女子高生の異世界召喚「君こそ救世主?」物語
Magic Kingdom

歌帖楓月



9 盗まれた水晶玉

 能弁になったカイは、明理沙に色々と話をしていた。
 ユエの家を出て、二人は街の方へと歩く。そよそよと心地良い風が吹いた。空では、小鳥がさえずりながら飛んで行く。
「エフィルは、死んだ王の親衛隊長だったんだ」
「親衛隊長?」
 うん、とカイがうなずいた。
「そう。大抵、聖騎士といわれる。……ええと、白魔法っていう、そうだな、良い性質の魔法を使えて、そんでもって腕力があって。それから、魔法剣っていう……魔法をかけられた剣を扱える。まあ、いわゆる正義の味方だよね」
「へえ、すごいんだね」
「うん。すごいんだよ、エフィルは」

「ひっひっひ! あんたたち仲が良いこと。まるで兄妹ね?」
 突如、二人の目の前に、少女が現れた。
「シナーラ!?」
 ぎょっとするエフィル。
 シナーラと呼ばれた少女は、右手を腰にあて、ククク、と、片頬で笑った。
「おひさしぶりね? 真面目なエフィル君? そしてありがとう。ひっひっひっひ!」
 彼女は肩を揺らして笑った。肩まで伸びた真っすぐなオレンジ色の髪をきっちり二つに分けて左右で縛っている。頭の回転が速そうで、狡猾そうな吊り上がった瞳は青紫。
「ユエもありがとう。お陰で、……助かったわ」
 猫のような切れのある視線で、二人を見て、シナーラは軽くうなずいた。そして、青い長衣の懐から、ある「物」を取り出して、そのうちの一つを、ボールのように宙に放った。
「あ、それは! シナーラ! お前っ!」
 それを見たエフィルが顔色を失った。
「ひっひっひ!」
 笑いながら、シナーラの姿がその場からかき消えた。

 そして、カイが気づいた。
「あれ! 水晶玉がない!」
 街道を歩き、街中についたところで、カイは、先程よりも身が軽くなったことが、エフィルの白魔法による気分の変化だけによるものではないことに気づき、……3つの水晶玉が全て無くなっていることに気づいたのだ。
「あれえ? ユエの家に置いてきたのかなっ?」
 少年はあたふたし始めた。
「無いの? じゃ、引き返してみよう? 落としたのかもしれないよ」
 どうしてそんな大切なものを見失えるんだと思いつつ、明理沙は言った。
「行こう。早く引き返そう?」
「う、うん!」
 だが、その二人の前に、突然人影が現れて立ち塞がった。
「わっ!」
 驚いた二人は、びくっと肩を震わせた。

「落としたかもしれないですって? ひっひっひ! 違うわよ。カイ」
 シナーラは、満足げに、意地悪な笑いを浮かべた。
「水晶玉は、私が盗んだの! 私の予想通りに動いてくれて、私に盗むスキを与えてくれた、エフィルにべた惚れのユエのお陰よ! ヒッヒッヒ! もうけたわ」
 ボールのように、水晶玉を宙に放っては受け止めるという動作を繰り返しながら、ひどくおかしげに彼女は言う。
「あ! お前、シナーラ!」
 カイが叫んだ。
 明理沙は、瞬きを二つほどしてから、ようやく言葉を紡いだ。
「知り合いなの?」
 カイは、苦い顔になった。
「こいつはシナーラ。タチの悪い魔法使いでさあ、盗みとか詐欺とか、まあ狡くて悪いことばっかやってるんだ。おい! さっさと水晶玉返せよ! お前が持ってたって使いようがないだろう?」
 だが、フン、と、その言葉を鼻で笑ったシナーラは、3つのうちの一つだけをカイに投げ返した。
「残り二つも返せ!」
「いやよー?」
 おどけたようにシナーラは笑って、二つの水晶玉を次々に宙に放り投げては手に取った。
「3つもあるのよ? それなら一つを使って、残りは金儲けをしたって、全然支障は無いじゃない? 要は一つあればいいんだから」
「馬鹿シナーラ! そういう問題じゃないぞ!」
 しかし、シナーラはその言葉に弾かれたように、腹を抱えて大笑いした。
「あははははっ! 馬鹿はあんたよ! なんで、こんな重い物3つも抱えてウロウロ歩いてんのよ? 金になるんだからさっさと一つだけ残して売り払っちゃえばいいのよ? 水晶玉は高く売れる。特に王の候補者選びに使うなんて貴重な水晶玉は、物凄い値がつくわ。そしたら……あんた、あんな納屋暮らししないですむのよ? 懐かしくないの? 昔の豊かな暮らしが。嫌じゃないの? 今の惨めな暮らしが! ヒッヒッヒ」
 シナーラは、カイの内心を見透かしたようにニヤリと笑ったが、しかしカイの方は、眉をひそめて怪訝な顔をした。
「はあ? 何言ってんだ? お前。納屋暮らしは俺の趣味だぞ。城の中よりずっと落ち着いた暮らしができるんだぞ? ……シナーラ、お前、まさか、嫌なのか? 納屋で暮らすのが。気楽でいいぞぉ?」
 シナーラは、カイのその答えに対して、顔色を失った。
「納屋暮らしが好き、ですって? いやだ、信じられない奴。あー、わかったわ。王宮で生まれ育ったから、普通の感覚が身についてないのね? ったく、信じられないわ! 貧乏が良いなんて。……ま、いいわ。水晶玉はもらってくからね! あんたに儲ける気がないっていうんなら、それこそ、このシナーラが、有効に使ってあげる! じゃね!」
 シナーラの姿が二人の前からかき消えた。
「待て! 馬鹿シナーラ!」
 カイが叫ぶ。
 次の瞬間、カイの頭上に、こぶし大の石が降ってきた。
「ギャッ!」
 頭を抱えるカイに、こんどはシナーラの声だけが降ってくる。
「馬鹿に馬鹿呼ばわりされる覚えなんかないわ! ま、返してほしかったら、私の家まで来てご覧なさいな! あんたにそんな勇気、あるわけないでしょうけどね! ヒッヒッヒッヒッヒ!」
「シナーラ!」




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