シルディは、物心ついたころから王宮で魔法を習っていた。それほど魔力が強かった。両親は宮仕えの大魔法使いで、子供の教育に熱心だった。しかしそれはあくまで子供の意思を尊重し、その学習意欲を伸ばすという、強制や賞罰とは無縁の質の高いものだった。高い資質を持っていたシルディは、自分を伸ばすに相応しい環境の中で健やかに育っていった。
学校を優秀な成績で卒業したシルディは、王宮に入った。誰が見てもそれは当然で自然なことだった。
まだ星に願わないので、ゴールドスターこそ胸に輝いてはいないが、若い彼女の実力は王宮でも上位にあった。彼女の魔法は気象すら動かした。また人望が厚く、彼女を嫌ったり軽んじたりする者はいなかった。彼女の実力と人格とに相応しい、思いやりと礼儀と敬意のある人間関係が築かれた。
彼女の過去も現在もそして未来も、明るいものだった。
王宮に入って二月ばかり後、騒ぎが起こった。
シルディはそのことを、中年の同僚から聞いた。「ハニール・リキシアが、主を見つけて、今、王様に会っている」と。
光の妖精ハニール・リキシアは、世界一の魔法使いを主に持つ。その主は長いこと不在だった。主になりたいと希望する者は多々いたが、光は誰をも主に選ばなかったのだ。
そのリキシアが、ようやく主を見つけ出したという。
「それは誰なの? やっぱりユーヴァンス様?」
シルディが有力者の名前を挙げて問うと「違うよ」と否定され、そして、思ってもみない答えが返ってきた。
「なんと、君と同い年の少年なんだよ! リディアスという名前の、白い髪に金髪の混じった男の子!」
「……リディアスが?」
シルディは、目を丸くした。
あのリディアスが?
魔法の授業を抜け出してばかりいた、彼が?
まさか、と、にわかに信じられなかった。……しかし、シルディは知っていた。彼が見せた「時魔法」を。彼は、呪文も無しに枯葉を若芽に戻した。
でも、それでも、いくらなんでも、
「そんなまさか、」
そのときだった。王宮全体が青に包まれた。
「!?」
皆、息を飲んだ。
目の前を横切る、大きなエイ。天井を見上げると、銀の鱗がまぶしい小さな魚の大きな群れ。
「海……?」
シルディは、声を漏らした。
海だ。
でも、海じゃない、
実際の海ではない。
なんだろうこれは?
青く輝く空気の中を、サメが泳いでいく。
「一体、誰がこんな、」
驚くシルディの前を、青く輝く鱗に包まれた巨大な長い体が、ふうわりと横切った。
それは海竜だった。
それらは、リディアスが王様に見せた魔法だった。
誰も見たことがない、世界一の魔法だった。
|