女子高生の異世界召喚「君こそ救世主?」物語
Magic Kingdom

歌帖楓月



86 銀の星の物語2

 王宮に来るようになったリディアスは、書庫に入り浸りだった。
 話に聞いたところでは、王様から禁書の書庫に入る許可も得たらしい。
「さすが世界一の魔法使い」
 彼の噂は、この賞賛の言葉と、途方の無さに観念して肩を竦めるのとでいつも締めくくられた。
 実際、彼は抜きん出た実力を持っていた。
 全ての魔法を呪文なく行使してのける。呪文を言の葉にすることもあるが、それは必要だからではなく、気が向いたから形だけ付けるに過ぎなかった。
 彼を見ている皆は驚きの連続だった。シルディはそれに加えて、学校時代のやる気の無い彼の姿が重なり、「こんなに実力があるのに、彼は両親の言いつけで魔法を使わせてもらえなかったのだ。どんな苦しい気持ちで生きてきたのだろう」と、気の毒になった。だが、彼の、徹底して他人に無関心な態度に「私が想像するほど苦痛ではなかったのだろう」と思い直した。彼は、他人の評価を邪魔だとすら思っているのだ。きっと、どうだっていいに違いない。

「シルディ、北の荒野に雨を降らせに行こう」
「ええ。あら? あれは……」
 ある日、同僚と一緒に仕事に向かう途中で、シルディは喧嘩を目撃した。
 リディアスとルイルだった。
 二人とも、シルディの同級生だ。
 書庫の出口のところで激しく口論していた。いや、声を出しているのはルイルだけで、リディアスは無表情の無言を決め込んでいる。
「何とか言ったらどうなんだい!?」
「……」
「それはッ! あたしがッ、あたしが借りようとしていた薬草の本なんだよ!? ようやく見つけた『ムラサキヤマブシダケ』の本なんだよっ! さあ、返しておくれ! 私が借りんだからーッ!」
「……」
 リディアスは、ぷい、とそっぽを向いて、ルイルから歩き去ろうとする。本を借りる用が済んだので帰るつもりらしい。はなから彼女のことは眼中に無い様子だった。
「ちょ!? ちょいとお待ちよ!」
 ルイルが叫んで追いかけていく。
 二人は、こちらの方向に来つつある。
「はは。またルイルが彼に噛み付いてるよ」
 シルディの隣に立つ同僚が、苦笑した。
 彼女は肩をすくめて応じた。
「学校時代から、ルイルはリディアスによくちょっかい出してたのよ。あんな感じで」
「おや。それじゃ、彼女は彼のことが好きなのかな? 気を引きたいのじゃないか?」
「そういう見方もあるのね。気づかなかった」
 シルディは、リディアスが相変わらず沢山の本を抱えているなと思いつつ、首を振る。
「ルイルは注目を浴びるのが好きなのよ。無視されるのが一番嫌なのよね」
「シルディー! シルディそいつを捕まえとくれ!」
 ルイルの高い声が、刃物のごとくに鋭く飛んできた。
「あたしの薬草の本、取り返しとくれーッ! このどろぼー!」
「ちょっと、あなたのじゃないでしょう?」
 がなるルイルに呆れるシルディ、その横をリディアスが知らん顔で通り過ぎていく。
「ちょーっと! あたしの本ーッ!」
「ああ思い出したぞ。私は、この後、ルイルと仕事をするんだった」
 同僚が苦い声でつぶやいた。
「ちょっと待ってくれよ、たのむよ、リディアス!」
 彼が呼び止めた。
 リディアスは立ち止まり、振り向いた。
 金の瞳が、同僚の青年をすっと見つめた。
 シルディも、彼は何を言うつもりなのだろうかと、同僚を見つめた。
 彼は熱っぽく言った。
「お願いだよ。ルイルに、その本譲ってくれないかな? 彼女は機嫌が悪いと仕事が無茶苦茶になっちゃうんだ。とんでもないよ」
「嫌だ」
 リディアスは一言だけ口にすると歩き出した。
「……」
 同僚はぽかんとして見送るばかりだった。
「お待ちよ、リディアース!」
 ルイルが追いついた。
「その本ーッ! 私が先に目ぇつけて台に置いといたんだよ! それを横取りしたのはあんたじゃないかっ! 何が『嫌だ』だってぇ!?」
「知らん。置きっぱなしにするのが悪い」
「もう、弱ったな。不機嫌なルイルと仕事するのか……最悪だよ」
 三人三様の言葉に、シルディがため息をついた。
「ねえ、リディアス」
 仕方ない、と、声を掛けた。
 リディアスが、シルディの方を向いた。
「ルイルの話は本当なの? それなら、あなたはルイルに本を渡した方がいいと思うわよ?」
「お! 味方がいたよ! そうだよ、そうだろう!? ほぅらリディアス、ご覧よ! やっぱり私が正しいんじゃないか!」
「もう、黙って」
 調子に乗るルイルを、シルディは手をかざして制した。
「ええ、……はぁい、」
 ルイルは肩を落とした。
 シルディは続ける。
「そこまで騒ぎ立てるルイルも良くないと思うわよ? でもそれは置いておいて。ねえ、リディアス、」
 リディアスに声を掛ける。
「あなたがその本を予約していないなら、誰かが取り置いていたものだとわかった時点で、譲るべきなのよ? それが、書庫を利用する時の約束ごとなの。だから、リディアスはルイルに譲るべきよ」
「……」
 リディアスは、意味ある沈黙をした。
「わかった」
 小さく応じて、持っていた本の中から一冊を取り出して、ルイルにやった。彼はシルディの言うことに一理あると思ったらしい。
「ぃやったぁあ!」
 ルイルは狂喜した。
「やった! あたしんだよ! あたしの本ー!」
 リディアスはとことん無視して歩いていく。
「ほっとしたよ。これでルイルの機嫌全快だ。ああ、ありがとう、シルディ」
 同僚が感謝した。
「ううん違うわ。リディアスがわかってくれたからよ」
 シルディは首を振った。




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