだったから。
 カイは言った。
「ただいま。明理沙に話したよ。ティカのことも、……父のことも……。今までごめんね。シルディ」
「カイ!」
 シルディはカイを抱きしめた。
「よかった、……よかった! カイ! 元にもどったのね!?」
 元か、たしかにね、と苦笑して、カイはうなずいた。
「うん。心配掛けたね。シルディ」
「よかった、」
 シルディは、よかった、と、何度も繰り返した。
 明理沙はそんな二人を見つめた。ティカに会いに行く前までは、明理沙は二人の関係を、「駄目な弟と、世話好きの姉さん」のように、ほのぼのしたものだと思っていた。しかしあれは、そうのどかなものではなかったのだ。悲しみで麻痺した少年を為すすべなく見守るしかないという、やるせない関係だったのだ。

「カイ、私も明理沙に話していいかしら?」
 シルディは二人を部屋に招きいれて、確認した。
「私が王宮に入ってから、先王が亡くなって、あなたが新王を探し始めるまでを」
「……うん。話して」
 カイは申し出を承諾し、次に明理沙に言った。
「僕が話せるところは付け加えていくよ。明理沙、ほんとうに、今までだまっていてごめんね」
 明理沙は首を振った。
「違うよ、カイ。だまってたんじゃないでしょう。話せないくらいに、お父さんのことで心がいっぱいだったんでしょう?」
 そのとき、輝く声が響いた。
「私もお役に立てるかしら?」
 菜の花色の光輝。
「リキシア、」
 シルディは、部屋に現出した光の精に微笑みかけた。
「主が眠り続けているのよ。私は私にできることをしましょう。仲間に入れていただける?」
 優雅に微笑む小さな婦人に、三人はうなずいた。
「よろこんで」




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