マジックキングダムを包む御力。その外にある、虚無の闇。
そこであった出来事。
銀の星も、光輝の妖精も、このことは知らない。
知っているのは、闇の少女と、世界一の魔法使いだけ。
……銀の星が降った夜に、虚無の闇で遭ったこと。
「もーッ。もぉーッ! キラキラ光ってて、うっとうしーいッ!」
そこにいるユエは、不機嫌だった。
「こぉんなの。ユエは絶対イラナイ。だいっ嫌ーい!」
はーあ、と、大きなため息をついた。
右手に白銀の光。
シルディが今しがたまでその身に宿していたもの。
「でもぉ、」
ククク、と、桃色の唇から、どす黒い嗤いが漏れた。
「これ、ゴミバコに捨てちゃったら、みぃーんな困るだろぉなぁ。ぜっーたいに、困るだろうなぁ」
シルディの身から抜かれて、世界一の魔法使いに渡るもの。そのはずだった、もの。
ユエはそれを奪っていた。世界からそれを奪っていた。
深更。白い夜の下で、白い魔法を使う娘が、星に誓った。
星は誓いを受け入れた。
娘にふさわしい星を。
それは銀の星。
娘の力を抜き取って、世界一の魔法使いに与える。
世界一の魔法使いを、彼女が治める。
その白い心で、世界一の魔法を使える、ように。
「あーやだなぁ。やだやだ。ユエは、御力も白魔法も、だいっ嫌ーい!」
ユエは手の中の光を、握りつぶした。光は消えはしないが、心は少し晴れた。
こんなもの無くなれ。
消えてしまえ。
マジックキングダムを流れる力も、良き力も。
「ぜんぶこわしちゃえ。ぐっちゃぐちゃに壊れちゃえ!」
シルディから抜き取られた白い力。
ユエはそれを横取りした。ほんとうなら、リディアスが受け取るはずのその力を。
待っていたのだ。彼女が星に誓うその時を。
星が彼女から抜き取った力。ユエは、奪って、手に入れた。
ユエは嗤う。
「白魔法使い狩り。今度も大成功ー。あの憎ったらしい金糸の君になんか、この力、渡すものか」
よかったねー、と、ユエは笑う。自分に向かって。
「ユエ、よかったね。これで世界はまた一つ、白から遠のいた」
虚無の闇、その心地よさに、ユエは目を細めた。
「何も無くなっちゃえばいい」
「どーやって捨てようかしら? おうちのゴミバコにポーイしちゃおっかしら!」
虚無の闇の中で、ユエは嬉しそうに、手の中の銀の光をこねくり回した。
「シルディの力を、ユエがゴミバコにぽい! うふふふ!」
ユエは笑う。
「シルディが今まで真面目に頑張って前向きに一生懸命、キヨラカに成長して身につけた、きれいなきれいな力を、……わたしがごみばこに捨てちゃうの!」
嗤う。
それは、歪んだ悦び。
「ふふふふふ」
リディアスのばーか、とつぶやいた。
「おまえになんかやらない。おまえなんかだいきらいだ」
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